第75話:ウィルとの再会
翌日、カナタは作業部屋にてロールズが連れてきたウィルと再会を果たした。
「お久しぶりです、ウィルさん」
「あぁ。久しぶりだな」
ウィルは最初に寝返ってくれた強面丸刈りの冒険者だ。
カナタが作った大剣を背負い、それを扱うに足る背丈と肉体を併せ持っている。
体格的には冒険者として大成しそうだとカナタは思ってしまったが、それでもお金に困ってバルダの誘いに乗ってしまったのだから冒険者は難しい職業なのだと考えてしまう。
「……バント、様」
「あー、様付けは止めてください。呼び捨てでいいですよ」
「……だ、だが」
「俺がいいって言ってるんですから、気にしないでください。それと、俺はバントじゃないですよ」
「……は?」
カナタの事をずっと鍛冶師バントだと思い込んでいたウィルは困惑の声を漏らした。
「ロールズさん、言ってなかったんですか?」
「あははー! まあ、カナタ君の正体を誰彼構わず伝えるのはどうかと思ってねー」
「ウィルさんはロールズ商会の従業員みたいなものなんですから、ちゃんと伝えておかないと……えっと、混乱させてしまってすみません。俺の名前はカナタ・ブレイド。元ブレイド伯爵家の五男なんです」
「…………は?」
名前が違っていただけではなく、さらに貴族だと知ったウィルはさらに困惑を深めていき、ついには土下座の体勢になって額を地面に擦りつけてしまった。
「ちょっと! ウィルさん!?」
「ブ、ブレイド伯爵家の方とは知らず、ご無礼を! 申し訳ございませんでした!!」
「あの、顔を上げてください! 俺は家から勘当されてますし、それにブレイド伯爵家は爵位剥奪されたみたいですし!」
「…………も、もう、何がなんだか、分かりません」
ウィルの言葉に頷く事しかできないカナタだが、自分の出自は一旦置いておくとしてウィルとは対等の関係を築きたいと考えていた。
「とりあえず立ってください。諸事情あって名前を偽っていた事は後ほど説明しますけど、俺は俺ですから。貴族としてではなく、一個人として付き合ってください」
「……い、いいのか?」
「もちろんです」
「……分かった。……カナタ」
口下手なウィルは淡々と、それでも気持ちのこもった言葉でお礼を口にしながら立ち上がる。
「あの時は俺もウィルさんに助けられましたし、お互い様ですよ」
「……いや、俺は迷惑を、掛けただけだ」
「最初にこちら側に付いてくれましたし、その後のバルダ側の人間を追い払ってくれたじゃないですか。今もロールズさんに雇われて手伝ってくれてますしね」
「……稼ぎが、いいから」
「それでも手伝ってくれている事に変わりはないですよ」
何を言っても言い返されてしまい、ウィルは仕方なく頷く。
そんなウィルを横目にカナタたちは本題に話題を移していった。
「それで、鉱山開発はいつから始めるのかしら?」
「武具の準備ができ次第、ですね。昨日も説明しましたが、期限は一年しかありませんから」
「うーん、その期限って誰が決めたの? ワーグスタッド騎士爵様?」
「……そうよ。期限内に開発を進めなきゃいけないのよ」
鉱山開発についてはスレイグからの依頼であるとロールズには説明している。これはカナタという存在を王族が探している事を隠すためでもある。
そもそも王命は密命に近いものがあり、おいそれと外部の人間に伝えて良い事ではないのだ。
「一年後、また別の何かがあるのかしら~?」
「……とにかく! 今は一年以内に鉱石を採掘できるよう鉱山開発を進める必要があるのよ!」
何かを探るように話し掛けてきたロールズだったが、リッコが少し苛立ったように話を切った事で口をつぐんだ。
「……分かったわよ! それじゃあ、まずは錬金術で素材を作ってから武具作成ね!」
「包丁はどうしますか?」
「そんなもん後回しよ! 全国に名前を売るのも大事だけど、鉱山開発が行われるならワーグスタッド騎士爵領で一番になっておく事が重要だものね!」
ロールズの戦略としては、鉱山開発の話を聞きつけた冒険者が集まる事で武具の売れ行きが一気に上がる。その時点でロールズ商会の名前が領内に広がっていれば多くの冒険者が集まってくれるだろう、という事だった。
「冒険者ってのは魔獣と戦うから武具の破損が多いのよね~。顧客になってくれれば良い素材を売ってくれたりするし、そこからカナタ君が最高の武具を作ってくれれば金払いも良くなるはずだし~」
「えぇっ!? それ、俺の実力次第って事ですか!」
「それは当然よ。だって、ワーグスタッド騎士爵様もカナタ君の実力を見込んで鉱山開発の話を持ち出したんでしょう?」
「その通りよ! よーし、カナタ君! 錬金鍛冶で武具を作りまくって一年での鉱山開発を達成するわよ!」
「お、おぉぉーっ!」
ロールズが鉱山開発の話題を出した途端にリッコが割り込んでくると、カナタも勢いに負けて拳を上げた。
三人のやり取りを見ていたウィルは『錬金鍛冶?』と疑問を口にしていたが、今は誰も答えてはくれなかった。
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