第72話:初の顔合わせ

 カナタの運命を変える日がやって来た。

 すでにスレイグが直接ライルグッドが泊まっている宿に足を運んでおり、カナタ発見の報告を行っている。

 リッコにはロールズへの伝言を頼んでおり、発狂するロールズの姿がカナタの頭の中には浮かんでいた。


「……心配かしら~?」

「まあ、少しは」


 館にいるのはカナタとアンナだけで、他の兄弟たちも外へ出払っている。ライルグッドに失礼があってはいけないというスレイグの判断だった。

 そのせいもあってか館の中はとても静かであり、いつもとは違う雰囲気を漂わせていた。


「……もうそろそろかしらね~」

「出迎えに行きましょう」

「そうね~」


 緊張をほぐそうとしているのか、アンナはいつもの口調を崩さない。そんな彼女にカナタは感謝しつつ椅子から立ち上がり玄関へ向かう。

 アンナが口にした通り、玄関前に到着したのと同時にドアの向こうから門が開く音が聞こえてきた。

 何やら話し声がドア越しに聞こえており、その声が大きくなっていくにつれて心臓の音がだんだんと大きくなっていく。


「……大丈夫よ~。私もスレイグもカナタ君を守るからね~」

「……ありがとうございます、アンナさん」


 そんな会話を交わした数秒後――ゆっくりとドアが開かれる。

 ドアの先には美しい金眼の男性が立っており、カナタと視線が重なった。


「ようこそいらっしゃいました、ライルグッド殿下」

「度々すまないな、アンナ・ワーグスタッドよ。……して、そちらの少年は?」

「ライルグッド殿下。そちらの少年が先日の話に名前が挙がった、カナタ・ブレイドでございます」


 ライルグッドの問いにスレイグが答えると、目を見開いて一歩前に進み出た。

 カナタはどうしたらいいのか分からず困惑していると、その背中をポンと叩く者がいた――アンナだ。

 アンナの手の温もりに冷静さを取り戻したカナタは、一度呼吸を整えると右手を左胸に沿えて口を開いた。


「……お、お初にお目に掛かります、殿下。私はカナタ・ブレイド。勘当されておりますが、元ブレイド伯爵家の五男でございます」

「……そうか。君がカナタ・ブレイドなのだな」

「はい、殿下。なんでも私を探しているのだと聞きました」

「うむ。詳しい話をしたいのだが、スレイグ。あなたの館をお借りしてもよろしいか?」

「もちろんでございます、ライルグッド殿下」


 昨日と同じようにリビングへと移動する。テーブルを挟んでカナタとスレイグとアンナ、向かいにライルグッドが腰掛けてその後ろにアルフォンスが立っていた。


「こちらへ向かいながらスレイグより説明を受けている」

「申し訳ございません、殿下。私が何か成果を上げた時に手柄を奪われないようにと、正体を隠して行動しておりました」

「その点については私からも謝罪いたします、殿下。王命に逆らうような形になってしまいました」

「カナタもスレイグも気にするな。むしろ、あのブレイド伯爵の息子と聞いてどのような人物なのかと考えていたが、君のような人となりの者もいたと分かって安心しているくらいだ」


 今の会話から、正体を隠したりスレイグに嘘をつかせた事への処罰がないと知りカナタはひとまず胸を撫で下ろす。


「それでだな、カナタよ。俺たちはそなたを探していた。その理由に関してはまだスレイグにも話していないのだが、聞いてくれるか?」

「もちろんでございます」


 カナタの返答を受けて、ライルグッドは居住まいを正して口を開いた。


「まずはこれについてなのだが、見覚えはあるかな?」


 ライルグッドの言葉に合わせてアルフォンスが懐から取り出したものをテーブルに置いた。

 置かれたものを確認したカナタは、驚きつつもはっきりと頷きながら答えた。


「は、はい。これは、私が作ったナイフです」

「このナイフ、作ってからどうしたか覚えているかな?」

「……ヤールス・ブレイドに取り上げられました。その後、勘当されてアッシュベリーを追い出されました」


 カナタの答えを聞くと、ライルグッドの合図でアルフォンスがナイフを再び懐に戻した。


「では次の質問だが……いや、単刀直入に聞いてしまおう。カナタ・ブレイド――君は新たな鍛冶の方法を手に入れたのではないか?」


 ライルグッドの発言にカナタは目を見開いた。

 錬金鍛冶に関して知っている者は限られており、ヤールスと接触している事は知っているが彼は錬金鍛冶について何も知っていない。

 ライルグッドが口にした新たな鍛冶の方法が錬金鍛冶の事を言っているのかは定かではないものの、ほぼ確実にそうだろうとカナタは瞬時に察していた。


「……あ、新たな鍛冶なのかは分かりませんが、通常とは違う方法で作品を作り上げる事は可能です」

「おぉっ! やはりそうだったか!」


 実際には目にしていないライルグッドだが、求めていたものであると彼も確信したのか満面の笑みを浮かべながら拳を握りしめている。


「……その新たな鍛冶を手にしたカナタ・ブレイドに王命を伝えよう。我らはカナタの力を欲している。俺と一緒に王都へ来てもらうぞ」

「お、お待ちください、殿下!」


 ライルグッドの言葉を受けて口を挟んだのは――当の本人であるカナタだった。

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