第110話:ミスリルと合わせるのは
三人は次にミスリルと合わせる素材について話し合う。
「そもそも、ミスリルが魔力と親和性が高いのに、それ以上の素材ってあるの?」
「属性に特化した素材であれば問題はない」
「手持ちの素材で氷属性に特化したものはありますか?」
「そうだなぁ……これなんてどうだ?」
ライルグッドは腰に下げていた袋に手を突っ込むと、中から袋の大きさからは想像できないサイズの鉱石を取り出してテーブルに置いた。
「……で、殿下、それは?」
「これか? これは
「いや、違います! その袋ですよ! それってもしかして、
素材の話をしていた流れから氷針石の事を言われていると思ったライルグッドだが、カナタが注目していたのは腰の袋だった。
「あぁ、その通りだ」
「……も、もしかして、道中の魔獣もそれに入れているんですか?」
「当然だろう。魔獣素材は金にもなるしな」
「私が狩った魔獣も入れてもらっているわよ?」
「……殿下に荷物持ちをさせるなよ!」
「構わん。そもそも、俺から言い出した事だしな」
「ほらねー?」
魔法袋を持っているからといって殿下に持たせていいのかと呆れてしまったが、当の本人が問題ないと言ってしまっているのだから、これ以上は何も言えなくなってしまう。
それならばと本来の目的である素材、氷針石へ目を向ける事にした。
「……それじゃあ、これが氷属性に特化した素材なんですね?」
「あぁ。北の領地、それも氷山の山頂でしか採掘ができないとされている貴重な鉱石だ。鉱石自体の耐久度は低いからこれだけで剣を作る事はできないが、ミスリルと混ぜ合わせる事で硬度と氷属性への親和性を高めた剣を作る事ができるはずだ」
「後は、カナタ君の魔力が持つかどうかって事だね」
「……あぁ、そうなるな」
ミスリルを使った事もなければ、氷針石を使った事もない。もっと言ってしまうと、どちらも初めて手にした素材でもある。
普通に鍛冶をするにしても知識としてしか存在を知らなかったものであり、氷針石に関して言えば存在すらも初めて知った素材だった。
「ちなみに、失敗したらどうなるんだ?」
「失敗する事はありません。ただ、何も起こらないだけです」
「そうなのか?」
「ただ、あくまでも俺が検証した中でも結果なので、予想外の事が起きる事も考えられます。……やっぱり、別の何かで試した方がいいですよね?」
ミスリルの剣も氷針石も貴重なものだ。仮に失敗してどちらも使い物にならなくなってしまっては元も子もない。
ミスリルの剣はアルフォンスのものであり、氷針石はライルグッドのものだ。
さらに言うと、アルフォンスにはミスリルの剣を使って新しい剣を作っていいのかの確認すらしていないので、目を覚ましたら愛剣がなくなっていた、なんて自体は絶対に避けなければならなかった。
「別に構わんぞ」
「……え?」
「ミスリルの剣はまた贈ればいいだけだし、氷針石も在庫はまだあるからな」
「……また贈れるんですか?」
「あぁ」
「……ミスリルの剣ですよ?」
「問題ない」
「……氷針石も貴重な鉱石なんですよね?」
「言っただろう。在庫はまだあると」
「…………そ、そうですか」
貴重とはなんなのか、言葉の意味を考え始めそうになったカナタだが、時間は有限であると自らに言い聞かせてなんとか冷静さを取り戻そうとする。
「なんなら、加工前のミスリルもあるが、こっちを使うか?」
「使いません! アルフォンス様の剣を使わせていただきます!」
しかし、取り戻そうとした冷静さはライルグッドの発言で吹き飛んでしまった。
「そうか? 一から作り出した方がより良い剣が出来上がると思うんだがなぁ?」
「結局作るのは四等級以下の剣ですよね? それを使ったら三等級以上の剣ができちゃいますよ!」
「む、それは困る。ならば加工前のやつは取っておくか」
「そうしてください!」
「カナタ君の殿下への対応が上手になったわねー」
「確かにその通りだな」
「……あ」
自然と大声をあげている自分に気づき、カナタは両手で口を覆うがすでに遅い。
リッコとライルグッドはニヤニヤと笑みを浮かべ、ヴィンセントはその後ろで苦笑していた。
「……はぁ。まあ、確かにそうですね。こっちの方が俺としてはだいぶ楽です」
「だから最初から言っているだろうが」
「いやいや、言われたからっていきなり態度を崩せるわけがないじゃないですか」
「こいつはすぐに崩していたが?」
ニヤニヤと笑う顔を変える事なくライルグッドは親指でリッコを指差し、彼女も笑いながら何度も頷く。
そんな二人を見てカナタは盛大なため息をつきながらも、その後には気合いを入れてミスリルの剣と氷針石に手を伸ばした。
「……ここで作ってもいいですか、ヴィンセント様?」
「え? か、構いませんが、ここで作れるんですか?」
「はい。せっかくですし、見てもらおうかな」
ずっと驚かされ、茶化されていたカナタだが、唯一仕返しができそうなヴィンセントを驚かせてしまおうと考える。
ヴィンセントとしては完全にとばっちりなのだが、彼としても錬金鍛冶をこの目で見たいと思っていたのでありがたいと考える事にした。
「それでは、始めます!」
カナタが錬金鍛冶の力を発動させたのと同時に強烈な光がミスリルの剣と氷針石から放たれる。
無我夢中で力の維持に全力を注いだカナタは、剣の完成を見届ける前にその意識を飛ばしてしまい、テーブルに突っ伏したのだった。
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