第79話:今できる最高のものを
体を震わせているリスティーを横目に、カナタは出来上がった魔石を手に取って光に透かせて見る。
「……きれいだなぁ」
ほぼ透明と言っていいほどの青みしかない魔石は、透かせて見た光のほとんどを透過させている。
それでも内部で光が乱反射を起こし、周囲に光の帯を走らせていた。
「……カ、カナタ君。よかったら、私にも見せてくれないかな?」
「もちろん大丈夫ですよ」
震える声でそう口にしたリスティーに魔石を手渡すと、彼女は目を見開きながら自然と表情を笑みの形に変えていった。
「ふわああああぁぁ……ひゃああああっ! これ、本当に凄いわ! こんな魔石、見た事がないもの!」
「そうなんですか?」
「そうよ! 王都の錬金術師でももう少し濃い青になっているはず! でも、これは……本当に薄い、魔石そのものの色だけが残っている……魔素が完全に抜けた、最高級の魔石よ!」
「……へぇ、そうなんだぁ」
「反応が薄いわね!」
興奮冷めやらないリスティーとは対照的に、カナタはこれからの事で頭がいっぱいになり空返事になってしまう。
というのも、魔石の錬金術ができた事でリッコの剣を作る準備が整ったからだ。
「……ね、ねぇ、カナタ君? これ、本当にリッコのお礼に使っちゃうの?」
「はい。その約束ですからね」
「……これ、売ったら相当な値が付くわよ?」
「まさか。キラーラビットの魔石ですよ?」
魔獣にもランクがあり、冒険者ランクと同じで最高のSから最低のFに分けられる。
キラーラビットのランクはFであり、いくら最高級の魔石とはいえ価値があるとは思えなかった。
「それに、キラーラビットの魔石だったからできただけで、高ランクの魔石だと魔素も多くてこうはならなかったですよ」
「そりゃそうだけど……って、話が逸れてる! どうせなら私の魔石を使って、そっちは販売してカナタ君の利益にした方がいいって言ってるのよ!」
必死に食い下がるリスティーだったが、それでもカナタの考えは変わらなかった。
「ダメですよ」
「……どうして?」
「この魔石は俺がリッコと出会った証というか、なんというか……とりあえず、大事なものなんです。同じキラーラビットの魔石だからとか、そういう問題じゃないんですよね」
上手く言葉にできず苦笑するカナタだったが、彼の決意が変わらないと察したリスティーはため息をつきながらも説得は諦める事にした。
「……分かったわ。まあ、カナタ君の私物だし私があれこれ言う権利はないものね」
「その、すみません」
「ううん、いいのよ。でもねぇ……この事、しばらくは黙ってた方がいいわよ?」
突然小声になり耳打ちしてきたリスティーに、カナタは困惑顔で首を傾げた。
「どうしてですか?」
「カナタ君が魔石の錬金術で最高級品を作れるとロールズが知ってごらん? ……今まで以上に馬車馬のように働かされるわよ?」
「うっ!? ……そ、それは、勘弁ですねぇ」
言いたい事が理解できたカナタは、顔をしかめながら嫌だと口にした。
「というわけで、私が外を見ておくからさっさとリッコへの剣を作っちゃいなさい」
「え? でも、いいんですか?」
「もちろんよ。本音はその魔石を使った剣がどうなるのか見てみたいけど、今はカナタ君の無事が最優先だからね」
「無事がって……冗談ですよね?」
「この顔が冗談に見えるかしら?」
「…………見えません。よろしくお願いします」
本気でカナタの事を心配しているのが分かり、カナタは素直にリスティーの気遣いを受ける事にした。
自分でも今ロールズに知られるのは得策ではないと判断した結果でもあるが。
「それじゃあ、出来上がったらノックしてね」
「はい、ありがとうございます」
軽く手を振りながら作業部屋を出たリスティーを見送ると、カナタは作業台に素材を並べていく。
水結晶、精錬鉄、そしてキラーラビットの魔石。
これらが組み合わさった剣がどのようになるのか想像がつかないカナタだったが、それでも成功させなければならないと心に決めてイメージを固めていく。
リッコの振るう剣、その長さと重さを思い出しながら頭の中で素材を混ぜ合わせては形にしていく。
(……違う……こうじゃない……これでもないか……違う、違う!)
頭の中で失敗を繰り返しながら最適解を探っていく。
これも錬金鍛冶の特性なのか、用意した素材の質量に合わせて頭の中でできる、できないが判断できるようになっていた。
(……もう少し……違う、こっちだ……うん、良い感じになって来た……)
少しずつではあるが、それでも確実に最適解へと近づいていく。
カナタが思考を始めてどれほど経ったのか、本人にはさっぱり分からない。しかし、その甲斐もあってようやくイメージが固まった。
「……よし、やるぞ!」
両手を広げて三つの素材に触れた途端――まばゆい光がそれぞれから放たれた。
それだけではない。素材同士がひとりでに動き出すと、それぞれが一つにまとまっていき、そのまま融合していく。
今回も目を見開いてどう形作っていくのかを見守っているカナタは、この錬金鍛冶が成功すると不思議と確信を持っていた。そして――
「――……で、できた」
刀身の大部分は精錬鉄なのだが、諸刃の中心に走る青い筋の水結晶が光を浴びると周囲に青い光を映し出す。
鍔の中央には透明度の高いキラーラビットの魔石が嵌め込まれており、そこにも青い筋が左右に伸びて見た目の美しさも作り出していた。
「……喜んで、くれるかな」
そんな言葉を呟きながら出来上がった剣を布で包んだカナタがドアをノックすると、外からリスティーが顔を覗かせた。
「……できたのね?」
「はい!」
「それじゃあ、今日の仕事終わりにでも渡してあげなさい。リッコ、きっと喜ぶわよ」
ニコリと微笑んだリスティーはカナタの頭をポンポンと叩くと、その場を後にした。
「……よーし、仕事の続きだ!」
驚く事に魔力にはまだ余裕があり、カナタは魔力枯渇を目指して仕事を再開させたのだった。
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