第131話:立場逆転
ヨーゼスはヴィンセントの笑みをカナタを裁くいい機会を得たからだと勘違いし、似たような笑みを浮かべる。
「現在、私たちが募った勇士が泊まっている宿屋を探しております。見つかり次第連れてきますので、その時は厳しい裁きをお願い――」
「いいえ、その必要はありませんよ」
「……は?」
予想外の返事にヨーゼスは困惑し、ルキアとローヤンは顔を見合わせる。
そのタイミングでヴィンセントが右手を上げると、三人はさらに困惑の色を濃くさせた。
「……あの、フリックス準男爵様? いったい何を?」
ヨーゼスの言葉にヴィンセントはただ黙って成り行きを見守っている。
答えるつもりがないと気がついたヨーゼスは苛立ちを募らせていくが、状況が動いた事でその苛立ちが爆発してしまう。
「……おい、兄貴。誰か出てくるぞ?」
「……だ、誰?」
「……なあっ! あ、あれは――ライルグッド殿下!」
「……おいおい、ちょっと待てよ! それに、あの女は!」
「……え? な、なんで?」
「……どうして……どうしてお前が殿下や準男爵様の館にいるんだ――カナタ!」
ヴィンセントの合図によって姿を現したのはライルグッドだけではなく、続いてカナタとリッコも外に出てきた。
その姿を見た三人は驚愕、困惑、怒りとそれぞれに反応を見せる。
付き従っていた者たちは何が起きているのか理解できずざわつき始めていた。
「お、お久しぶりでございます、殿下」
「貴様、ただの平民が俺様に対して直答が許されると思っているのか?」
「し、失礼いたしました!」
ヨーゼスの言葉に答える事なく、ライルグッドは王族としての威厳を示すためにきつい口調で一喝する。
三人が片膝をついたのを見た者たちも慌てた様子で膝をついていく。
しかし、三人は下を向きながらもその表情は怒りに染まっていた。
「何があったのだ、ヴィンセント?」
「はい、殿下。こちらは元ブレイド家の者たちですが、カナタ様をお見かけしたようで鉱山送りの裁きを求めると申しておりました」
(……カ、カナタ
どうしてカナタがヴィンセントに様付けされているのか理解できず、ヨーゼスは手のひらに爪痕が残るほどに拳を握りしめる。
「こいつらは何を言っているんだ? カナタは裁きを受ける以前にブレイド家を勘当されていた。であれば、裁きの対象になるわけがないだろう」
「はい。それに、鉱山送りの裁きをという事ですが、仮に裁きを下すとなったとしても次男以下の彼らが平民に身を落とした事を考えれば、カナタ様も平民にするのが妥当。ですがカナタ様はブレイド家勘当されて平民になっておりますから、全く持って意味のない主張でございます」
「お、お待ちください! 我らだけが裁きを受けて、どうしてカナタだけが無罪放免なのですか! それに、元々はこいつが変なナイフを作ったのが原因で――」
「黙れ。直答を許していないと言っただろうが」
「――!!」
膝をついたまま顔を上げたヨーゼスに向けて放たれたのは、ライルグッドの本気の殺気である。
真正面から殺気を受けたヨーゼスは呼吸困難に陥り、体中から一気に汗が噴き出した。
「……どうした、何か言う事はないのか?」
「……も……もうしわけ……ございま、せん」
「ふん。分かればそれでいい。この場の対処は任せていいな、ヴィンセント」
「はっ! お任せください、殿下」
「行くぞ、カナタ」
「あ、はい」
「ふんふふーん」
ライルグッドの合図でカナタとリッコも踵を返す。
しかし、途中でライルグッドが立ち止まり振り返ると、三人へ釘を刺した。
「言っておくが、カナタはフリックス準男爵の館で大事な客人として受け入れている。また、俺様の庇護下にある事も付け加えておくが……この意味が分かるな?」
最後の一言だけ声音が重くなり、三人は頭を下げながら大きく頷いた。
「では、殿下。そろそろ」
「あぁ。中で待っているぞ、ヴィンセント」
こうしてライルグッドはカナタとリッコと共に館へ戻っていった。
「……さて」
ずっと柔らかな声音で話を進めていたヴィンセントだったが、ここにきてライルグッドに勝るとも劣らない殺気を込めた重い声を発した。
「殿下も仰いましたが、カナタ様は私だけではなく殿下の大事な客人です。今回に限り無罪放免といたしますが、彼に対して不利益になる行動が再び確認された場合は、それ相応の報いを受けてもらう事になると理解しなさい」
「「「は、はい!」」」
三人の返事を聞いたヴィンセントは満足そうに笑みを浮かべると、最後にこう言い放つ。
「あなた方は運がいいですね。貴族の時間をこれだけ無意味に消化させたのですから、人によってはその場で首を刎ねられてもおかしくはなかったですよ?」
暗に次は首を刎ねると言い放ったヴィンセントは、誰も見ていないにもかかわらず満面の笑みを浮かべながら館に戻っていった。
「……許さん……絶対に許さないぞ、カナタアアァァァァッ!」
しかし、ヨーゼスはヴィンセントの言葉を聞いていながらも、カナタに対する怒りが口から零れ落ちるほど怒り狂っていたのだった。
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