第129話:興奮するヴィンセント
翌朝になるとカナタは自ら作った魔法袋の検証に入っていた。
昨日は出来上がってそうそうにデートへ出掛けたので検証ができていなかったのだ。
「……よし、お湯もそのままだし、氷も溶けていないな。食べ物も腐った様子はないし、保存に関しては問題なさそうだ」
次に容量について確認を行う。
ヴィンセントが言うには容量無限という事だが、本当にそのような規格外品が出来上がっているのか、カナタはすぐに納得する事ができなかった。
「しかし、どれだけのものを入れたら検証できるんだろうなぁ。……とりあえず、こっちのベッドを……おぉ、入ったよ」
その後はタンス、剣、ナイフ、部屋にある全てのものを魔法袋に入れてみたのだが、さすがは容量無限とあって部屋の中が空っぽになってしまった。
「……まあ、そうなるよなぁ」
何もなくなった部屋を眺めながらそんな事を考えていると、部屋がノックされてドアが開かれた。
「カナタ君、朝食の時間……なんだけど…………なんで何もないの?」
「検証していたんだけど……まあ、部屋の全部がこの中に入っちゃったのよ」
「……それじゃあ、とりあえず中のものを元の場所に戻してから、食堂に来てちょうだいね」
「あ、はい」
何やら呆れられてしまったカナタだが、リッコの言う事が正しいと理解しているので素直に従う事にした。
「……これ、本当に俺が使っていいんだよな?」
そんな疑問を口にしながら家具を元の場所に戻した後、カナタは食堂へ向かったのだった。
食堂にはすでにライルグッドとヴィンセントも揃っており、カナタは遅くなった事を謝りながら席に着いた。
「リッコから聞いている。まさか、全ての家具が入ってしまうとはな」
「だから言ったではありませんか。容量無限だと」
「いや、そう簡単に信じられるものじゃないですって」
「とはいえ、これで旅もだいぶ楽になるわねー!」
それぞれが感想を口にしていきながら朝食は進んでいき、話題はカナタの錬金術の方へ移っていく。
話題を提供したのはヴィンセントだ。
「それにしても、カナタ様はどこで錬金術を知識を学ばれたのですか?」
「ワーグスタッド領のスライナーダで、職人ギルドのギルマスに教えてもらいました」
「ギルドマスターが直々にですか。素晴らしいですね」
「とはいえ、ほとんどが鍛冶に時間を割いていたので錬金術はかじる程度でしたけどね」
「それであれだけの錬金術ができるとは……いや、これはもう錬金鍛冶自体が一つの手法だと捉えて考えた方が良いかもしれませんねぇ……うんうん、そうですか」
「……おい、ヴィンセント。悪い癖が出てしまっているぞ?」
何やら考え込んでしまったヴィンセントを横目にライルグッドが口を挟むと、彼は恥ずかしそうに笑いながら顔を上げた。
「いやはや、すみません。どうも錬金術の事になると視野が狭くなってしまうもので」
「いえ、それの気持ちは分かります。俺も鍛冶の事になると頭の中がそれで埋め尽くされてしまいますから」
「そうですか! やはりカナタ様も職人なのですね!」
「ヴィンセント様~?」
今度は興奮して立ち上がりそうになったところをリッコに指摘されてしまい、浮いたお尻をゆっくりとイスに戻していた。
「さて、今日の二人の予定はどうなっているんだ?」
「あら、恋人の予定を確認するなんて野暮じゃないですか、殿下?」
「リッコと殿下は本当に仲がいいよなぁ」
「あら、焼いちゃったの?」
「俺がこいつと仲がいいわけがあるまい。冒険者としての腕は確かだがな」
「リッコ様を認めてはいるのですね」
「そうでなければ敬語もなしで会話などさせるか」
他愛のない会話の中からライルグッドのリッコに対する評価が不意に口にされると、彼女は何故か恥ずかしそうに頭を掻く。
そんな姿を見てカナタは内心でとても嬉しく思っていた。
「話を戻すぞ。もし予定がなければヴィンセントに少し付き合ってくれないかと思ってな」
「ヴィンセント様にですか?」
「はい! カナタ様の錬金鍛冶の力があれば、素材集めに私財をつぎ込んだ特別な融合ができるかもしれないのです!」
「出た、職人モードのヴィンセント様だ」
今度は完全に立ち上がり、天井を見つめながら両手を胸の前で重ね合わせている。
リッコの言葉にも動じない――否、聞こえていないヴィンセントはやや血走らせた瞳でカナタに視線を注ぐ。
「どうでしょうか、カナタ様! 私の悲願に協力してくれませんでしょうか!!」
「えっと、協力するのはもちろん問題ないんですが……その、俺でいいんですか?」
「……それはどういう意味だ、カナタ?」
「だって、その融合ってヴィンセント様が私財をつぎ込んでまで成そうとしていた特別なものなんですよね? もし錬金鍛冶で成功したとして、それがヴィンセント様のためになるのかなって思ったんです」
自分がヴィンセントの研究を盗んでしまうのではないかと危惧していた。
しかし、カナタの心配は完全な杞憂に終わってしまう。
「もちろん構いません! むしろ、私はその素材たちが融合し光り輝くところを見るためだけに素材を集めたのですから!」
「……だそうだ」
「……こりゃダメだね」
「……ま、まあ、ヴィンセント様がいいなら、いいのかな?」
カナタがやや呆れたようにそう口にすると、そのタイミングで食堂にメイドが早足でやってきた。
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