第124話:二度目のデートは夜景と共に
身だしなみを整えた二人が真っ先に向かった先は、アリーの洋服屋だった。
提案したのはリッコだったが、カナタも大賛成でしっかりと着こなした自分を見て欲しいと思っていた。
「あらあら! まあまあ! とっても似合っているじゃないか!」
「あ、ありがとうございます、アリーさん」
「それにしても、やっぱりあたいじゃなくてリッコちゃんの選んだ洋服だったかー」
「関わっていた時間は負けますけど、濃さなら負けませんよ!」
「あらあら、お熱いわねぇ」
「ちょっと、リッコ! 恥ずかしいからその言い方は止めてくれ!」
別に何かをしたわけでもないのだが、カナタは何故か赤面している。
自分の言い方がマズかったのかとリッコは首を傾げており、その様子を見てアリーはニヤニヤが止まらない。
「そ、それじゃあ、着た姿を見せに来ただけだから! そろそろ行きますね!」
「はいよ! また寄ってちょうだいね!」
「ありがとうございました、アリーさん!」
カナタは照れ隠しで慌てながら、リッコはお礼を口にして洋服屋を後にした。
「照れちゃって、可愛いわね~、カナタ君は!」
「い、いいだろう! アリーさんには小さい頃から世話になってたし、あんな嬉しそうな顔を見たらこっちも嬉しくなっちゃって……」
「嬉しくて恥ずかしくなったの? カナタ君って、変だね~」
「この話はもう止めよう! ほら、行くぞ!」
「はいはーい!」
再び顔を真っ赤にさせながら大股で歩き出したカナタを見て、リッコは嬉しそうに笑いその背中を追い掛け、隣に並んだのだった。
カナタが案内した場所は、アッシュベリーを出て東へ少し進んで先にある丘の上だった。
大きな一本木が目印になっているその場所からはアッシュベリーを一望する事ができ、建物や屋台からの光が美しく輝いている光景が広がっていた。
「うわあ、綺麗だね、カナタ君!」
「ここは俺のお気に入りの場所だったんだ。ベンチもあるし、一人になるには最高の場所だったんだよ」
「そこで一人になるにはって言っちゃうのが、カナタ君だよねー」
「まあ、あの頃はな。家に俺の居場所なんてなかったし」
ベンチはアッシュベリーを一望できる場所に設置されており、カナタが腰掛けるとその隣にリッコも腰を下ろした。
「でも、そのおかげで俺はこの場所を知っていて、こうしてリッコと来られたんだし、あの頃の俺を今なら褒めてあげられるよ」
「うふふ。そういう事にしておいてあげるわね」
「それにさ……ここから見られる景色って、これだけじゃないんだぜ?」
「え、そうなの? でも……他に見れそうなものなんてないわよ?」
リッコは座ったまま辺りを見回してみたが、それらしき景色を見つける事ができないでいる。
すると、この場所に来るまでに結構な時間が経過していたのか一つ、また一つとアッシュベリーの光が少しずつ消えていく。
屋台が営業を終了し、家庭では子供たちを寝かしつけていき、最後には親も就寝する。
営業している酒場はあるものの、アッシュベリーにある酒場は多くない。
丘の上から一望できていたアッシュベリーの輝きは、今では小さな礫のようになっていた。
「……まさか、これじゃないわよね?」
「違うよ。上を見てみて」
「上? でも、こっちに来るまでにも空は見た……わよ……え?」
リッコが口にした通り、丘へと続く上り坂を進みながら雲ひとつない夜空を見上げていた。
その時にも綺麗な星空だと思っていたリッコだったが、特筆して綺麗だとは思えなかった。
どこからでも見る事ができる、普通の星空だったのだ。
だが、アッシュベリーの光が消え、丘の頂上から見上げた星空は、先ほど見上げた星空とは全く異なる光を放っていた。
「……なんで、どうして?」
「驚いたか?」
「……うん! とっても綺麗! こんな星空、見た事がないわ!」
丘の真上に位置する空、この場所だけに満天の星が浮かんでおり、何度も星が流れては消えていく。
瞬く星はなく、全ての星がずっと光り輝いているのだ。
「なんでこうなっているのかは今でも分かっていないんだけど、この場所、空間だけは空気が澄んでいて、光が小さくなればなるほど空に浮かぶ星が光り輝いていくんだ。淡い小さな輝きしか持たない星も、この場所からなら光り輝く事ができるんだよ」
少し視線を外してしまうと、その先の空に浮かぶ星はいつもの星空と変わりなく、丘の真上に浮かぶ星空だけが光り輝いている。
この事実を知っているのはカナタだけであり、ヴィンセントもアッシュベリーで暮らす住民も、誰一人として知らない事だった。
「家に帰るのが嫌すぎて、こんな遅い時間まで一人で時間を潰していてさ、その時に見つけたんだ」
「……大変、だったんだよね」
「まあな。でも、さっきも言ったけど、今ならあの時の俺を褒めてあげられるよ」
そう口にしているカナタの視線は星空ではなく、横に座って星空を見ているリッコを見ていた。
決意を胸に、カナタはベンチに置かれていたリッコの手に自分の手を重ねる。
その瞬間、リッコの手がビクッと震えたのが分かった。
「……その! 付き合うってなったけど、あの時はなんだかバタバタしていたし、殿下たちもいたしで、きちんと話をできていなかったと思って!」
「……うん」
返事をしながら、リッコの視線がカナタと交わる。
「俺は、リッコが好きだ。家の事とか関係なく、本気でリッコの事が好きなんだ」
「……私も、カナタ君が好き、大好き!」
「これから大変な事の方が多いと思うけど、絶対にこの手は離さないよ」
「私だって、離すつもりはないからね!」
お互いに見つめ合いながらはっきりと交わされた愛の告白を受けて、二人は微笑みを浮かべると――優しく唇を重ね合わせたのだった。
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