第39話:短剣の行方は?
ロールズ商会の世話になる事、そしてカナタの名前を偽る事は決定した。
その中でロールズがどうしてもはっきりさせたい事がもう一つだけあった。それは――
「ねえ、リスティーさーん! 本当にその短剣、ギルドオークションに出すんですかー?」
「そうだと言ったでしょう」
「それ、私に売ってくれません? 損はさせませんから!」
「ダメに決まっているでしょう! これは決まりなの、往生際が悪過ぎなのよ!」
短剣を目にしてから、ロールズはこれを最初に商品として売りに出したかった。
しかし、職人ギルドの素材を使って作成した作品なのでギルドオークションに出すのが決まりだとリスティーは主張する。
カナタが同じ素材を持っていれば複製する事も可能なのだが、現状はないので無理な話だった。
「ねえ、リスティーさん」
「どうしたの、リッコ?」
「カナタ君が使った素材を私が購入するとしたら、いくらになりますか?」
「……短剣じゃなくて、素材の方を?」
突然の問い掛けに首を傾げるリスティーだったが、使われた素材が特に珍しいものでもなかったのですぐに答えが口に出る。
「鉄に獣の革に木材だから……全部で800ゼンスかしらね」
「なら、私がそれを購入します。カナタ君ならこの意味、分かるわよね?」
「あー……うん。魔力的にも複製なら問題ないと思う」
「え? どういう事?」
「いや、私に聞かれても分かるわけないですよ」
困惑するリスティーとロールズを置いて、カナタとリッコは話を進めていく。
商人ギルドでの細かな手続きは残っていたが、このままでは話が進まないだろうとリッコの提案でもう一度職人ギルドへと向かう事になった。
「ねえ、リッコ。いったい何をするつもりなの? また同じ事をするのかしら?」
「おっ! それなら私もカナタ君の鍛冶を見る事ができるってわけねー!」
「同じ事ではないですが、似たようなものですね」
「「……?」」
リッコの答えを聞いてさらに謎を深めていく二人は、視線をカナタへと向ける。
カナタとしては口で言うよりも見てもらった方が早いと思っているので、苦笑いをするだけで答えはしなかった。
「それじゃあまずは……はい、800ゼンス」
「は、はぁ」
「それで、何を見せてくれるんですか!」
「リスティーさん。短剣を一度お預かりしてもいいですか?」
「えっと、構わないけど?」
困惑した表情のリスティーから短剣を受け取ったカナタは、準備された素材と向き合い複製の錬金鍛冶を発動させた。
光を放つ部分に関してはロールズだけが大騒ぎしていたが、光が収まると作業台に全く同じ短剣がもう一振り置かれている事に気づいたリスティーまでもが声をあげていた。
「うおおおおぉぉっ! 何よこれ! 鍛冶じゃないじゃないのよ!」
「ちょっと待って! なんで全く同じ短剣があるわけ? え、え? これは夢なの?」
「現実ですよ。カナタ君、魔力は問題なさそう?」
「大丈夫ですけど、これ以上は一度休まないと無理っぽいです」
「「答えになってないわよ!」」
淡々と話を進めていく二人にリスティーとロールズが叫ぶ。
そこでカナタが錬金鍛冶の複製能力について説明すると、あまりの驚きに二人とも口を開けたまま固まってしまっていた。
「……複製なら、少ない魔力で作れる?」
「……はは。これは確かに、鍛冶師が見たら悲鳴をあげたくなるわね」
そして、複製されたもう一振りの短剣を手にしたリッコがロールズの目の前で立ち止まると――
「……はい」
「え? ……あの、え?」
「ロールズ商会の最初の商品として売りに出すんでしょう? 安くで販売したら、承知しないからね?」
「……いいんですか?」
「ほ、本当はもっとちゃんとした商会にカナタ君を預けたいけど、カナタ君が決めた事だからね! ……まあ、少しくらいは力になってあげてもいいわよ?」
最初に断るよう言い続けていたからか、リッコは非常に申し訳なさそうな顔をしている。それでも差し出した手を引っ込めようとしないのは、その言葉が本心だからだろう。
その事に気づいたロールズは片膝を付きながら短剣を受け取った。
「ありがとうございます、リッコ様。ロールズ商会は、誠心誠意を尽くしてカナタ君を守り、その作品を最高の形で売り出す事を誓います」
「……よろしくね、ロールズさん」
「……はい」
最後はお互いに苦笑しながらも握手を交わしていた。
自分でも予想だにしていなかった展開に驚きの連続だったのはカナタも同じだった。
リッコに助けられ、リスティーやロールズにも助けられている。
自分が彼女たちを助けるには何ができるのかを考え、その答えが一つしかない事は明白であった。
「俺も頑張ります。最高の一振りを作って、ワーグスタッド騎士爵領を盛り上げて、ロールズ商会の力になれるように!」
心の内に止めるでなく、あえて言葉にする事で自分に言い聞かせる。
「あ、その件なんだけど一つ質問」
「……何ですか、ロールズさん?」
そこへやや力の抜けるようなトーンでロールズが口を挟み、カナタはやや拍子抜けしてしまう。
「さっきのがカナタ君の鍛冶だというなら、錬金術みたいな光だったわよね?」
「まあ、そうですね」
「私が錬金鍛冶と名付けました!」
「錬金鍛冶ねぇ……カナタ君って、錬金術もできたりしないかしら?」
「「「……はい?」」」
あまりにも予想外な質問に、三人は呆気に取られてしまった。
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