第24話:リッコ
この日はリッコが狩ってきた魔獣素材を提出してお金に換えた。
無一文から3000ゼンスまで増やせたのはありがたく、この元手を使って鉱石を購入できればと二人は考えている。
向かった先はイジーガ村の市場なのだが、小さい村ながらとても活気がある。その要因となっているのが子供たちだろう。
大人が商品の値下げ交渉をしている間に子供たちは走り回って遊んでいるのだが、その時は顔見知りの他の大人や店主が見守っている。
よそ者のカナタではあるが、一目見ただけで人の温かさを感じる事ができた。
「ワーグスタッド騎士爵領は貧乏だけどさ。人が宝だって言ってくれる領主がいるんだ。良いところだと思わない?」
「……あぁ、そうだな。領地の端っこにある村でもこれだけ笑顔が溢れているんだから、領主の言葉に嘘偽りはないんだろうな」
人が宝だと、ヤールスが気づく事はあるだろうか。
そんな事を頭の片隅で考えていると、視界の端に気になる鉱石を見つけたので足を向ける。
「すみません」
「あらまあ、いらっしゃい。何か気になるものがありましたか?」
白髪の老婆が椅子に腰掛けながら子供たちを見ているところに声を掛ける。
「こちらはボタ山ですか?」
「えぇ、そうよ。まあ、多少は鉄も交ざっているだろうけど、どれくらい含まれているかは私にはさっぱりだけどねぇ」
「ねえ、カナタ君。これをどうするつもりなの?」
パッと見ではカナタでもどれくらいの鉄が含まれているかは分からない。だが、自分の身長くらいあるボタ山でもしっかりと確認さえできれば宝の山になるかもしれない。
「この山で1000ゼンスですか?」
「そうよ。あら、気になるのかい?」
「はい。できるだけ安くで多くの鉄を手に入れたいので。もしよろしければ」
「なら、調べてみる? 自分で調べる事もできるのでしょう?」
「……え? あの、いいんですか?」
調べてみて購入を決めたいと口にするつもりだったが、先に調べても良いと言われてしまい驚いてしまう。
もし大量の鉱石が採れるとなれば老婆を損をすることになり、また採れないと分かれば1000ゼンスすら手に入らないかもしれない。
その判断を購入前に調べても良いというのだから驚いて当然だろう。
「私としては、若い子が成長する機会になればいいくらいに思っていたからねぇ。全く構わないわよ」
「……ありがとうございます。でも、そういう事なら先に1000ゼンスをお支払いします」
「ちょっと、カナタ君?」
まさかの発言にリッコは驚いたものの、カナタにも考えがあった。
「パッと見ただけでも多少の鉄が見える。元が取れるかは分からないけど、これで作るものは決めているからね。お願いできるかな、リッコ?」
「……はぁ。分かったわよ」
「あらあら。ありがとうね、リッコちゃん」
「え? 知り合いなのか?」
リッコちゃんと老婆が呼んだ事で質問したカナタだったが、何故かリッコは答えてくれない。その代わりに口を開いたのは老婆の方だった。
「知り合いというか、ここの村の人はみんなリッコちゃんの事を知っているわよ?」
「……リッコって、実は有名人?」
「うふふ。そうかもしれないわね」
「もういいでしょう? 早く行くわよカナタ君!」
「いや、ボタ山の確認がしたいんだけど?」
「ぐぬぬ~!」
笑顔を絶やす事がなかった老婆からボタ山を購入したカナタはその場で確認をしたいと口にする。さすがにボタ山を冒険者ギルドに持っていくわけにはいかないからだ。
そうこうしていると、別の領民がリッコに気づいたのか声を掛けてきて、そこから一気にリッコの存在がイジーガ村に広まっていった。
「あら! リッコちゃん、久しぶりねぇ!」
「おー! リッコじゃねえか! なんだ、男連れか~?」
「リッコ姉ちゃんだ! ねえ、私大きくなったでしょ!」
リッコの周りにはすぐに人だかりができてしまった。
その様子を口を開けたまま見ていたカナタに老婆が笑いながら声を掛けた。
「うふふ。凄いでしょう?」
「……そ、そうですね。リッコって、何者なんですか?」
「まあ、それはリッコちゃんが自分で口にするはずよ。それよりもボタ山、確認しないのかい?」
ボタ山の確認を促されたカナタはリッコに疑問を感じつつも、老婆の言う事が正しいと思い視線を移す。
そして、その中に予想以上の鉄が含まれていた事に驚き、それがたまたまでは済ませられない量だった事もリッコの存在が気になる要因になっていたのだった。
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