第83話:報告と新たな王命

 ――ライルグッドはアルから受け取った剣を手に王都へ戻ってきていた。

 すでにナイフを見せて国王のライアンから王命を受け取っているのだが、あくまでもナイフは鉄から作られた最高傑作、というだけで質も八等級にギリギリ届いているかというものだった。

 しかし、今回ライルグッドが受け取った剣は桁が違い過ぎた。

 精錬鉄は比較的上位の素材として取り扱われているが、それでも中の上くらいの素材である。

 最高の錬金術師が最高の錬金術を行い、最高の鍛冶師が最高の鍛冶を行う事でできるかどうかというのが、一等級品である。

 事実、それができたという過去をライルグッドは見た事もなければ聞いた事もない。

 それをどこにでもいるような少年が目の前でやってしまったのだから驚きを隠せない。

 そして、その結果を伝えなければという使命感に駆られたライルグッドは手にしたその足で王都へ戻ってきたのだ。


「おぉっ! 待っていたぞ、ライルグッド!」

「陛下! これをご覧ください!」


 ライアンはライルグッドが戻って来たら最優先で謁見すると大臣たちに伝えていた。

 顔を合わせて早々にカナタが作った剣を差し出したライルグッド。

 それを手にしたライアンが包みを外していくと、出てきた剣を見て目を見開いた。


「んなあっ!? ……こ、これは、まさか?」

「はい! これはカナタ・ブレイドが作った作品です! 俺のために!」

「そうか、カナタ・ブレイドと会えたのだな! しかもこれは、一等級品ではないか!」

「はい! この目で確認しました、これは間違いなくカナタ・ブレイドの作品です! 俺のために作ってくれました!」

「そうか、そうか!」

「はい! 俺のためにです!」

「……お、おぉぅ、そうか……ライルのために、だな」

「はい! 俺のためにです!」


 返事のたびに『俺のために』を繰り返すライルグッドにジト目を向けるライアンだが、それでも彼は絶対に譲るつもりはない。

 何せ、過去に手にしてきた剣の中でもカナタの剣は群を抜いて手に馴染み、さらに一等級だからだ。


「……ま、まあ、そこまで言うのならば――」

「俺のために作ってくれた剣ですよ、陛下!」

「……こ、これは返しておこうかな、うむ」

「はっ! ありがとうございます、陛下!」


 やや呆れ顔ではあるものの、ライアンは剣をライルグッドへ返した。


「して、そのカナタ・ブレイドはどこにいるのだ?」

「それに関しては報告がございます」

「ん? どういう事だ?」


 ここでライルグッドはワーグスタッド騎士爵領の状況と、カナタからの提案を受け入れて鉱山開発を行っている事を報告した。

 最初はカナタが来ていない事に顔をしかめたライアンだったが、新たな鉱山が開発される事、そしてワーグスタッド騎士爵の手腕についても耳にした事があり、冷静にライルグッドの判断を思案する。


「――という事があり、私はカナタ・ブレイドの提案を受け入れました」

「ふむ……鉱山の開発が進めばアールウェイ王国はさらなる発展を遂げるであろう。そこがワーグスタッド騎士爵領であればなおさらか」

「はい。さらに言えば、そこにカナタ・ブレイドが留まっているという事も良い結果を生みだす要因になるかと思います」

「……なるほど。金の流れが出来上がるという事だな?」


 一年という短い期間ではあるもののカナタがいればそれも成してしまうのではないかと、この剣を見てしまうと思えてならない。


「……分かった。しかし、これを見てしまうと早くこちらに呼びたいとも思えてしまうな」

「それは、確かにそうなのですが……」

「故に、少しばかり彼に交渉して欲しい」

「交渉、ですか?」

「うむ。鉱山開発が軌道になり次第、こちらに来てもらうのだ」


 一年という期間でも短いと感じるのだが、さらに短い期間で開発が軌道に乗るものかとライルグッドは疑問に思ってしまう。


「できるでしょうか? 私が提示した一年というのもかなり短いと思うのですが?」

「これだけの剣が何度も作れるとは思えないが、それでも噂は一気に広がるだろう。冒険者が集まれば可能ではないか?」

「それはそうですが……」


 実際にライルグッドが王都に向かっている間にもワーグスタッド騎士爵領へ向かう冒険者と何度もすれ違っている。

 ライアンの提案が叶うかもしれないとライルグッドも思い始めていた。


「……分かりました。戻り次第、カナタ・ブレイドにその内容で交渉してみましょう」

「うむ、よろしく頼むぞ」


 そもそも、一度王命に逆らって一年という期間をものにしたカナタである。そこへさらなる王命が加われば、それこそライアンを怒らせていると思うのが普通の思考である。

 故に、交渉という言葉を使ってはいるものの実際は強制である事にライルグッドは気づいていた。


「では、私たちは再びワーグスタッド騎士爵領へ向かいたいと思います」

「頼んだぞ。ライル、アルフォンスよ」

「「はっ!」」


 ライアンをも驚愕させたカナタの剣。

 ライルグッドのためにと作り出した剣が、カナタを王都に近づけてしまったのかもしれない。

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