第66話:奔走するライルグッド
――カナタがロールズの無茶ぶりに応えている時、ライルグッド率いるカナタ捜索隊は王都から南にある領地を奔走していた。
元ブレイド伯爵領内をすでに脱している事は分かっている。裏露店通りの老人からはカナタと思わしき人物が西に向かったという情報を得ているものの、ただそれだけだった。
当初は西にあるスピルド男爵領へ向かったと思っていたが、そこに辿り着いてみると以降の足取りが全く掴めなくなってしまったのだ。
「……やはり、ワーグスタッド騎士爵領に向かったのか?」
即座にワーグスタッド騎士爵領へ向かう事もできたが、情報が全くないせいで完全に素通りする事もできなかった。
故に、道沿いの都市には必ず立ち寄り情報を得ようと奔走している。
「殿下、こちらもダメでした」
「そうか……時間を無駄にしてしまったかもしれないな」
小さく顔をしかめながら、ライルグッドは視線をスピルド男爵領の遥か西へ向けた。
「……次にあるのは関所か?」
「少しお待ちください……はい、その通りです」
地図を広げて確認を終えた護衛騎士のアルフォンスが頷くと、ライルグッドは馬を走らせる。
(ワーグスタッド騎士爵は辺境の地を上手く治めていると聞いている。前回の視察でも貧しいながらも少しずつ発展を遂げていたはずだ。……鍛冶師の問題さえ解決できれば未開発の鉱山を切り開く事ができるはず。まずはワーグスタッド騎士爵に会って情報を得なければならないな)
スピルド男爵には別の捜索隊が情報を得ようと接触したものの、これと言った情報は持っていなかった。
むしろ、ライルグッドの護衛騎士を懐柔して甘い汁を吸おうと無駄に絡んできた事で時間を取られてしまったくらいだ。
(元ブレイド伯爵もクズならば、スピルド男爵もクズだな。どうしてこうも辺境に近い貴族はクズばかりなのだ。……ワーグスタッド騎士爵がそうならなかったのは不幸中の幸いか)
もしワーグスタッド騎士爵までがクズ貴族であれば、辺境の地は貴族が民から税を搾取する最悪の地になっていた事だろう。
とはいえ、ワーグスタッド騎士爵だけで辺境の地を支えているわけではない。
ライルグッドが得ている情報では元ブレイド伯爵領に面している南のワグネル騎士爵と東のハーマイル子爵、スピルド男爵領の南に位置するボルドン騎士爵はクズ貴族だが、他の貴族は良くもなく悪くもなくといったところだろうか。
各領地の視察を任されているライルグッドだから分かる事だが、酷いところでは民が他領へ向かう事すら禁止している貴族までいるくらいだ。
(……いっその事、ワーグスタッド騎士爵の陞爵させて領地を拡大させてみてはどうだろうか。陛下に要請してみてもいいかもしれないな)
そこまで考えたライルグッドは思考を停止させると、小さく首を左右に振った。
「……今考える事ではないな」
「どうしましたか、殿下?」
「いや、辺境の貴族が酷過ぎてな。ワーグスタッド騎士爵の陞爵をと思っていたのだが、今はカナタ・ブレイドの捜索を優先させなければとな」
「まさか。殿下のお考えは先々を見据えれば素晴らしい判断だと思います。今すぐにというわけには参りませんが、王都へ戻りましたら陛下へそのように要請してもよろしいのではないかと」
表情を変える事なく冷静にそう口にしたアルフォンスを見て、ライルグッドは苦笑を浮かべた。
「……お前はなんでも肯定的な返事をするな、アルフォンス」
「今さらでしょう。私は殿下の護衛騎士であり、殿下に忠誠を誓ったのですから」
「だからと言ってなんにでも頷けば良いというものではないだろう」
「私が殿下に逆らうなど、あってはなりませんからね」
さも当然であるかのように言ってのけるアルフォンスに肩を竦めたライルグッドだが、以降は前を見据えて馬を走らせる。
追従するアルフォンスと共にスピルド男爵領とワーグスタッド騎士爵領との関所に到着すると――二人はついにワーグスタッド騎士爵領に足を踏み入れたのだった。
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