第34話:職人ギルドへと登録

 そのまま話は進み、カナタは職人ギルドに登録する事になった。

 ギルドには複数登録する事も可能で、職人の中にも計算ができる者は自ら販売をするために商人ギルドに登録する者もいる。

 カナタもそのようにしようかと思っていたのだが、そこをリッコが断固として反対してきたのだ。


「だってカナタ君、明らかに価値のある包丁を200ゼンスで販売したでしょう? あれはもったいなさ過ぎ!」

「だって、少しでもみんなの役に立ちたかったし、包丁くらいなら問題ないだろう?」

「大ありよ! いいかしら、カナタ君? 良いものが安くで買えたら当然購入者は喜ぶわよ。そりゃー喜ぶわ。でもね、販売するのはカナタ君だけじゃないのよ?」

「そりゃそうだろう。他にも鍛冶師はいるわけだしな」

「かー! なんで分からないかなー!」


 頭を抱えながら話しているリッコを見ても、カナタには何が問題なのかさっぱり分からなかった。


「いいかしら? 今まで鍛冶で生計を立てていた人がいます。そこへ急に自分よりも腕のある鍛冶師が現れました。さて、どう考える?」

「うーん……もっと良い作品を作らないと、とか?」

「違う! それもあるけど、一番に考えるのは同じ生活ができるかどうかよ! 多少売り上げが減るくらいなら問題はないけど、生活ができないくらいに減ってしまうのはきついわ、きつ過ぎる!」

「……えっと、そりゃそうだな」

「だーかーらー! カナタ君が大量に質の良い包丁を格安で販売しちゃったら、その人の生活が破綻しちゃうの! 販売には適正価格ってのがあるのよ!」


 そこまで言われてカナタはようやく気がついた。

 カナタの包丁は明らかに適正価格を大きく下回っている。そうなると、適正価格で販売している鍛冶師の作品は購入されなくなる。さらに質でも負けているとなれば当然の話だった。


「いいかしら? 適正価格、これ大事! 良いものを安く売るのも大事だけど、それは時と場合によるって事よ!」

「……はい、気をつけます」

「というわけで、カナタ君は職人ギルドにだけ登録して、販売は商人ギルドに一任するに限る! いいかしら?」

「……はい、リッコの言う通りで構いません」

「がははははっ! いやはや、カナタはリッコの尻に敷かれているなあ! なあ、リッコ。このまま二人がくっつく――ぐふぉ!?」

「黙れバカ親父!」


 何かを言おうとしていたスレイグだったが、突然腹部に拳をめり込ませたリッコのせいで苦悶の声を漏らした。


「……何してんの、リッコ?」

「ん? いやー、なんでもないよー? あははー!」

「……ぐぐ……な、なかなかやるじゃないか、娘よぉぉ」

「それじゃあ私たちは職人ギルドに向かうから! ついて来ないでよね、お父様!」

「えっと、さっきはバカ親父って――」

「行くわよ! カナタ君!」

「は、はい!」


 謎の威圧感を放つリッコの提案を断れるはずもなく、カナタは苦しむスレイグを横目にしながら部屋を後にしたのだった。


 足を運んだ先は一階にある右奥のフロア。

 ギルドビルには一階の右奥に職人ギルド、中央に冒険者ギルド、左奥に薬師ギルドが存在しており、二階の中央に商人ギルドが入っている。

 二階の左右のフロアは現在空きになっており、今後ギルドが増えた場合はそちらに入る事となる。


「……ここが、職人ギルド?」

「そうよ! ……まあ、今は職人自体が少ないからこんな有様だけどねー」


 職人ギルドのフロアは結構な広さを持っているが、現在いる職員は三人。リッコの話によると、総数でも五人しかいない。

 数十人は入れるフロアを総数五人で使っていると考えると、無駄な空間ばかりではないかと思えて仕方がない。


「あら? リッコ様じゃないですか!」

「本当だ! リッコ様、お久しぶりです!」


 女性と男性の職員が笑みを浮かべながら入口に近づいてくる。

 その声で気づいたのか、一番奥の机で資料を見ていた眼鏡を掛けた青髪の女性職員もポニーテールを揺らしながら顔を上げて立ち上がった。


「あら、リッコじゃないのよ」

「ただいま、みんな。リスティーさんもお久しぶりです」


 二人が様付けなのに対して、リスティーと呼ばれた女性職員だけは気安く話し掛けている。


「さっき帰ってきたのかしら?」

「はい。今日は職人ギルドに登録する人材を連れてきました」

「あら、それはありがたいわね。この子がそうなの?」

「あ、はい。カナタと言います!」

「カナタ君ね、よろしく。私は職人ギルドスライナーダ支部のギルドマスターを務めているリスティーよ」


 簡単な自己紹介を終えると、リスティーはカナタの事を上から下までくまなく見定めている。そして――


「服の上からだしはっきりとは言えないけど……カナタ君は鍛冶師かしら?」

「あ、はい」

「ふんふん……それで、師匠は誰かしら?」

「あー、それが、家を追い出されてしまい、師匠からもまだ卒業を言い渡されてなくて……というか、師匠がいたのかどうかも怪しい状況で……」

「ん? という事は、まだ見習いの鍛冶師って事かい?」

「まあ、そうなります」


 そこまで話をすると腕組みをして考え込むリスティー。

 そこへリッコが近寄り何やら耳打ちをすると、少し驚きの表情を浮かべてから一つ頷いた。


「……カナタ君。ちょっと来てくれませんか?」


 示された先は、職人ギルドのフロアから別の部屋につながる扉だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る