第42話:一方その頃……②
ライルグッドを乗せた馬車は王都へ到着した。
すぐにでも陛下に報告をと思っていたライルグッドだったが、タイミングが悪く他国の使節団が訪れておりそちらの対応に追われていた。
「くそっ! 時間を無駄にしている暇などないというのに!」
「落ち着いてください、殿下」
自室の壁を叩くライルグッドを諫めようと声を掛けるアルフォンスだったが、それでも怒りを収める事はできない。
そして、その怒りの矛先は使節団からヤールスに向いていく。
「そもそも、あのバカ伯爵は何なのだ! 前々からダメだと思っていたが、あれほどのナイフを作り出す息子を勘当するとは、あり得ないだろう!」
「それは私も同感です。大方、自分よりも優れた実力を持つ息子に嫉妬心を向けたのではないかと」
「息子に追い抜かれるのは親の誉れではないのか? これでカナタ・ブレイドまであのようなバカに育っていたらどうしようもないぞ」
「それはないかと思います、殿下」
ライルグッドの懸念をアルフォンスは否定した。
「ブレイド伯爵の様子だと、五男のカナタ・ブレイドにはそれほど関わってこなかったかと考えられます。反面教師はしても、あの背中を見て尊敬などできないでしょう」
「そうであればよいがな」
ライルグッドが戻ってきたから数時間後、ようやく陛下への謁見が許された。
いくら第一王子だからとはいえ、公の場では許可なく陛下に謁見する事を許されていないのだ。
早足で謁見の間へ向かうと、扉を空け放つや否や口を開いた。
「陛下!」
謁見の間にいたのはライルグッドと同じ美しい長い金髪を揺らす陛下と、先ほどまでの謁見を補佐していた大臣たちが残っていた。
「どうしたのだ、ライル。お前らしくもないぞ? それに視察はどうしたのだ?」
「大事なお話がございます。……例の件で」
「……ライルとアルフォンス以外は下がれ」
ライルグッドの言葉の意味を理解した陛下は、事情を知る二人以外を下がらせる。
「……して、見つかったのか」
「いいえ、見つかっておりません。ですが、その者である可能性を秘めた者の情報を得ており、従っていた護衛騎士に捜索させております」
「そうか。だが、情報とは? 確信を得る何かがあったのか?」
「はい。こちらをご覧ください」
ライルグッドは布に包み懐に入れていたナイフを取り出して陛下に手渡す。
包みを解きナイフを確認した陛下の顔色が一気に変わった。
「……ライルよ。これをどこで手に入れたのだ?」
「ブレイド伯爵の館にて」
「ブレイドだと! だが、あそこは過去の栄光にしがみついているだけの落ちぶれた貴族ではなかったか?」
「その通りです。事実、当主のヤールス・ブレイド伯爵はどうしようもない男でした」
「ならば、これはいったい?」
「そのナイフはブレイド伯爵の五男、カナタ・ブレイドが作り出した作品だと口にしていました」
「……カナタ・ブレイドか」
カナタの名前を口にしながら再びナイフに視線を落とす陛下。
ただの鉄から作られたにしては美しすぎる輝きを放ち、シンプルな作りではあるが不思議と目を向けてしまう存在感を持っている。
「……ん? だが、ブレイド伯爵の息子であれば館にいたのではないのか?」
「それがですね……」
ライルグッドは包み隠さずにヤールスの愚かな所業について陛下に伝えた。
話の最初は真剣な面持ちで聞いていた陛下も、カナタが勘当されたと聞いたところでこめかみに血管が浮き上がってくると、ライルグッドとアルフォンスの見解を含めた話から、最終的には怒号を響かせていた。
「な、何をしておるのだあっ! あんの落ちぶれ貴族があっ!」
「へ、陛下! 落ち着いてください!」
「この非常時に自らの嫉妬心で実の息子を勘当とは……いや、奴ならばやりかねんな! ライル! アルフォンス!」
「「はっ!」」
だが、怒り狂っている場合ではない事を陛下も承知している。
すぐに冷静さを取り戻すと二人へ王命を下した。
「我、ライアン・アールウェイの名において命ずる。必ずやカナタ・ブレイドを見つけ出し、王都へ連れてまいれ!」
「「仰せのままに、ライアン王!」」
ライアンの号令を受けて、二人は謁見の間を飛び出していった。
残されたライアンはすぐに人を呼びブレイド伯爵に対する沙汰を記した文書を作成すると、早馬で使者を遣わした。
「ブレイド伯爵領は広大じゃ。さて、誰に任せるかのう」
ライアンの言葉は誰の耳にも入る事なく、風に紛れて消えてしまったのだった。
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