第128話:面倒な兄たち

 ――カナタがライルグッドたちと話をしている頃、とある酒場では三人の男性が集まり謎の会議を始めていた。


「カナタがいただと?」

「そうだ! あの野郎、女を連れてこっちに戻って来てやがった! それだけじゃねえぞ、俺を投げ飛ばしやがったんだ!」

「……俺は、痛いの、嫌だ」

「んなもん俺だってそうだよ! くっそ、まだ腕がいてぇよ」


 掴まれていた右腕のさすりながらルキアが苛立ちを露わにする中、次男のヨーゼスは冷静に現状を把握しようとしていた。


「カナタはどうしてアッシュベリーに戻ってきたんだ?」

「あぁん? そんなもの知るかよ」

「……デート?」

「んなわけあるか! だったら俺らがいるこんなところに来るはずがねぇだろうが!」

「うぅぅ、ごめん」


 四男のローヤンはルキアに怒鳴られると肩を落として下を向いてしまう。

 そんな二人のやり取りを横目に見ながら、ヨーゼスはまさにルキアが口にした事を考えていた。


(こいつの言う通りだ。もし親父たちが鉱山送りになった事を知っていたなら、俺たちが平民になっている事も知っていたはずだ。こうして顔を合わせる可能性も考えられたわけで、ならばわざわざ足を運ぶ理由がどこにもない)


 ヨーゼスは顔には出さなかったものの、長男のユセフを嫌っていた。

 自分よりも劣るユセフが、長男というだけで家督を継ぐ事が決まっていたからだ。

 両親と長男が鉱山送りになった事に関しても、ルキアとローヤンは悲しみを覚えていたのだが、ヨーゼスだけはそういった感情を全く感じてはいなかった。


(どうしても足を運ばなくてはならなくなったと考えるのが妥当だろうな。ならば、今はどこに泊まっている? まあ、アッシュベリーの宿屋は数も少ないのだから、人海戦術で探す事は可能だがな)


 そして、カナタが勘当された当初はそれが当然だと思っていたものの、自分たちが平民になり汗水流して働いている状況下で、一番下に見ていた相手が女を連れて現れたとなれば内心の怒りは計り知れなかった。


(……なるほどな。親父が牢屋の中でもカナタへの恨み節を募らせていたのは、こういう感情からなのか)


 自分に関係がなければヨーゼスが怒りを覚える事もなかっただろう。しかし、今はすぐ近くに怒りの根源である存在がいると分かってしまっている。

 そうなれば、この怒りを解消したいと考えてしまうのは仕方がないのかもしれない。


「……ルキア、ローヤン」

「あん? なんだよ、兄貴?」

「……ど、どうした、の?」

「ちょっと耳を貸せ。俺たちでカナタをぶっ潰すぞ」


 ヨーゼスの言葉にルキアは下卑た笑みを浮かべ、ローヤンは目を泳がせたものの小さく頷く。

 二人からしてもユセフは尊敬に値しない存在だったが、ヨーゼスは違っていた。

 頭の切れる自分たちの兄であり、ユセフがいたせいで同じ境遇である事も理解している。

 だからこそ、二人はヨーゼスの提案であれば多少無理な事であっても納得してしまう癖がついていた。


「……はっはーん、なるほどねー」

「……わ、分かったよ、ヨーゼス兄さん」

「……それと、腕っぷしの強い奴にも声を掛けておけよ?」


 三人は話し合いを終えると酒の入ったグラスを掲げて打ち鳴らす。

 一時間ほど経つとローヤン、ルキアと酒場を後にすると、残されたヨーゼスは腕組みをしながらさらに別の人物を思い浮かべながら思考を重ねていく。


「……あいつにも声を掛けておくか。まあ、使い物にはならんだろうがな」


 そして、残った酒を一気に飲み干したヨーゼスも酒場を後にすると、そのままあいつと口にした人物が入り浸っている酒場へと足を向けたのだった。

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