第130話:騒動からやって来た
メイドはヴィンセントの横までやって来ると、何やら耳打ちをしている。
先ほどまで興奮していたヴィンセントだったが、メイドの報告を受けていると次第に真顔になっていき、最終的には小刻みに震え出した。
「……分かった。外で待たせておきなさい。……なんですって、大勢で? ……はぁ。分かりました、私が直接話をいたしましょう」
メイドは顔を離してカナタたちに会釈をすると、すぐに玄関の方へ向かっていった。
「……ヴィンセント、どうしたんだ?」
「どうやら、招かれざる客がやって来たみたいです」
「私も護衛として一緒に行きましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。……むしろ、カナタ様と一緒にこちらにいてくれた方がいいかもしれません」
「どういう事ですか?」
まさか自分の名前が出てくるとは思わず、カナタは慌てて口を開く。
「あぁ、カナタ様が何かをしたとかではないのですよ。ただ、相手方がカナタ様の関係者といいますか……お兄様方のようでして」
「……え?」
「あいつ、まだカナタ君に絡んでくるのね!」
「あの、大勢って聞こえたんですけど、もしかしてルキア兄さんだけじゃなくて、ヨーゼス兄さんやローヤン兄さんも?」
「そのようですが、加えてガラの悪い連中もいるようですね」
元領主の息子たちが現領主に何をしているのかとカナタは憤る。
そして、自分のせいでヴィンセントを巻き込んでしまったという後悔の念も強かった。
だからだろう、カナタは立ち上がるとヴィンセントにはっきりと口にした。
「俺も行きます」
「カナタ様が顔を出すと、彼らがどのような行動を取るか分かりません。危険ですよ?」
「それでも、俺が顔を出さないと終わらない気がするんです」
「……あれ? でも、どうしてあいつら、カナタ君がここにいるって知っているのかしら?」
リッコの言葉にカナタも考えを巡らせる。
昨日のやり取りの中ではフリックス準男爵の館に泊まっているは口にしていない。どこかの宿屋に泊まっていると考えるのが普通ではないか。
ルキアと遭遇したのは昨日の夜遅くで、そこから宿屋を回るというのは常識外れもいいところである。
朝になって集めた者たちを宿屋を回ったのかと考えたが、それも常識的に考えてあり得ない。そもそも、宿屋が大事な客の情報をはいそうですかと伝えるはずがなかった。
「……どうにも読めませんね」
「……ならば、こういうのはどうだ?」
思案顔のヴィンセントに向けて、ライルグッドが一つの提案を口にする。
その話を聞いたヴィンセントは頷いてカナタへ視線を向けると、カナタも同意を示した。
「では、まずは私が行ってまいります。皆さまはこちらから様子を窺っていてください」
優雅に一礼をしたヴィンセントが食堂から姿を消すと、カナタたちは窓から彼の動向を見守っていた。
◆◇◆◇
ヴィンセントが館の門の前にやって来ると、集団の先頭に立つヨーゼスと目が合った。
「おはようございます、フリックス準男爵様。早朝より騒がしくしてしまい、申し訳ございませんでした」
声音は非常に柔らかく、まるで自分がまだ貴族であると言わんばかりの言葉遣いで話し掛けてきたヨーゼス。
余裕があるのか表情もにこやかなものだが、それはヴィンセントも同じだった。
「確かに騒がしいですね。今回はどういったご用件なのでしょうか?」
負けず劣らずの笑みを浮かべながら、前置きもなく用件を聞く。
ヴィンセントの態度に隣に立っていたルキアが顔をしかめたものの、ヨーゼスは表情を崩す事なく用件を口にした。
「単刀直入に申し上げます。現在、この都市には裁きを受けなければならない人物が訪れています」
「裁きを受けなければならないというと、お尋ね者でも目撃したのですか? であれば、こちらではなく衛兵の詰め所に顔を出すべきでしょうね」
「私たちもそうすべきかとは思ったのですが……相手は、お尋ね者以上に面倒な相手でして、ここは領主様のお耳に直接お伝えせねばならないと思い参上いたしました」
「……ほほう? それは、どのような人物なのですかねぇ?」
ヨーゼスの言葉から事情を理解したヴィンセントは、内心で嘲笑していた。
何故なら、彼らは盛大な勘違いをしてしまっているからだ。
ライルグッドの提案を受けてよかったと、今ならば断言できる。これならば、彼らの困惑した顔を間近で眺める事ができると考えた。
「はい。はっきりと申し上げます。現在、この都市には――ブレイド家最後の人物、カナタ・ブレイドが滞在しています! 裁きを逃れていた奴を裁き、鉱山送りにするべきです!」
自信満々にそう言い放ったヨーゼスを見つめながら、ヴィンセントはさらに笑みを深めた。
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