第45話:ロールズ商会の動き
――錬金術ができると分かった日を境にカナタは忙しい日々を過ごしている。
ロールズ商会の目玉商品として販売する予定の作品を制作するのはもちろんだが、それが鍛冶だけではなく錬金術の商品も必要だと口にし始めた。
カナタとしては鍛冶だけでもいいのではないかと思っていたのだが、ロールズは頑なに錬金術の作品も必要になると言い続け、全く受け入れてくれる様子を見せない。
今はまだ鍛冶だけだが、近い未来で錬金術も行うのだろうと思っていた。
「……つ、疲れた」
そんな中、一つの問題が浮き彫りになってしまう。
「うーん。カナタ君の魔力って、聞いていた通りに少ないわね」
「……すみません」
とはいえ、五日が経過した現時点でも結構な量の作品はできており、とりわけスライナーダに到着するまでの間で好評だった包丁は百本近く作り上げている。
過去に何度も作っている包丁であり、鉄と木材という比較的安価な素材である事も幸いしているのだろう、そもそもの魔力消費が少なくさらに複製があればこその数である。
普通の鍛冶師が準備するとなれば質の悪い作品でも五日で百本近くの包丁を準備する事は難しいだろう。カナタの錬金鍛冶があってこその数なのだ。
「あぁ、ごめんね。別に責めているわけじゃないのよ。ただ……」
「ただ、なんですか?」
「魔力を増やす努力をしているのかなってねー」
何気なく呟かれたロールズの呟きに、カナタは何度も瞬きを繰り返しながら驚きの声を漏らした。
「……増やす事、できるんですか?」
「できるわよ。まあ、これだけ魔力を枯渇させてたらいずれは……って、知らなかったの?」
「し、知りませんよ! 俺、ずっと鍛冶しかしてこなかった人間ですよ!」
鍛冶には魔力を使う事がほとんどない。使うにしてもそれは魔法に触れる機会があった鍛冶師であり、それも稀な事が多い。
ほとんどの鍛冶師は自らの肉体で鎚を振るい続けて作品を作るのだ。
「カナタ君って、本当にもったいない環境で育ったんだね」
「……まあ、否定はしませんけど。でも、ああいった環境だったからこそ、錬金鍛冶の力に目覚めたのかなって考えたら、ブレイド伯爵領での生活も無駄じゃなかったかなって思えますよ」
「それもそうね。そうそう、魔力を増やす方法なんだけど、さっきも軽く言っちゃったけど魔力を枯渇させる事が大事なのよ」
ロールズの説明では、魔力は枯渇を経験する事で許容量が増えると言われており、枯渇を繰り返す事で総量も徐々にではあるが増えていく。
最終的な限界はあるのだが、それでも魔力の存在すら知らなかったカナタの魔力量が増える可能性は非常に高く、それも踏まえてロールズはカナタにあれやこれやと作品を作るよう口にしていたのだ。
「そういう事なら先に説明しておいてほしかったです」
「知っているものとばかり思っていたのよ、ごめんね」
苦笑しながら謝罪を口にしたロールズだったが、それ程に魔力を増やす方法というのは世間一般的に知られている事だった。
「それなら、俺が限界まで作品を作り続ける事で自然と魔力総量も増えるって事ですか」
「私としては作品も増えるしカナタ君の魔力総量も増えるしでありがたいんだけどね」
そんな会話をしている最中もカナタは包丁を複製している。ロールズの予定では二百本までは制作し、それをワーグスタッド騎士爵領の各都市で販売するとの事。
すでにカナタが通って来た都市については伝えてある。それでも二百本というのはあくまでも第一弾の目玉商品であった。
「第一弾はロールズ商会の名前を知ってもらうために大盤振る舞い! 儲けをギリギリまで下げて販売していくわ!」
「その後は徐々にブランド力を高めて儲けを上げる事にシフトチェンジする、でしたっけ?」
「その通り! いきなり見知らぬ商会が成り上がるなんて無理だからね。本来ならコツコツやろうと考えていたけど、武器があるなら積極的に前面へ出して名前を売るわ!」
「包丁が武器になるのか?」
「その答えをカナタ君は知っているでしょう!」
ロールズの言う通りだった。
カナタがここまで来られたのも、通って来た都市で包丁を売りながら稼いでいたからだ。中には剣を打ってくれと言ってくる者もいたのだが、そこは丁寧に断っていた。
リッコが急いでいたというのもあるが、一番の理由は見習い鍛冶師である事が大きかった。
自らの意匠を施す事ができない。いや、実際にはできるのだが後に師匠がいないとバレてしまうと購入者から文句を付けられる事だってあるのだ。
「そういえば、俺の師匠と言うか、バッジと意匠はどうなってるんですか?」
そこをどうにかしようと動いているのがロールズである。
最初に提案した通り、カナタのバッジと意匠はロールズが準備している。それが完成次第、カナタには包丁よりも高く売れる武具を作ってもらう予定なのだ。
「あと五日くらい時間を貰っていいかしら?」
「俺は構いませんけど……ロールズさん、本当に大丈夫ですか?」
「私がやるって言ったんだから大丈夫よ。カナタ君の事も絶対に守るし、信じてちょうだい」
すでに一蓮托生だと思っているカナタはロールズの言葉に大きく頷き、今日も魔力枯渇を起こすまで包丁を複製するのだった。
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