第35話:錬金鍛冶の実力を示す

 通された部屋の中には鍛冶道具が一式揃っていた。

 入ってきたのはカナタとリッコ、そしてリスティーの三人。残りの二人はそのまま仕事に戻った。


「ここでカナタ君の鍛冶の腕前を見たいと思っているのだけど……かなり違った作成方法なんだって?」

「は、はい。俺のクソ親父はたまたま居合わせて、錬金術と勘違いしたみたいで」

「……? 錬金術と鍛冶を勘違いなんて、するものなのか?」

「まあ、見てもらった方が早いですね。……ここの素材を使ってもいいんですか?」


 手持ちの素材がなかったカナタは部屋に置かれている素材を見て問い掛ける。


「構いませんよ。そうそう、出来上がった作品はこちらで管理させてもらってもいいですか?」

「あ、はい」


 素材を提供してもらっているので当然だと言わんばかりに即答する。


「でも、その作品はどうするんですか?」

「出来にもよりますが、素晴らしい作品であればギルドオークションに出して運営資金の足しにします。そして、売れた金額の三割を作成者にお渡ししています」

「あれ? リッコがパルオレンジでギルドオークションにかけた時とは配分が違うような?」

「あれは私に所有権があったからね。ギルドに一割、持ち込み者に九割って配分なのよ」


 配分の違いについて確認を行い、再びリスティーに質問を続ける。


「出来が悪ければ?」

「全く使えないものとかでなければ、必要な場所に無償で提供されます」


 全く無駄にはならないと知ってホッと胸をなでおろす。

 今までのように上手くいけば問題はないのだが、錬金鍛冶にはいまだ分からない事が多い。

 絶対に成功すると言えない分、不安も付いて回るのだ。


「それじゃあ始めてもらえるかしら? 鎚は自分のものを持っているでしょう? 後は――」

「いえ、ここにあるものは素材以外は使いません」

「……使わないの?」


 キョトンとした表情で驚きを隠せないリスティーを横目に、カナタは鉄と獣の革、そして木材を選んで作業台に並べる。

 頭の中でイメージを確立させると、カナタは素材の上に両手を添えて錬金鍛冶を発動させた。


「……え? 何よ、この光は!」

「ふっふふーん! どうよ、リスティーさん! 私が連れてきた職人は!」


 ギルマスに任命されるくらいには場数を踏んできたリスティーだが、それでも目の前で行われている作業は初めて目にする。

 その中で素材が自動的に動き、結合され、形作られている様子を見ていると、新しいものに触れる事ができ内心では高揚していた。


「……凄い。これは凄いわ!」

「ふっふふーん!」

「…………どうしてリッコがドヤ顔をしているのかしら?」

「うーん……勧誘してきたから?」

「何よそれ」


 呆れ顔のリスティーにもめげずにリッコは大きな胸を張りながらドヤ顔を決めている。

 そんな話をしていると、錬金鍛冶の作業は最終段階へと進んでいく。

 最後に準備した魔物の革が柄に巻き付いていき、簡単には剥がれないよう魔力で貼り付けられた。


「……うぉお?」

「カナタ君!」

「……だ、大丈夫。ちょっと、魔力を使い過ぎてるみたい」


 一瞬だけふらついたものの、すぐに持ち直して大きく息を吐く。

 そして、目を見開いて気合いを入れると体の中から一気に魔力が吸い出されて感覚を覚えた。

 ただでさえ消費していた魔力が吸い出されてしまいふらつきだけではなく眩暈まで感じ始める。

 それでも踏ん張れているのは、自分の可能性を示す絶好のチャンスだと考えているからだ。


「……上手く、いって、欲しいいいいぃぃっ!」


 目を見開いて声を張り上げると、今まで以上に激しい光が出来上がった作品から放たれる。

 見守っていたリッコやリスティーは眩しすぎて瞼を閉じてしまったが、カナタは激しい光にも瞼を閉じる事なく作品を真っすぐに見つめていた。そして――


「…………できた」

「「……で、できたの?」」


 ゆっくりと瞼を開いていく二人に対して、カナタは大粒の汗を額に浮かべながらニコリと微笑み小さく頷く。


「ご確認をお願いします、リスティーさん」

「……分かったわ」


 胸に手を当てて小さく息を吐いたリスティーが前に出て作業台に置かれている短剣を手に取る。

 じっくりと眺めて鑑定をしていくリスティーの表情は真剣そのものであり、カナタは背筋を伸ばして緊張しながら結果を待つ。

 しばらくして顔を上げたリスティーは――親指をグッと立てて前に突き出してきた。


「完璧ね! これならギルドオークションに出して大金が得られるわ!」

「……ほ、本当、ですか?」

「どんなもんだい!」

「「……だからなんでリッコがドヤ顔なの?」」

「えっへん!」


 ツッコミを入れられても何ら気にした様子がないリッコに二人は呆れ、顔を見合わせると苦笑する。


「ちょっと! なんで笑っているのよ!」

「なんでもないわよ」

「あぁ、これがリッコだもんな」

「あー! それ、どういう意味よー!」


 頬を膨らませて怒っているリッコに、今度は声をあげて笑ってしまう二人なのだった。

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