第104話:今後の予定

 客間として使っている部屋にアルフォンスを寝かせると、その足でヴィンセントの執務室へ移動する。

 そこはヤールスが使っていた部屋なのだが、他の部屋や廊下と同じように置き物はシンプルなものに変わり、家具は質実剛健としたものに様変わりしていた。


「こうも変わるものなんですね」

「今の部屋はどうですか?」


 当時の部屋をヤールスは気に入っていたようだが、カナタとしては非常に居心地の悪いものを感じていた。

 しかし、今の部屋を見ているとむしろ心が穏やかになり、心地良さを感じる事ができている。


「……とても気に入りました」

「ありがとうございます」


 ニコリと微笑んだヴィンセントが応接用の椅子にカナタたちを座らせると、併設されている台所でお茶を入れてから戻ってきた。


「それで、殿下。いったい何があったのですか?」

「あぁ。ここに来る途中、少しばかり厄介な魔獣に遭遇してな。討伐する事になった」


 そこからアーミーアント、クイーンアント、キングアントとの戦いについてが語られ、その中でアルフォンスが魔力を使い切って倒れてしまった。

 ライルグッドはアルフォンスを休めるために、目的地を王都からフリックス準男爵領に変更したのだと告げた。

 話を聞き終わったヴィンセントは顎に手を当てながら瞼を閉じて何やら考え始めたのだが、しばらくして開かれた視線はカナタに向けられた。


「……アルフォンス様は魔力の制御が不得手だったと記憶していますが、それを補えるものを手にしたという事ですか?」

「えっと、俺が作った剣を使ってキングアントを倒してくれました」

「カナタ様が作った剣、ですか? ……しかし、失礼を承知で申し上げますが、あなたの鍛冶の腕前はそこまで高くないという評価があったはずでは?」


 ヴィンセントはこの地を治めるにあたって、領民から話を聞いて回っていた。

 その中でブレイド家の評価というのも調べており、その中でカナタの評価がそこまで高くはない事を知っていたのだ。

 昔のカナタであれば錬金鍛冶の事をすぐに伝えていただろうが、錬金鍛冶をライアンが所望していると知り、今は伝える事に躊躇いを覚えていた。

 自分だけでは判断ができないと思ったカナタは、視線をヴィンセントからライルグッドへ向けた。


「構わん。ヴィンセントは俺が信頼している友人の一人だからな」

「殿下にそのように言っていただけるとは、照れますね」

「ふん! 学友なのだから当然だろう」


 腕組みをしながら視線を逸らせたライルグッドを見て、ヴィンセントは苦笑を浮かべる。

 一方のカナタは、ライルグッドから許可が下りた事で錬金鍛冶について伝える事にした。


「実は、俺には普通の鍛冶とは違う方法で作品を作る事ができるんです」

「そうなのですか?」

「はい。錬金鍛冶と名付けたんですが、それで作った剣を使ってアルフォンス様はキングアントを倒してくれたんです」

「刃が折れるどころか、欠ける事すらしていなかったぞ」

「そうなのですか? アルフォンス様の魔力を受けて耐え切る剣ですか……とても等級の高い剣を作る事ができるのですね」

「いえ、六等級品でした」

「……は?」


 カナタが口にした等級を聞いて、ヴィンセントは口を開けたまま固まってしまった。

 それも当然で、アルフォンスが使っている剣はどれも等級が四等級以上のものを使っており、その事をヴィンセントは知っていた。

 四等級以上の剣ですらアルフォンスの魔力に耐える事ができずに砕けていたのだから、六等級の剣が刃に欠けすら作らずに耐えたとはどうしても信じられなかったのだ。


「これを見てみろ」

「殿下の剣ですね。おや? しかし、これはいつもの剣とは違うような……あー……え?」


 剣を受け取りしばらく眺めていたヴィンセントだったが、次第にその動きが遅くなり、最終的にはぴたりと止まってしまった。


「……どうだ、驚いただろう?」

「……ま、まさか、これもカナタ様が?」

「えっと……はい」


 ライルグッドが持っていた剣が一等級品だった事に気づいたヴィンセントは、そこから冷静さを取り戻していくと思考を巡らせていく。

 ブレイド家を追い出されたカナタという存在。

 その存在がどのような道を辿って行ったかをヴィンセントが推測する事はできないが、巡り巡ってライルグッドと行動を共にして王都を目指している。

 そこから辿り着いたヴィンセントの結論は――


「……カナタ様を求めているのは、陛下なのですね?」

「……はい」

「であれば、私も全力で協力させていただきましょう」

「よろしく頼むぞ、ヴィンセント」

「もちろんです、殿下」


 カナタたちの事情を知った上で、ヴィンセントは協力を申し出てくれた。

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