第43話:お試し錬金術
リスティーの家で一晩過ごしたカナタは、そのまま一緒にギルドビルへ向かう事になった。
だが、その入口でちょっとした一悶着が起きてしまう。
「ど、どうして我が家に来てくれなかったのだ、カナタ!」
「ちょっと、お父様!」
「私の事はお父さんと呼んでくれても――ぐふぉ!?」
「黙れバカ親父!」
見た事のある光景に苦笑いを浮かべつつ、地面に転がっているスレイグに会釈をして早足で中に入ってしまった。
「お、おい、リッコ。大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。あんなもん、毎日だし」
「……毎日腹にパンチを入れてるのか?」
「そんな事よりも! 今日の予定、覚えているのよね?」
「そんな事って……まあ、覚えてるけどさぁ」
今日の予定と言われ、カナタは頭を掻きながらそう口にした。
「錬金術ねぇ……全く知識のない状態で、本当にできると思ってるのかな、ロールズさんは?」
「どうかしらねー。でも、あの光は確かに錬金術みたいだったし、できたらラッキーくらいに思っとけばいいんじゃないの?」
「ずいぶんと簡単に言うけどさ、やるのは俺なんだぞ?」
「そりゃ簡単に言うわよ。やるのは私じゃないんだし?」
「……お前なぁ」
「まあ、そこまで深刻に考えるなって事よ!」
ため息をつきながら下を向いたカナタだったが、最後の言葉を受けてそれもそうかと開き直ることにした。
できなくて当たり前、できたらそれも含めて自分の力なのだと思う事にしたのだ。
「あっ! 遅かったじゃないのよ!」
二階に上がると、すでに待ち構えていたロールズから声を掛けられると腕を取られて商人ギルドの一室へ連れて行かれる。
追い掛けるようにリッコとリスティーも部屋に入ったのだが、そこでふと疑問が浮かんできた。
「あれ? リスティーさんは職人ギルドに向かわなくていいんですか?」
「え? 私、今日は非番だもの」
「……なんか、すみません」
自分のせいでリスティーに面倒を掛けていると思ったカナタは即座に謝ったのだが、当の本人は笑いながらそうではないと口にした。
「カナタ君が謝る事じゃないですよ。単に私も興味があるだけですからね」
「……ありがとうございます」
素直にお礼を口にしたカナタだったが、二人に疑いの眼差しを送る者がいた。
「……あの二人、怪しくない?」
「……浮気かしらねぇ?」
「「……おい!」」
小声とも言えない大きさの声で怪しいだの浮気だの口にして、二人からツッコミを入れられてしまう。
それでも表情を変えないリッコとロールズに呆れつつ、カナタは話を進めようと話題を変えた。
「それで、ロールズさん。ここに連れてきたのは、錬金術をこの部屋でやるからですか?」
「その通りよ!」
「普通、職人ギルドに行きませんか? 錬金術師も職人ギルドの管轄ですよね?」
「その通りね。ロールズ、どうして商人ギルドの部屋に錬金術のための魔法陣に錬金前の素材があるのかしら?」
事実、職人ギルドの一室に鍛冶場があったように、別の部屋には錬金術のための部屋も用意されている。
一から錬金術の部屋を用意しようとなれば魔法陣の構築なども含めて面倒この上ない。
このような手間を省くために各ギルドを一つにまとめたギルドビルがあるのだから、職人ギルドのギルドマスターであるリスティーからすると納得できるものではなかった。
「今回は私が全ての素材を準備しました! なので、魔法陣もこちらで用意する必要があると判断しました!」
「んなわけあるかあっ! あなた、ギルドビルの本質をぶち壊すつもりですか!」
「だって! 少なからず職人ギルド管轄の施設を使ったら利益を取られちゃうじゃないですかー!」
「ここも一緒でしょうが! 部屋の使用料、掛かってるでしょうに!」
「あ、ご安心を。この部屋の権利を一年間だけ買い取りましたから」
「だから意味のない事はしないで職人ギルドへ……は?」
あまりに予想外の答えだったのか、リスティーは自分の意見を口にしている途中で驚きの声を漏らした。
「ですから、この部屋の権利を一年間だけですが買い取ったので、その間は部屋の使用に関しては商人ギルドにも利益は入りません」
「……あなた、何をしているのかしら?」
「その方がカナタ君を守れると思ったから買い取りました」
「え? 俺のため?」
「もちろん、ロールズ商会のためでもありますよ。ですが、専売としてやっていくからには職人を守るのも商会長としての役目ですからね。本当は専用の建物があればいいんだけど、新興商会だとまだそこには手が出ないんですよ」
最後の方は苦笑しながらになったものの、自分のためだと分かったカナタにはロールズの気持ちがしっかりと伝わっていた。
だが、それだけにどうしても腑に落ちない事がある。
「ロールズさん。そのお気持ちは非常にありがたいんですが……俺、錬金術できるかまだ分かりませんよ?」
「大丈夫! それが無理なら鍛冶場に改装を――」
「無理に決まってるでしょうが! 魔法陣だけとは違って火も扱うのよ! 火を扱う申請がなければ火気厳禁なんだからね!」
「うええぇぇっ!? カ、カナタ君、絶対に錬金術をやってみせてね!」
「んな無茶苦茶な!」
「ほら! 素材ならここにあるから、やってみてちょうだい!」
今にも泣き出しそうな目で見つめられ、カナタは仕方なく魔法陣の上に置かれている素材の前へ移動する。
だが、立ち止まってからふと考える。
「……え? 何をしたらいいの?」
何度も言うが、カナタには錬金術の知識など欠片も存在していないのだ。
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