第77話:お礼の剣作り

 大量の武具作成の合間を縫って、カナタはリッコへのお礼の剣を作る事にした。

 勝手に素材を使う事になるのだが、そこは後で給料から引いてもらう事にしようと勝手に決めており、ロールズも文句は言わないだろうと考えている。

 用意したのは鉱山で採掘された希少金属の水結晶と精錬鉄。そして、キラーラビットの魔石。

 今のリッコにはランクの高い魔獣の魔石を使った方がいいかとも考えたが、最初に約束した事でもありカナタはそのままキラーラビットの魔石を使う事にした。


「水結晶は水属性付与に使われるし、冒険者として活動しているリッコには必要になるものだろうからな」


 以前にパルオレンジで話した内容を覚えていたカナタは、お礼の剣にも水属性付与ができないかと考え、水結晶を使う事にした。


「それにしても、きれいな結晶だよなぁ。これが自然に作られたものだなんて信じられないよ」


 魔力を含んだ水が長い年月をかけて固まったものが水結晶となる。

 透明度の高い青色をしており、水結晶を透かして見ると視線の先がまるで湖の中にいるかのように思えるほどだ。

 このまま飾っておきたいと思えるものだが、それは一般的な考えであって冒険者からすれば加工が当たり前の鉱石だった。


「よし、やるか! まずは錬金術で不純物を取り除かないとな」


 錬金術は精錬鉄から行い、次に水結晶。この二つは鉱石という事もあってすんなりと作業が終了した。

 しかし、次の魔石に関してはどうしたらいいのか知識が足りなかった。


「……これ、誰かに聞いた方が絶対にいいよな」


 キラーラビットの魔石は一つしかない。もし失敗して使い物にならなくなってしまっては元も子もないのだ。

 考えた末にカナタが出した結論は――職人ギルドに足を運ぶ事だった。


「し、失礼しまーす」


 最近は作業部屋に直行していたカナタなので、久しぶりに訪れる職人ギルドのフロアで少しだけ緊張していた。


「あら! あなたはリッコ様と一緒に来て登録していった……」

「えっと、カナタと言います」


 職人ギルドには鍛冶師カナタでの登録と、錬金術師フロック、鍛冶師バントの登録がある。

 三人が実は同一人物だと知っているのはリスティーだけなので、できれば彼女に相談したいと考えていた。


「あの、リスティーさんはいますか?」

「ギルマスですか? ちょっと待っててね!」


 女性職員が笑顔で奥に行った事でホッと胸を撫で下ろしたカナタは、しばらくして顔を見せたリスティーと奥の鍛冶部屋に移動して事情を説明した。


「――なるほどねー。魔石の錬金術かぁ」

「その、難しいんですかね? リッコにお礼の品を作るにあたり、キラーラビットの魔石を使うって約束をしていて……」


 腕組みをしながら考え込んでいるリスティーを見て不安になって来たカナタだったが、彼女はすぐにニコリと笑い口を開いた。


「ランクの高い魔獣の魔石だと止めようかと思ったんだけど、キラーラビットの魔石なら問題はないわ。とりあえず、二階の作業部屋に移動しましょうか」

「でも、仕事は大丈夫ですか? 何かしてたんですよね?」

「問題ないわ。これでも私、仕事のできる人間なのよ?」


 リスティーはウインクをしながらそう口にした。


「あ、ありがとうございます。リスティーさんにもまだお礼できてないのに……」

「あら? まだそんな事を考えていたの?」

「だって、お世話になりっぱなしですし……絶対に何か考えておいてくださいね! 俺にできる事だったらやらせてもらいますから!」

「うふふ。それじゃあ、期待しておこうかしら。でもまずは、リッコの事を考えましょうか。他の女性の事を考えていたら、錬金術が失敗するかもよ?」

「……いや、それはないですよ」

「あら、つまらないわねぇ」


 クスクスと笑いながら鍛冶部屋を出ると、リスティーは職員に声を掛けてフロアを後にする。

 その後ろでカナタは礼儀正しく一礼してから出て行こうとすると、先ほどの女性職員が手を振ってくれた。


「あの子、いい子でしょう?」

「あの方も職人なんですか?」

「えぇ。錬金術師よ」

「……あれ? そういえばリスティーさんはギルマスですけど、どっちを本職にしているんですか?」


 お世話になっていながら聞いていなかったと思い恥ずかしくなりつつも、カナタは思い切って聞いてみた。


「私も錬金術師よ。っていうか、鍛冶師はバルダが囲い込んでたから登録はしててもほとんどギルドビルに顔を出さなかったからね。それに、解放された途端にこんな場所にはいられないって領地から出て行っちゃったから、今はもういないけど」

「……そ、そうだったんですね」


 鍛冶師不足は解消されていないのかと思いため息をついたカナタだったが、実はそうでもなかった。


「でもね、鉱山開発が始まってからは他領から鍛冶師が流れて来てくれているのよ! 少し前までは移籍の登録が多くて大変だったんだけど、ようやく落ち着いてきたところよ」

「そうだったんですね。それなら、俺の負担もだいぶ軽くなりそうだな」


 包丁を作る事がほとんどなくなっていたので大丈夫かなと思っていたが、鍛冶師が増えているなら領内の鉄製品は安定するだろうとホッと胸を撫で下ろす。

 そのまま作業部屋に到着すると、カナタは初めて魔石への錬金術を行う事になった。

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