第90話:これからを支える者たちへ

 スレイグ、アンナ、リスティー夫妻への贈り物が終わると、カナタは再びスレイグへ向き直る。


「それと……こちらはアルバたちへ」

「ぼ、僕たちにもあるのかい?」

「よっしゃー!」

「わーい!」


 驚きの声が子供組の方からあがったので、カナタは視線を向けて笑みを返す。


「あ、ありがたいのだが……カナタ君。彼らには実力に見合ったものを贈ろうと決めているのだ。だから……」

「分かっています。ですから、まずはスレイグさんに見てもらいたかったんです」

「えぇーっ! 俺は欲しいよ、父上!」

「ぼくもー!」


 キリクとシルベルが声をあげる中、アルバだけは黙ったままスレイグを見つめている。

 長男として、次期領主として、色々と指導を受けているのだろうとカナタは感じた。


「静かにしなさい、二人共~」

「「えぇーっ!」」


 アンナが立ち上がって二人に声を掛けたが、その間もアルバだけはスレイグを見つめており、その事にスレイグも気づいている。

 だからなのか、贈り物を受け取った時に見せていた泣き顔は鳴りを潜め、真面目な表情を浮かべていた。


「……では、見させてもらおうか」

「よろしくお願いします」


 それぞれで包みを用意していたカナタは、最初にアルバ用の包みを手渡した。

 机に乗せて包みを外し、中を見てわずかに目を見開いたのだが冷静に確認を進めていく。

 続いてキリク用の包みなのだが、こちらは槍という事もありとても長くなってしまう。

 机ではなく子供組に見えないよう机を間に挟んだ逆側の床に置いて確認を始める。

 最後にシルベルだが、こちらはリッコにアドバイスを貰ったので杖――ではなく魔石を包んでいる。

 そのため先の二人とは異なりとても小さな包みになっており、シルベルががっかりしている雰囲気がはっきりと伝わって来た。


「……なるほど、これは……だが、本当にいいのかい?」

「はい。俺は職人ですから、俺にできる最大限のお礼をと考えた贈り物です」


 確認が終わりカナタへ声を掛けたスレイグだったが、彼の返事を受けて決心したのか、視線を子供組へ向けて手招きする。

 顔を見合わせて笑いながら駆け出したキリクとシルベルがスレイグの左右に立ち、ゆっくりと歩き出したアルバが正面に立った。


「……こ、これは」

「うおーっ! すげーよ、カナタ兄!」

「うわー! とってもきれいだね、カナタお兄様!」


 用意されたのは――複数の剣と槍、そして魔石だった。

 手にする者の成長に合わせてわずかに刃長を変えていたり、槍頭や柄の長さを変えたり、さらに等級もそれぞれ変えている。

 魔石もそうだが、元となる魔獣を変えて三種類用意していた。


「成長に合わせて三本ずつ、魔石は三つを用意しました。実力に見合わない等級の武器を持ってしまった時の危険性は、理解しているつもりですから」


 カナタがそう口にすると、スレイグが目を閉じて軽く頭を下げる。それに気づいたアルバが大きく頭を下げ、キリクとシルベルは顔を見合わせて兄に習うようにして頭を下げた。


「カナタ、本当にありがとう。君の作った剣に負けないよう、僕はこれからも精進するよ」

「お、俺も頑張る!」

「ぼくもー! これ、本当にきれいだねー!」


 真剣な顔のアルバ、無邪気に笑っているシルベル、ちょうどその間くらいの表情を浮かべているキリク。

 三者三様の態度に少し面白くなってしまったカナタだが、スッとスレイグが立ち上がった事で気持ちを引き締め直す。


「カナタ君、これはありがたく頂いておこうと思う。そして、我が子の成長に合わせて贈っていこうと思うよ」

「ありがとうございます。ですが、最後に贈る物はスレイグさんが準備してください」

「もちろんだとも。……だが、その時はカナタ君に依頼を出させてもらうだろうけどね」

「ありがたい顧客になってくれそうですね」

「もちろんだとも」


 お互いに笑みを浮かべ、最後には固い握手を交わした。

 感動的な雰囲気が明らかに流れている。そんな中で一人だけソワソワしている人物がいた。


「…………ね、ねえ、カナタ君?」

「どうしたんですか、ロールズさん?」


 カナタがスレイグから離れたタイミングで声を掛けてきたのはロールズだった。


「その……私には?」

「……ん?」

「いや、私には何か贈り物はないのかな~……なんてね~」

「…………あ」


 その一言で、ロールズは全てを悟ってしまった。


「……なんで私にだけないのよおおおおぉぉっ!?」

「だって、ロールズさんとはこれからも仕事で付き合っていくじゃないですか!」

「リッコ様はあっ!」

「リッコにはスライナーダまで連れてきてくれたお礼としてですよ!」

「リスティーさんはあっ!」

「家に無償で泊めてもらいましたからね!」

「……そ、そんなああああぁぁっ!?」


 膝から崩れ落ちたロールズを見た全員が、大声で笑ったのだった。

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