第17話:錬金鍛冶の見解
「――……ぅ……ぅぅん」
目を覚ましたカナタだったが、しばらくはベッドで横になりながら天井を見つめていた。
どうして寝ていたのかと考え、自分が錬成鍛冶を行っていた事を思い出す。そして――
「……け、剣は!」
「あら、目覚めたのねー」
声をあげたタイミングでドアが開かれ、そこからリッコが入って来た。
「リッコ……俺は、どうしたんだ?」
「錬金鍛冶を終えた途端、倒れたのよ」
「倒れた? 俺が?」
「そうよ。今まではなかったの?」
リッコが手にしているグラスには井戸から汲んできた水が入っている。
「……いや、なかったな」
「そっか。まあ、とりあえず飲む?」
「あ、あぁ。ありがとう」
そのままグラスを差し出されたカナタはお礼を口にして受け取ると、そのまま喉に流し込む。思いの外渇いていたのか、一気に飲み干してしまった。
「……ぷはあっ! ……それにしても、どうして倒れたんだ?」
「まあ、錬金鍛冶は分からない事ばかりなんでしょう? 今日はもう動けないだろうし、少し検証の時間に当てたら?」
「そうだ! お、俺はどれくらい寝ていたんだ? それに……今は夜なのか」
窓から外を見ると月が空に浮かんでいる。数時間なのか、それとも一日以上寝ていたのか。
「三時間くらいよ。……私の見解を述べてもいいかしら?」
「見解? ……うん、お願いするよ」
自分が世間知らずである事を自覚したカナタは、素直にリッコの見解を聞くことにした。
「カナタ君が倒れたのは、魔力枯渇によるものだと思う」
「魔力枯渇? でも、俺は魔力なんて持ってないぞ?」
魔力とは、魔法を使うために必要な力をされているが基本的には才能だと言われている。持っている者は持っているが、持っていない者は全く持っていない。
カナタはヤールスから魔力があるとは聞いていないので、元からないものと考えていた。
「基本的に魔法を使うには大量の魔力が必要とされているわ。だから、魔導師以外は基本的に魔力がないと言われている。でも、そうじゃないのよ」
「……そうなのか?」
「そうよ。魔法を使えるだけの魔力を持っていないだけで、全ての人が魔力を持っている。錬金術も発動するには魔力を使っているしね」
「知らなかった。……しかし、リッコは詳しいんだな」
頭を使うよりも体を動かす事に長けていると思っていたリッコが博識だった事に驚いたカナタだったが、リッコは大きな胸を張りながら自慢気だった。
「えっへん! これでもワーグスタッド騎士爵領では近所に頭のいい人がいてね。小さい頃は暇潰しにお邪魔してたのよー」
「暇潰しかよ!」
「あははー! まあ、そのおかげでこうして色々と考える事ができてるんだよー?」
「……それは、ありがたいけど」
ため息を付きながらそう口にすると、今度は自分の見解を口にすることにした。
「……それじゃあ、今度は俺の番だな」
「カナタ君も考えている事があるの?」
「あぁ。今まではこうして倒れる事はなかった。まあ、錬金鍛冶を行った回数が少ないんだけど、全てが違う状況だったんだ」
一回目はザッジの剣を完全に複製していた。
二回目は力の検証をしながらたまたまナイフと作り出した。
三回目も検証ではあったが鉄屑をナイフに、そして四回目は今までの鉄とは異なり銀鉄を使った錬金鍛冶である。
そして、一回目と二回目は同日で行い、そして三回目と四回目も一日の間に行った。
「魔力枯渇。リッコが言っていた誰でも魔力を持っているという事であれば、倒れた理由は間違いないと思う。なら、同日で二回の錬金鍛冶を行ったのに、最初と今日での違いは何なのかって考えたんだ」
「うーん……使った素材が違う?」
「それもある。だけど、それと同時に俺が作ろうとした作品のイメージにも原因はあると思ってる」
「イメージ?」
カナタの見解はこうだった。
リッコの言う通り素材が違う事でも消費する魔力が増減するだろう。さらに、イメージが緻密であればあるほど、その形を作り出すために魔力を多く消費するのではないかと考えたのだ。
「なるほどねー。って事は、今回は素材が変わった上に緻密なイメージを形作ろうとしたから魔力を消費して倒れたって事?」
「たぶんですけどね。……なあ、リッコ。魔力って増やせられないのかな?」
魔力が増えればできる事も増えるだろうと思ったのだが、そう甘くはなかった。
「ごめんねー。私も聞きかじっていたくらいで、魔力とか魔法については詳しくないんだよねー。ワーグスタッド騎士爵領に行けば、その近所の人に聞けるんだけどさー」
「そうだよな。いいよ、無理を言ってすまない。……そういえばさっき、俺は錬金鍛冶を終えて倒れたって言ってたけど、剣は完成したのか?」
実物を目にしていなかったカナタがそう口にすると、リッコはニヤリと笑って椅子から立ち上がる。そして、布に包まれて壁に立て掛けられていたものを手にして戻ってきた。
「これが、カナタ君が銀鉄で作った剣よ」
布を解いて取り出した剣をテーブルに置くと、カナタはその剣から目が離せなくなった。
「……これを、俺が作ったのか?」
「えぇ、そうよ。カナタ君が初めて本気の錬金鍛冶で作った剣。その第一号ね!」
そこに置かれていた剣は、カナタが過去に見てきたどの剣よりも素晴らしい出来に仕上がっていた。
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