第109話:アルフォンスの新しい剣

 リッコからの説教を受けているライルグッドとヴィンセントを置いておき、カナタはアルフォンスのための剣について考える事にした。

 アルフォンスから預かっている剣身が欠けた剣があるのだが、カナタはこれを使って新しい剣を作るつもりである。

 合わせる素材から探さなければならないが、こちらはライルグッドが素材を提供してくれるようなので、問題はないだろう。

 あとは、素材の良し悪しによって消費される魔力量が足りてくれるかどうかだが、ライルグッドの剣が一等級品に仕上がった事もあり、きっと大丈夫だろうとカナタは考えている。


「……殿下。アルフォンス様のために用意してくれる素材って、どのようなものがありますか?」


 正座をしているライルグッドに声を掛けると、彼は説教地獄から抜け出せると考えて飛びついてきた。


「さ、様々な素材があるぞ! 銀鉄、精錬鉄はもちろん、各種属性の付与に適した素材だってある!」

「アルフォンス様が使っていた剣、これの素材は分かりますか?」


 質問を口にしながら、カナタはアルフォンスが使っていた剣をテーブルの上に置いた。


「それはミスリルだな」

「ミスリルですか……」


 銀鉄、精錬鉄が市場に出回っている素材であるのに対して、ミスリルは王侯貴族が率先して確保に動く高価であり、武具に加工するには打ってつけの特徴を持つ素材でもある。

 特筆すべき特徴は融点が非常に高く、整った施設がなければ加工はできないとされているが、その分丈夫な武具を作る事ができ、さらに魔力との親和性が非常に高く、魔法を多用して戦う者が使うと実力が一気に跳ね上がると言われている。

 カナタが聞いた話では、素材全てにミスリルを使わなくても多少なり融合させるだけでも魔力との親和性を上げる事ができると聞いていたのだが、アルフォンスの剣はカナタの想像を軽く超えていた。


「あぁ、素材全てがミスリルだ」

「そうですか、素材全てが……え……は?」

「だから、この全てがミスリルなのだ。それを簡単に欠けさせるアルの魔力量には呆れてものが言えん」

「……いやいや! 確かにアルフォンス様の魔力量が異常なのは分かりましたけど、これだけのミスリルを用意できるなんて!」

「何を言っているんだ? 俺は王族、しかも第一王子だぞ? 専属の護衛騎士のためにミスリルを用意するなど容易いぞ?」


 ミスリルという素材にばかり目がいっていて忘れていたが、ライルグッドは第一王子であり、ミスリルを確保するには打ってつけの立場の人間だった。

 王家御用達の商家に依頼する事もできれば、ライルグッドが懇意にしている貴族に融通してもらう事もできるだろう。

 莫大な資金が必要にあるはずだが、それもライルグッドなら問題にはならないのかもしれない。


「……これ、研ぎ直すだけでもいい気がしてきました」

「いや、ダメだろ。欠けてしまったんだからな」

「そうですね。それに、これは元々四等級品です。六等級品でもカナタ様が作られた剣で耐えられたのなら、やはり作り直した方がいいと思いますよ」


 自分も逃れたい一心でヴィンセントも話に入ってきてしまい、リッコはため息をつきながら説教を終わりにした。


「まあ、私もヴィンセント様の意見に賛成ね。正直、カナタ君の剣を使うと、他の剣なんて使えなくなるもの」


 リッコの意見にライルグッドが大きく頷いている。


「殿下が元々使っていた剣はもっと等級が高かったんですよね?」

「三等級品だな。本来、王族の子弟なら二等級品以上を贈られるのが通例だが、陛下は我らを厳しくしつけている。故に、実力に見合ったものを賜るのだ」

「それで三等級品を賜れるって事は、やっぱり殿下は凄腕の騎士なのね」


 実際に並び立ったリッコがそう口にすると、ライルグッドは苦笑を浮かべた。


「まだまだだ。俺はアルとの模擬戦で一度も勝てていないからな。だからこその三等級品なのだろう」


 ライルグッドが口にするには、せめて護衛騎士よりは良い剣を携えろとの事で三等級の剣を賜っている。

 そして、ライルグッドが護衛騎士に贈れる剣は自らが携えている等級よりも下のものではならない。


「部下に示しがつかないからな」

「そうなると、今は一等級品の剣を持っているわけだから二等級品までなら問題はないのね!」

「……いや、それは問題になる」

「どうして?」

「俺の弟たちも三等級品、中には四等級品までしか賜っていない者もいる。彼らよりも等級の高い剣を俺が贈るのは、彼らを見下していると思われかねない」


 継承権争いはまだまだ先だが、それでも与している貴族が暗躍する材料を与えるわけにはいかないとライルグッドは口にした。


「となると、アルフォンス様には四等級まで、なおかつ大量の魔力に耐えられる剣を作らないといけないんですね」

「できそうか、カナタ?」

「分かりませんが、アルフォンス様が目覚めるまでには絶対に作り出してみせます」

「まあ、カナタ君なら問題なくできそうだけどね」


 三人の会話を聞いていたヴィンセントは、一人だけ呆れ顔を浮かべていた。


「……普通は、四等級品でも作れる鍛冶師は限られてくるんですけどねぇ」


 彼の呟きは、三人の耳には届いていなかった。

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