第44話:カナタの錬金術

 思わぬ言葉にロールズは口を大きく開けたまま固まってしまい、リッコとリスティーは手で顔を覆ってしまう。

 だが、カナタとしては当然の疑問であり、どうする事もできなかった。


「……え? だって、錬金術だよ? 俺が知るわけないじゃんよ!」

「それはそうなんだけど……どうするのよ、ロールズさん!」

「これは大問題よ、ロールズ?」

「……ち、ちなみになんだけど、カナタ君。鍛冶の時はどうやってるのかな?」


 絞り出したかのようなか細い声で質問を口にしたロールズに、カナタは感じた事を素直に答えていく。


「そうですねぇ……最初は剣を片手に持ちながら素材に触れたら複製されて、次がナイフをイメージしながらで……まあ、こんな感じ?」

「情報が少なすぎるわよ! だったら錬金術も似たようにやってくれませんかねえっ!」

「大声を張り上げないでくださいよ! もう、イメージしたらいいんでしょう! イメージしたら――え?」


 作業台に手を付きながら叫んだカナタだったが、その瞬間に素材が光を放ち始めた。

 何が起きたのか理解できない四人だったが、その中でロールズだけは満面の笑みを浮かべていた。


「おおおおぉぉっ! これよ、これなのよおおおおぉぉっ!」

「な、何が起きているのよ!」

「どういう事、カナタ君!」

「お、俺にも分かりませんよ!」


 光を放ち続ける素材は、錬金鍛冶の時と同じように独りでに動き始める。

 その動きは鉱石と不純物を取り除くように左右に分かれていき、鉱石の方は一塊になってインゴットの形へと変わっていく。

 錬金術の事を全く知らないカナタだったが、目の前で起きている現象こそまさにイメージした通りのものであり、錬金術で行える内容の一つでもあった。

 そして、光が失われた後に残されたのは、完全に分別されて一塊になった銀鉄のインゴットと、付着していた土や砂などの不純物の塊だった。


「……これで、いいのか?」

「…………で……」

「……で?」

「できるじゃないのよおおおおぉぉっ! カナタ君、あなたは私の神様だよおおおおぉぉっ! 結婚して、そのまま結婚してちょうだああああい!」

「ちょっとロールズさん! あなた何を抜け駆けしてるのよ! 結婚とか、早すぎるでしょうが!」


 突然のプロポーズにポカンとしていたカナタの代わりにリッコが割って入り文句を付けている。

 抜け駆けと口にしている辺り、自分も多少は気があると言わんばかりだがそんな事には気づいていない。

 リスティーだけは目ざとく気づいていたのだが、この場が収まるまでは黙っていようとニヤニヤしながら騒動を眺めていた。


「だってー? カナタ君はロールズ商会が面倒みるわけだし長い付き合いになるんですよー? だったらいっそのこと結婚して一緒になった方が話は早いじゃないですかー?」

「あなた、商会のためになる事に関しては冷静さを欠き過ぎよ! カナタ君の気持ちもあるでしょうが!」

「だったらカナタ君が頷けば良いって事ですね!」

「え? ……いや、でも、それは……ええええぇぇ?」


 そこで何故リッコが顔を赤くするのか理解できないカナタだったが、とりあえずの返答はすでに決まっている。


「あ、遠慮します」

「即答かい!」

「それよりも錬金術ですよ。これ銀鉄ですよね? いやー凄いですねー驚きですねー」

「なんか気持ちがこもってないように聞こえるんだけどおっ!?」


 勝手に暴走したロールズの相手などやってられないと言わんばかりに話題を変えたカナタに乗っかったのはリスティーだ。


「でも、これは本当に凄い事よ、カナタ君」

「……ですよね。錬金鍛冶って名付けも、あながち間違いじゃなかったって事か。……クソ親父の目もだけど」


 カナタの力の光を見て最初に錬金術と口走ったのはヤールスである。

 全く尊敬できない性格と鍛冶の腕前だったが、錬金術への嫌悪感だけは一流だったという事だろう。


「……くっ! 仕方ない、仕事の話に戻るわよ! カナタ君が錬金術も鍛冶もできるってのは分かったわ! これなら錬金術師と鍛冶師の二人を囲っているように見せる事もできるし、もしカナタ君の存在がブレイド伯爵にバレたとしても錬金術師として囲っていると言えるわね!」

「……それ、むしろめちゃくちゃ文句を言われそうな気がする」

「バレた場合の話よ! それに、それならそれで言わせておけばいいんだし? 私的にはそれ以上関わってくる事もなくなるから万々歳だわ!」


 ロールズなりに色々と考えてくれていたのだと知り、カナタは錬金術ができた事にホッと胸を撫で下ろす。

 そして、昨日質問された未来予想図を大きく書き換えなければならないなと内心で思うのだった。

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