第55話:一方その頃……⑤

 ブレイド伯爵領の領地だった範囲をくまなく探した捜索隊だったが、カナタを見つける事はできなかった。

 しかし、有力な情報を手に入れたと報告を受けたライルグッドとアルフォンスは進路を西に変えていた。


「本当にその老人はカナタ・ブレイドだと言ったのか?」

「そのようです。まあ、連れとの会話の中でカナタと耳にしただけのようですが」


 情報を仕入れたのはアッシュベリーから西の森を抜けた先にある中規模の村であるパルオレンジ。

 裏露店通りで様々なものを売っていた老人がカナタらしき人物に鉱石を販売したと証言したのだ。


「何も情報がないよりはマシか」

「はい。その老人によると、カナタ・ブレイドらしき人物が西へ向かったとの事でした。先行して西側にあるスピルド男爵領へ騎士を派遣しております。そこで情報をまとめてから私たちも捜索に加わりましょう」

「分かった」


 ブレイド伯爵領を出たのは間違いない。その事をライルグッドもアルフォンスも不思議と確信している。

 ブレイド伯爵とはお金のつながりがあるスピルド男爵領に向かったのは予想外だったが、それでも今は手元にある情報を頼りに探す事しかできなかった。


 ◆◇◆◇


 二人はスピルド男爵領に到着すると、待ち構えていた騎士から情報を得た。しかし――


「カナタ・ブレイドの情報が全くないだと?」

「は、はい。領境に近い都市をいくつか回ってみたのですが、カナタ・ブレイドと思われる人物の情報は何一つとして見つかりませんでした」

「……パルオレンジの老人が虚偽の情報を寄こした?」

「それはないだろう。虚偽だとバレれば即座に首を刎ねられるのだからな」


 アルフォンスの推測をライルグッドが即座に否定する。

 しかし、全く情報がないとなるとスピルド男爵領には足を運んでいないと考えるのが自然だろう。


「他の領地に向かいますか?」

「……そうだな。その方が可能性は高いだろう」


 スピルド男爵領の捜索は騎士に継続してもらい二人は他領へ向かう事にしたが、ならばどこへ向かうべきかと考える。

 ブレイド伯爵領と面しているのは北のノルビル伯爵領、東のハーマイル子爵領、南のワグネル騎士爵領。

 ただし、そちらに近い都市ではカナタに関する情報は一切得られていなかった。


「……スピルド男爵領と面している領地は?」

「はっ! こちらになります」


 アルフォンスが懐から地図を取り出して指差しながら口にしていく。


「北にはノルビル伯爵領、西にワーグスタッド騎士爵領、南にボルドン騎士爵領でございます」


 地図を見つめながらライルグッドの思考が一気に回転を始めた。

 北のノルビル伯爵領にはすでに騎士が入っているが情報はなく排除。

 進むなら西のワーグスタッド騎士爵領と南のボルドン騎士爵領。

 カナタの力に何者かが気づいたとして、その力を活かせるのはどちらの領地かと考えた結果、ライルグッドが出した答えは――


「……西のワーグスタッド騎士爵領へ向かうぞ」

「南ではなく、西ですか?」

「あぁ。西のワーグスタッド騎士爵領には未開発の鉱山があったはずだ。カナタ・ブレイドが鍛冶師として大成しようと考えるなら、向かう先はそちらしかない」


 南のボルドン騎士爵領は海に面しており漁業は盛んだが鉱山は一つもない。

 全く別の仕事を探すなら可能性は高いが、老人の情報を信じるならばそれはないだろうと考えた。


「老人から購入したのは銀鉄だったのだろう? ならば鍛冶師として生きようとしていると考えるべきじゃないか?」

「……ですが、ワーグスタッド騎士爵領の鉱山は仰る通り未開発、魔獣が跋扈している鉱山なのです。そこを考慮に入れていないとは思えませんが?」

「確かにな。だが、ワーグスタッド騎士爵が鉱山の開発を進められないのは優秀な鍛冶師がおらず、武器を確保する事ができないからだと聞いた事がある。カナタ・ブレイドの可能性に気づいた何者かが勧誘したのなら、可能性は高いだろう?」


 そこまで言われてアルフォンスもようやく気がついた。


「……なるほど、同行者の存在ですね」

「そうだ。カナタ・ブレイドは何者かと一緒に行動している。冒険者ギルドに護衛依頼を出したという記録もなかったのだから、同行者が主導で行き先を決めている可能性もある」

「分かりました。道沿いにある都市での捜索はどうしますか?」

「それは継続して行うぞ。ワーグスタッド騎士爵領まで時間が掛かるかもしれないが、見落としが一番最悪な結果を生んでしまうからな」

「分かりました。では私たちが向かう場所は……」

「あぁ。向かうぞ――西だ」


 騎士と分かれた二人はその足で西のワーグスタッド騎士爵領へと向かう。


 ――カナタとライルグッドが遭遇するのは、もうすぐかもしれない。

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