第78話:魔石の錬金術
リスティーが用意していたのは、カナタが持っているものと同じキラーラビットの魔石だった。
「まずは私が魔石の錬金術を行うわね」
「よろしくお願いします」
魔石を魔法陣に載せたリスティーが両手を陣の端に置く。
すると、触れている部分から白い光が広がっていき、魔法陣全体が同じ光を浮き上がらせている。
「ここまでは鉱石の錬金術と同じよ、分かる?」
「はい」
「よろしい。では、ここからが鉱石と魔石で違ってくる部分よ」
鉱石の場合だと不純物が砂や石など、目に見えるものだった。
対して魔石の場合は
「この魔素を取り除く事が、魔石の錬金術なのよ」
「魔素、ですか。……目に見えない分、イメージするのが難しそうですね」
「普通ならね。でも……よし、よーく見ててね」
カナタの言葉に同意を示しつつも、リスティーは一度頷いてから見ているように告げた。
その直後、魔石から魔法陣の光とは異なる黒い靄のようなものが細い糸のようになって現れた。
「……こ、これは?」
「これが魔素よ」
「えぇっ!? 魔素って、目に見えないんじゃ?」
「普通は目に見えないわ。でも、錬金術で魔素を排除しようとすると、こうして可視化されるの。錬金術師の間では魔素が抵抗している証、とか言われているわね」
上へ向かって延びていく黒い糸は、高くなるにつれて見えなくなっていく。空気中に混ざりあったのか、それともどこかへ消えてなくなってしまったのか。
その辺りは錬金術師の間でも意見が分かれているようだが、リスティーとしてはどちらでもよかった。
「まあ、錬金術が問題なく発動すればいいわけだしね」
「……確かに」
「その辺りは置いておくとして、そろそろ錬金術が終わるわよ」
リスティーの言葉を受けて視線を魔石に戻す。
黒い靄はその量を徐々に減らしており、もうそろそろ出て来なくなるのではというくらいになっていた。
「…………よし、終わったわ」
「……これで、魔石の錬金術が終わったんですか?」
「えぇ、そうよ。手に持って眺めてごらんなさい」
言われた通りに魔石を手にして見つめるカナタ。
元々が深い青色をしていた魔石だが、錬金術を施したからか透明度の高い青にその色を変えている。
魔素が魔石の持つ色を濃くしていたのだ。
「ほとんどの魔石は錬金術を終えると透明度を増すわ。そして、その透明度が高ければ高いほど質の良い魔石ってわけ」
「そうなんですね……凄く、きれいな魔石ですね」
「中には例外もあるけど、そんなものは国が関わるようなものばかりだから無視していいからね」
「分かりました」
「……どう? 魔素が可視化されるならイメージもしやすいんじゃないかしら?」
リスティーの言葉を受けて、カナタは自分が魔石の錬金術を行う姿を頭の中に思い浮かべると、成功のイメージを固めていく。
ランクの高い魔獣の魔石ほど、魔素は濃く量も多い。自ずと大量の魔力を消費する事にもなる。
(見ていた感じだと、キラーラビットの魔石なら俺の魔力でも十分に事足りる。それなら、しっかりとイメージを固めるだけだ)
自分に言い聞かせるようにイメージを固めていき、そして――ゆっくりと瞼を開いた。
「……いけそうかしら?」
「……はい」
「それじゃあ、やってみましょうか」
リスティーが椅子から立ち上がると、入れ替わってカナタが腰掛ける。
自分の持つキラーラビットの魔石を魔法陣に載せると、大きく深呼吸をしてから両手で魔法陣に触れた。
「……いきます!」
頭の中に成功のイメージを思い浮かべながら、カナタは錬金鍛冶を発動させた。
すると、リスティーが錬金術を行った時以上に眩い光を放ち始める魔法陣。
一瞬の驚きの後、この程度の光なら何度も見ていると言い聞かせて自分を落ち着かせていく。
すでにリスティーは瞼を閉じているが、カナタは逆に目を見開いていた。
「靄が、出てきた!」
だが、黒い靄はリスティーの時のように細い糸の形状をしておらず、靄というよりは黒い塊のように見える。
あまりにも予想と違う展開に困惑を隠せないが、カナタは構う事なくさらに魔力を注ぎ込んでいく。
すると、黒い塊はまるで意志を持っているかのように蠢き、内側から外へ出て行かんと突起があらゆる方向へ飛び出しては引っ込んでいく。
それを何度も繰り返していくうちにぶるぶると震え出すと、次の瞬間――黒い塊が爆発して霧散してしまった。
「きゃあっ! な、何が起きてるの!?」
目を閉じているリスティーには何が起きているのか分からず悲鳴をあげてしまう。
しかし、黒い塊が爆発したからか光は徐々にその光量を弱めていき、最終的には普段通りの作業部屋に戻っていた。
「……お、終わりました」
「……ほ、本当? 目を開けても、大丈夫?」
「……はい」
ゆっくりと瞼を開いていくリスティーは最初にカナタを見た。
しかし、カナタはずっと一点を見つめていたのでそちらに視線を向ける。
視線の先にあったのはカナタが錬金術を行った魔石なのだが、そこには見た事がないほどに透明度の高いキラーラビットの魔石だった。
「……え……ええええええええぇぇっ!?」
「リ、リスティーさん!?」
その魔石は魔素が完全に抜けた、王都に在籍するトップクラスの錬金術師にしか作り出せない完璧な魔石だった。
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