第74話:行動開始
――ライルグッドとの話し合いを終えた翌日からカナタの行動は始まった。
話し合いの場でスレイグにも話を通している。
話の途中では非常に驚かれてしまったが、カナタの考えはスレイグが長年頭を抱えていた問題を解決するものだった事もあり、首を横に振る事ができなかった。
「カナタ君、本当に大丈夫なのかい?」
「大丈夫です。それに、これが成し遂げられればロールズさんもさらに稼げるでしょうし」
「違うわよ、カナタ君? 私たちはあなたの心配をしているのよ~?」
「本当に大丈夫ですから」
ギルドビルへ向かおうと玄関で靴を履いていたカナタに対してスレイグとアンナが何度も確認を取っている。
「大丈夫よ! お父様、お母様! 今回は私も一緒に行動するんだしね!」
「……リッコ。俺は同行を許可した覚えはないんだけど?」
腕組みをしながら自信満々のリッコだが、隣に立つカナタはジト目を向けて違うと口にする。
「まあまあ! これでもBランク冒険者なんだから、実力は折り紙付きよ?」
「それはそうだけど……まあ、それもロールズさんに説明してからかな」
「私の名前を出しても構わんからな? いいかい、カナタ君?」
「カナタ君が言わなくても私が言ってあげるから安心してちょうだい!」
「リッコ、任せたわよ~」
「……話が勝手に進んでいく」
ワーグスタッド親子の会話を耳にしながら、カナタは小さくため息をついて館を後にしたのだった。
作業部屋に到着して早々、ロールズがカナタに詰め寄って作業を急ぐよう口にした。
「カナタ君! お願い、私の一生が掛かった商談なのよ!」
「あー……ごめん、ロールズさん」
「ごめんって何が!? もしかして離れちゃうの! お願い、それだと私、本当に商人ギルドから抹殺されちゃうから!!」
「と、とりあえず落ち着いてください、ロールズさん!」
「そうよ、ロールズさん。これはお父様、ワーグスタッド騎士爵の決定を伝える事にもなるんだからね」
「うぐっ!? ……権力者、強しっ!」
リッコがスレイグの名前を出した途端に大人しくなったロールズは、椅子に腰掛けて一息ついた。
しかし、その目はいったい何を語るのかと言わんばかりにギラギラとした瞳でカナタを見つめている。
「……実は、ワーグスタッド騎士爵より、未開発の鉱山開発に力を注ぎたいという話をいただきました」
「……はい?」
「そして、その手助けをするために武具を中心に作っていく事になりました」
「……えっと、そのつまり、その販売利益はどこに行くのかしら?」
「当然、ロールズ商会を通して販売するつもりです」
「よっしゃあ分かった! 先方には断りの連絡を入れておくわね!」
「変わり身早いわね!?」
先日までは大量の商品を王都の店に卸すと叫んでいたロールズがあっさりと断りを入れると口にした。
それだけ未開発の鉱山というのは潜在需要を持っていると言えるのだ。
「だって未開発の鉱山よ! そこに携われるんだったら王都の店からの依頼を断るなんて当然の話よ! どれだけの潜在需要が見込めると思っているんですか!」
捲し立てるようにそう口にしたロールズにやや引き気味になりながらリッコは何度も頷いている。
その姿を横目に見ながら、カナタはライルグッドとの昨日のやり取りを思い出していた。
『――未開発の鉱山を開放する? それが君にはできるとでも?』
『――できます。そしてそれは、巡り巡ってアールウェイ王国の利にもつながるはずです!』
カナタがライルグッドに語った考え、それは未開発の鉱山を開放してワーグスタッド騎士爵領に多大な利益をもたらす事だった。
スレイグが鉱山開発に着手できなかった一番の理由として、上質な武具を準備する事ができないというものだ。
そこをカナタの錬金鍛冶で補う事ができれば、鉱山開発は一気に進むと言っていいだろう。
ライルグッドもカナタの考えを認め、そして期限として一年という期限を設けている。
スレイグとしてはもっと長い期間で考えて欲しいと粘ったのだが、ライルグッドも王命である事からこれ以上はダメだと突っぱねられていた。
(これが終わったら本当に離れる事になるんだよなぁ。……一年かぁ)
この一年が長いのか短いのか、カナタには測る事ができない。
しかし、この一年でやれる事を必死になってやらなければならないと心に決めていた。
「よーし! そういう事ならあの子も使って大丈夫よ!」
「……ん? あの子って、誰の事を言ってるんですか?」
「誰って――ウィルよ!」
「……ウィル?」
首を傾げるリッコだったが、カナタはポンと手を叩いて納得していた。
「……誰なの、カナタ君?」
「バルダとの一件でこっちに寝返ってくれた冒険者の一人です。ロールズさんが個人的に雇ってる人がいるんですよ」
「鉱山開発に戦力がいるんですよね? バルダもいなくなってスライナーダは平和ですし使ってください。ウィルもずっとカナタ君にお礼を言いたがっていたからね」
「確かに戦力は必要だけど……まあ、冒険者として依頼を受けてくれるなら構わないか」
「明日にはこっちに戻ってくる予定だから、こっちに呼んでおくわね! ふんふふ~ん、稼げるわよ~!」
最初の落ち込みようはどこへやら、今となっては鉱山開発の事しか頭の中にないのかルンルン気分でお金の事を口にするロールズなのだった。
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