第97話:クイーンアント①

 ――一方で巣穴に入っていったリッコとライルグッドは嬉々として剣を振るっていた。

 三等級の剣を振るうリッコと、一等級の剣を振るうライルグッド。

 アーミーアントを相手にするには過剰すぎる二人の武器の前では、紙くず同然に切り捨てられていく。


「どっちだ!」

「こっちね!」

「行くぞ!」

「えぇ!」


 魔獣を目の前にしたリッコの口調はいつものものに戻っている。

 ライルグッドも気にする様子はなく、むしろ会話を楽しんでいるようにすら見えた。


「そっちに行ったぞ!」

「分かってるわよ! そっちはどうなの!」

「問題ない!」


 すでに百を超えるアーミーアントが死骸になって転がっているが、二人の動きに衰えは見当たらない。むしろ、徐々に加速していく。

 こうなると、巣が見つかってしまったアーミーアントの方が可哀想に見えてくるのだが、相手は魔獣なので仕方がない。

 放っておくと近くを通る人に被害が出るだけでなく、近隣の村々にまで被害が広がる可能性が出てくる。

 ここで現況を叩いておく事が、国や民のためになるというものだった。


「結構な数ね!」

「なんだ、ばてたのか?」

「まさか! このまま行くわよ!」

「その意気だ!」


 リッコもBランク冒険者として数々の修羅場を潜ってきており、体力にも自信がある。

 そんな彼女についてきているだけでなく、むしろ前に出ようとしているライルグッドにリッコは少々呆れ顔だ。


「そろそろ巣穴の最深部だと思うわ!」

「ならば、クイーンアントまでもうすぐだな!」

「……殿下、なんだか浮かれてない?」

「……アルが過保護でな、あまり魔獣狩りに参加させてくれないのだ」

「どうして今日は大丈夫だったの?」

「まあ、俺よりも大事な護衛対象がいるからだろうな」


 一国の王子であるライルグッドよりもカナタの方が大事なのかと疑問に感じたリッコだったが、王命で王都へ連れてこようとするくらいである。

 そういう事もあるのかと、無理やり自分を納得させていた。


『――ギュルルリラアアアアアアアアッ!!』


 そんな事を考えていると、奥から通路全体に向けて甲高い鳴き声が響き渡ってきた。

 顔をしかめながらを剣を振るう二人だったが、直後からアーミーアントの動きが活性化した事で前進の速度が一気に落ちてしまう。


「これは、クイーンアントか!」

「面倒くさいわね!」

「仕方がない、魔法を使う!」

「使えるなら、最初から使いなさいよ!」


 怒鳴りながらライルグッドよりも後方へ下がったリッコ。


「サンダーウェーブ」


 直後、雷の波が殺到してくるアーミーアント目掛けて放たれた。

 サンダーウェーブは一匹に着弾すると、まるで波のように周囲へと効果範囲を広げていく。

 数が多くなればなるほどに効果を発揮するサンダーウェーブの真骨頂だ。


「すまんな。数が多い方が効果が出るんだよ」

「はいはい、そうですか。使いどころを見極めていたってわけねー」

「……本当に気持ちの良い奴だな、リッコは」

「……あ」


 今さらながらいつもの口調で話していた事や、怒鳴ってしまった事を思い出して口をつぐむ。


「これからもその調子で頼むぞ」

「……いいのかしら?」

「アルにも言っておくから気にするな。あぁ、それでも陛下の前だけは取り繕ってくれよ?」

「そりゃそうでしょうね。分かったわ」


 苦笑しながらもライルグッドの提案に頷いたリッコは、剣を握り直して前を向く。

 目の前には息絶えたアーミーアントの群れが転がっているが、奥の方からは甲高い鳴き声がいまだに響いてきている。

 これがアーミーアントを鼓舞する声なのか、もしくは子供を殺されて悲しんでいる声なのかは分からない。

 だが、鳴き声の中に含まれる二人への殺気だけははっきりと感じ取る事ができていた。


「……さて、そろそろ終わらせますか」

「そうだな。アルとカナタの事もあるからな」


 ライルグッドも剣を握り直して歩き出すと、曲がり角を進むとすぐにその時はやって来た。


『ギュルルリラアアアアアアアアッ!!』

「……でかいな」

「……クイーンアントでも、上位の方かしら?」


 クイーンアントを目の前にしても冷静に状況を分析している二人。

 まるで本物の女王のように奥の壁にもたれていたクイーンアントはゆっくりと体を起こすと、周囲に残していたアーミーアントの精鋭たちと共に臨戦態勢に入った。


「頭から潰す?」

「そうしよう。まあ、降りかかる火の粉は全力で排除するがな!」


 そして、二人はクイーンアントと精鋭のアーミーアントへ駆け出した。

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