第76話:魔力枯渇の末に……

 カナタは連日連夜、魔力枯渇を繰り返しながら大量の武具を作成していた。

 最初の頃は魔力枯渇のタイミングを見誤って錬金鍛冶の最中に気を失う事もあったが、慣れてくると体内から魔力が抜けていく感覚が鋭敏になり枯渇のタイミングを測る事ができるようになっていた。

 そうする事で気を失う事は無くなり、その代わりに魔力回復を図りながら考えを巡らせる時間を作る事に成功している。


「……これだけの数で足りるかなぁ」


 現時点でカナタが作り上げた武具の総数は百を超えている。そして、その多くが七等級、稀に六等級まで出来上がっていた。


「まさか、俺が六等級品を作れる日が来るなんてなぁ」


 武具の等級は十段階に分かれている。

 一番高い等級が一等級、そこから二等級、三等級、四等級、五等級、六等級、七等級、八等級、九等級と続き、一番低いもので十等級となる。

 普通の鍛冶で作った作品では八等級が最高で、十等級ができてしまう事もあった。

 そのせいもありヤールスからは見限られてしまったのだが、見限った本人は最高で七等級の作品しか作れていなかったので鍛冶師の腕ではそこまで大きな差はなかったのだが。


「……一度でいいから見てみたいなぁ、一等級品」


 一等級武具のほとんどが王都に集まっている。

 王族が、騎士団の主だった騎士が、冒険者として最高ランクのSランク冒険者が、ほとんどの一等級武具を手にしている。

 そして、現存する一等級武具の全てが発掘品であり、人間の手で作られたものは存在していなかった。


「俺の力なら、いつか作る事ができるのかなぁ」


 右手を上げて、広げた指の間から天井を見つめる。

 目指す先はどれだけ目を凝らしても背中すら見えない高みだが、不思議と錬金鍛冶であれば届くかもしれないとカナタに思わせてくれた。


「……どうせやるなら、目標は高く持たないとな」


 広げていた右手をギュッと握り込むと、目を閉じて体を休める。

 最近では椅子に腰掛けながらでも熟睡する事ができるようになっているカナタは、ゆっくりと眠りに落ちていく。


「…………あー、こっちに来てパタパタしてたから、リッコの剣をまだ作ってない……や……」


 次にやる事を決めた直後、カナタは睡魔に負けたのだった。


 ◆◇◆◇


 また別のところでは、リッコが冒険者としての活動に精を出していた。

 鉱山開発の手伝いをするために実力を上げようと考えているのだが、その姿は過去のリッコを知っている者が目にすると驚愕するだろう。


「うおおおおりゃああああああああぁぁっ!」


 リッコが冒険者になった最大の理由は、アールウェイ王国を歩き回って埋もれている人材をワーグスタッド騎士爵領にスカウトする目的があった。

 そのせいもあり冒険者としての活動にはそこまで力を入れておらず、路銀を稼ぐために楽しそうな依頼を受ける程度だ。

 その中でBランクまで上がったのだから実力は本物なのだが、そのリッコが本気で冒険者として活動を始めていた。


「ぬおおおおおおおおっ!」


 そして、リッコの隣にはもう一人の冒険者が大剣を振るっていた――ウィルである。

 Dランク冒険者であるウィルは口下手なせいもあり基本はソロで活動しており、たまにパーティを組んでもそりが合わずに一回限りで終わる事がほとんどだ。

 だが、その時に手柄のほとんどを奪われてしまい、依頼が失敗にでもなれば責任を押し付けられてしまう。

 実力は申し分ないが、口下手な性格が足を引っ張ってしまい今のランクに留まっていた。


「あんた、なかなかやるじゃないのよ!」

「……そう、だろうか?」

「そうよ! なんでDランクなのか、理解できないわ!」


 リッコが鋭く剣を振るい小型の魔獣を斬り捨てている横で、ウィルはその体躯と大剣の重量を活かして中型の魔獣を一撃で両断してしまう。

 剣速も非常に速く、相手が小型の魔獣であっても大剣で十分に倒せるだろうとリッコは見ていた。

 周囲の魔獣があらかた片付くと、二人は近くの岩に腰掛けて水筒を傾ける。

 喉を潤した後、解体を始めた事でウィルの手際の良さにもリッコは驚いていた。


「……早いわね」

「……ソロだと、早くできないと、危険だからな」

「その通りね」


 話をしながらも手を止めずに解体を進めている二人は、あっという間に討伐した魔獣のいらない部分の処分に移っていく。


「えっと、着火剤は……」

「いや……俺が、やる」

「ウィル、着火剤あるの? これでもBランク冒険者だから懐にも余裕があるわよ?」

「違う……火魔法を、使えるんだ」

「…………はい?」


 リッコが驚きを顔に張り付けていると、ウィルは右手をいらない部分に向けた。


「……ファイア」


 ――ボンッ!


 右手の前方に顕現した小さな火の玉がゆっくりといらない部分へと飛んでいき、触れるのと同時に燃え上がった。


「……これで、着火剤も無駄にならない」

「……あはは……あんた、本当にどうしてDランクなの?」

「……すまん」

「いや、謝る事じゃないんだけどねぇ」


 呆れと同時に面白い人材を手に入れる事ができたと内心でほくそ笑んでいるリッコなのだった。

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