第27話:量産と販売
結局、その日は包丁を四本作ったところで魔力切れの兆候が見られたので終了となり、翌日の午前中に全く同じ作品の制作に入った。
すると、全ての素材を使い切って六本の包丁を作る事に成功したが魔力にはまだまだ余裕が見られる。
「……やっぱり、同じものを作るって作業にはそれほど魔力を消費しないのか」
少なくとも、イメージから作り上げるのと同じ作品を作る場合の魔力消費量の増減については確認する事ができたので、カナタとしては大満足だった。
そして、昼食を終わらせたカナタとリッコはその足で市場へとやって来た。
「おや? 昨日ぶりだね」
「また来ちゃいました」
最初に顔を出したのはボタ山を購入した老婆のところである。
「今日も何か買ってくれるのかしら?」
「いいえ。今日は俺の作品を見てもらおうと来ました。これなんですが」
そう説明しながら布に包んでいた包丁を一本取り出して老婆に手渡す。
「ほぅほぅ……ほうほう! これは、とても良い包丁じゃないかい?」
老婆が包丁を見ながら大きめの声でそう呟くと、別の買い物をしていた主婦たちが一斉に振り返る。すると、あっという間に人だかりができてしまった。
「ねえねえ! この包丁はあんたが作ったのかい?」
「これ、もっとあるのかしらねぇ?」
「切れ味を確かめたいわ! これ、試しに切ってみてもらえない?」
一人の主婦が鞄から果実を一つ取り出して老婆に手渡すと、その場で実演になる。
近くに置いていた板の汚れを払い落して果実を置き、包丁の刃をゆっくりと入れていく。
――スゥゥ。
力を込めなくても刃が入っていく事に老婆も驚いていたが、周りで見ていた主婦たちは大騒ぎだ。
「これ、おいくらなの! 1000ゼンス? 1500ゼンスかしら!」
「うぅぅ。購入したいけど、きっとお高いわよねぇ」
「でも、これがあれば料理が楽しくなりそうだわ!」
カナタへ詰め寄る者と、高いだろうと諦めて肩を落とす者と、購入した時の事を思い描いて微笑んでいる者と、反応は様々だ。
だが、カナタが発した一言に主婦たちの言葉がピタリと止んでしまう。
「……えっと、一本200ゼンス、です」
「「「「「……え?」」」」」
「だから、一本200ゼンスですけど……ダメですか?」
「「「「「……買うわ!」」」」」
「うええぇぇっ!? ちょっと待ってください! 今は残り八本しかないんですよ!」
「「「「「争奪戦だわ!」」」」」
ローズが一本購入し、老婆に渡した一本は安くでボタ山を購入させてもらったお礼として渡すつもりだった。
その場でくじ引きが主婦たち主導で行われ、抽選に当たった八名が嬉しそうに200ゼンスを支払い包丁を購入していく。
売れるだろうとは思っていたカナタでもここまでの反響は予想外で、その後に外れてしまった主婦たちからはすぐに同じ包丁を作って欲しいと懇願され、その場から逃れるために必死に頷いている自分がいた。
「絶対よ! お願いね!」
「明日もこの時間でいいかしら?」
「楽しみだわ!」
主婦の波が去った後に残されたカナタは精神的に疲れてしまっていたが、自分の作品が目の前で売れて、さらに次も期待されているという事に嬉しさも感じていた。
「……リッコ、逃げたな?」
「……バレた?」
だが、主婦の波が迫ってきた直前に高速で逃げ出していたリッコにだけは恨み節をぶつけずにはいられなかった。
「助けてよ! せめてお客さんを捌くとかさ!」
「だってー。昨日はカナタ君も助けてくれなかったしー」
「あれは仕事をしてたからだろう! 今のリッコは単に逃げただけじゃないか!」
「……私にー、あの主婦たちを捌けるとー、本気で思っているのかしらー?」
「……いや、まあ、無理な気がするけど」
「でっしょー? だったらー、被害が少なく済むように逃げるが勝ちって感じ?」
ここまで潔く言い訳をされてしまうとカナタもこれ以上は無駄な門答になると考えてため息を付くに止めた。
しかし、ここで一番困惑しているのは二人ではなく、最初に包丁を手にした老婆だった。
「……私はこの包丁をどうしたらいいかしら?」
「え? あぁ、そっか。言うの忘れてましたね。それはお譲りします」
「……いいのかい?」
「もちろんですよ。俺が作った包丁は、昨日のボタ山から採れた鉄を使って作ったものなんです」
「そうなのかい? でも、買えなかった人の事を考えると申し訳ないわねぇ」
「まあ、さっきまた持ってくるように約束させられたし、大丈夫ですよ」
苦笑しながらそう口にしたカナタは、視線を老婆からその後ろに置かれているボタ山に向けた。
「後ろのボタ山も1000ゼンスですか?」
「そうよ。それじゃあ、先に鉄の確認を済ませるかい?」
「いえ、先にお支払いをします。何せ、今売れたお金がありますから」
その場で1000ゼンスを支払ったカナタはボタ山の確認を行い、昨日よりも多い鉄を手にする事ができてホッと一息つくのだった。
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