第94話:群れとの遭遇
王都アルゼリオスまでの道中では毎回のようにリッコとライルグッドが魔獣狩りを行い、カナタはアルフォンスから剣の指導を受けている。
カナタとしては最初こそ面倒だと思っていたのだが、職人として剣に携わる身としては指導を受けて初めて気づく事もあり、数日後には指導も楽しく受けられるようになっていた。
そんな最中、いつもよりも早いタイミングでリッコとライルグッドが戻ってきた。
「魔獣の群れを発見した」
「え? む、群れですか?」
「それも結構厄介な魔獣ね」
群れと聞いただけでも恐怖を感じたカナタだったが、次いで発言したリッコの言葉にごくりと唾を飲み込む。
「名前を伺っても?」
「アーミーアント」
「あぁ……厄介ですし、面倒な魔獣ですね」
「……あ、あの、アーミーアントとは?」
三人だけで話が進んでいる中、カナタだけが置いていかれていたので問い掛けた。
「アーミーアントは簡単に言うと、でかい蟻ね」
「でかい蟻かぁ……どれくらいでかいんだ?」
「とりあえず、カナタ君よりもでかいわね」
自分よりもでかいと言われて、カナタは気持ち悪さを覚えてしまう。
「アーミーアントは単独で行動する事はありません。突発的にはぐれたとしても、すぐに群れと合流します」
「一匹当たりの強さはそこまで脅威ではないが、群れているから基本的に厄介だ」
「しかも、今回は巣まであるっぽいのよねぇ」
「巣ですか……厄介と面倒に加えて、強敵となりましたね」
「……あの、巣があると強敵になるんですか?」
厄介で面倒で強敵となれば、この場から急ぎ離れた方がいいのではないかと思いやや早口になるカナタ。
しかし、三人の見解は相談していなくても一致していた。
「「「仕留めよう」」」
「……ええぇぇぇぇ? あの、強敵なんですよね?」
「巣があるという事は、女王蟻が存在しているでしょう」
「女王蟻はアーミーアントの上位種、クイーンアントになる」
「魔獣のランクで言うと、アーミーアント単独でEランク、群れになると数にもよるけど……あの規模ならCランク、クイーンアントは単独でBランクってところね」
淡々と語られるアーミーアントとクイーンアントの恐ろしさに、カナタは背筋が寒くなるのを感じていた。
「ほ、本当に倒すんですか?」
「そもそも、魔獣の群れを見つけて逃げるようじゃあ、冒険者は務まらないわよ」
「騎士も同様です」
「俺はこの国の王子だからな。国民の危険を放っておく事などできるはずがない」
三人の言葉を受けて、これはどうする事もできないと悟ったカナタは、アルフォンスから剣の指導を受けていて心底よかったと思っていた。
「分かりました。それじゃあ俺は、ここで皆さんの帰りを待っていようと思います」
「……カナタ、何を言っているんだ?」
「え? だから、皆さんの帰りを待っていると……」
「護衛対象を一人置いて行くわけがないではないですか」
「いや、でも、どうするんですか?」
「カナタ君も一緒に来るのよ。一人でいるよりも、私たちの近くの方が安全よ?」
「だって、これから行くところはアーミーアントの巣、なんですよね?」
「「「遅れをとるはずがない」」」
「…………そ、そうですか。はは、ははは」
野営地で比較的安全ではあるものの、魔獣が絶対に現れないという保証はない。
それならばリッコたちと共にいた方が安全だと言いたかったのだが、カナタにはその気持ちは伝わっていなかった。
「……あっ! そ、それなら少しだけ待っていてください!」
「どうしたの?」
「お、俺でも振れる剣を、この場で作っておきたいんです!」
魔獣の巣に行くのに木剣しか持っていないというのは不安で仕方がなかったカナタは、荷物の中から銀鉄のインゴットを取り出した。
重すぎず、長すぎない、自分に合ったサイズの剣を作るためにイメージを固めていく。
アルフォンスの指導を受けて、自分に合ったサイズがどの程度のものなのかもすでに把握しており、イメージを固める時間はそう長くはなかった。
「い、いきます!」
強い光を発しないようにと馬車の中で行われた錬金鍛冶は、見事にイメージ通りの剣を作り出すことに成功した。
特別な模様はなく、至ってシンプルな一振りの剣は見た目以上の仕上がりをしており、急ぎで作ったものとは誰も思わないだろう。
「本当にあっさりと出来上がってしまうのですね」
「何度見ても不思議なものだな、錬金鍛冶というものは」
「私は慣れましたけどね。それじゃあカナタ君、そろそろ行くわよ?」
「お、おう、分かった」
本当ならばもう少し心の準備をする時間が欲しいと思わなくもないカナタだったが、アーミーアントが動き出すとさらに面倒になると言われてしまい渋々従う事にした。
巣の場所を知っている二人が先頭を進み、カナタにとって初めての魔獣狩りが始まったのだった。
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