第25話:カナタの思惑
大量の鉄が交ざっている事が分かったボタ山から鉄を取り出す作業を行う間、リッコは領民にあちらこちらへ連れ回されていた。
中にはカナタの事を彼氏だと言っている女性もいたのだが、リッコは慌てて訂正している。
「ちょっと、カナタ君! あなたからも何か言いなさいよ!」
「俺は仕事中だから任せた」
「ちょっとおおおおぉぉっ!!」
むしろ、領民はリッコの事は知っていてもカナタの事は知らないので自分が間に入ったとしても聞いてはくれないだろう、というのがカナタの考えだった。
そんな感じで作業を進めていると、鉄は剣二本分に相当する量が出てきた。
これで剣を作り、売却してお金に換える事もできる。しかし、カナタは全く別の事を考えていた。
「リッコー。作業できる場所ってあるかな?」
結構な時間を作業に費やしたのだが、リッコはいまだに領民から連れ回されている。
しかし、カナタの声が聞こえたのか早足でこちらまでやって来ると、カナタの腕を掴んで歩き出す。
「鉄は!」
「こ、この袋の中に」
「それじゃあさっさとギルドまで行くわよ!」
「え? ギルドでいいのか?」
「今日はギルドに泊まるからね! ってか、さっさと離れたいから行きましょう!」
「あ、あぁ。分かった」
この様子ではリッコが何者なのかは聞けないなと諦め、冒険者ギルドに戻ってきた。
「おや? もう戻ってきたのかい?」
「つ、疲れた~」
「その様子を見ると、みんなに見つかったみたいだね?」
「……そうよ! 本当に面倒だったんだからね!」
「いや、変装も何もしてないのに見つからないとでも思ったのかねぇ?」
「う、うるさいわよ! ローズのバカ!」
普段はお姉さんのように振る舞っていたリッコが、ローズには子供扱いされている姿を見て新鮮な気持ちになったカナタ。
しかし、心の機微を悟られたのかリッコはジロリとカナタを睨むと大股で詰め寄って来た。
「ちょっと! カナタ君も助けてくれてもいいじゃないのよ!」
「いや、領民との久しぶりの再会だったんだろ? 俺が邪魔をするわけにもいかないじゃん?」
「あの状況でよくそんなこと言えたわね!」
「だって、ほら? 俺には俺のやるべきことがあったわけだし?」
カナタは弁解しながら手に持っていた袋を持ち上げてリッコに見せる。
実際に作業をしていたカナタにこれ以上文句を言うわけにもいかず、結局はリッコが大きくため息を付くだけだった。
「おや? それは鉄の残骸じゃないかい?」
「残骸って……まあ、間違ってはいませんね。鉄屑を集めただけですから」
「なんだい? それで鍛冶でもやるってのかい? ここにはそんな設備はないよ?」
ここは冒険者ギルドであり、鍛冶場ではない。
冒険者限定で寝泊まりできる雑魚寝部屋はあるものの、鍛冶場までは併設していないのだ。
「分かってます。俺がやるのは……あー、その、普通の鍛冶とは違う方法ですから」
「普通の鍛冶とは違うって言っても、鍛冶は鍛冶なんだろう?」
この感じに覚えがあったカナタは口で説明するよりも見てもらった方が早いと考え、袋の中の鉄屑を少しだけ取り出してテーブルに広げた。
興味津々で横に立ったローズを横目に、カナタは大きく息を吐いて錬金鍛冶の準備に入る。
持ってきた量からすると明らかに少なく、剣一本にも及ばない。しかし、作る予定のものは剣ではなかった。
「本当は持ち手になる木材も欲しいんですが」
「木材だって? ……使わないもので良ければ持ってこようかい?」
「お、お願いします!」
カナタの推測の域を出ないが、木材があれば少しでも鉄を節約できると考えている。
ローズがギルドの裏からやや湿ってしまい薪にも使えなくなった木材を持ってくると、それも一緒にテーブルに置いた。
「……よし、やってみるか」
設備もなければ、鍛冶に必要ない薪にもならない木材まで使うと口にしたカナタ。
リッコが笑みを浮かべながら見つめ、ローズは木材を何に使うのかと考えながらやや遠くから見守っている。
右手で鉄屑に、左手で木材に触れたカナタは頭の中で作るもののイメージを固めると――鉄屑だけではなく木材までが光を放ち始めた。
「な、なんだい、こりゃあ!?」
「……なるほど。錬金鍛冶だから、鉱石以外にも作用するって事かしら?」
驚きの声はローズ。冷静に状況を分析しているのはリッコである。
カナタは自分のやるべき事に集中しており、周りの反応には全く気づいていない。
鉄屑と木材から放たれる光がカナタの目の前で混ざりあっていき、そして強い光へと変わり、イメージ通りの形へと変化していく。
鉄屑と木材が混ざりあったそれがゆっくりと下りていきテーブルの上で光を失うと、そこには一振りの包丁が出来上がっていた。
「「……包丁?」」
そして、リッコとローズは出来上がった包丁を見ながら首を傾げた。
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