第15話:剣の錬金鍛冶
裏露店通りを出たカナタは自然と笑みになっていた。
それを横で見ていたリッコは不安そうだが、カナタの目利きは間違っていなかった。
「ねえ、カナタ君。その鉱石は本当に大丈夫なの?」
「問題ないですね。質、量、共にね」
「でも、金額が……」
「あぁ、あれですか。俺も最初は疑いましたけど、おじいさんの立場だとしょうがないかなって」
「しょうがない?」
カナタが気づいた事、それは銀鉄を手に入れたルートだった。
大商会や貴族が銀鉄が取れる鉱山を購入してしまい個人の手にはほとんど渡らないはずだが、老人はそんな銀鉄を取り出してきた。
ならば、この銀鉄はどこから手に入れてきたものだろうか。
「俺の推測だけど、あまり良い方法ではないんだろう。だから、安くても買ってくれる客に売りたかった」
「それって、カナタ君がマズいんじゃないの? そんな出所の分からない銀鉄を持ってたらさ?」
「だから、さっさと剣にしちゃうんだよ。マズいのは銀鉄そのものであって、銀鉄を使った剣じゃない。何故なら、銀鉄を使った剣は市場に出回っているからね」
「……そういう事かぁ」
「リッコの剣も銀鉄でしょ?」
「あれ? よく分かったね、そうだよ」
抜いているところを数回しか見ておらず、間近で見た事は一度もない。それにもかかわらず見極めたというのはカナタの目利きあっての技だろう。
「そういう事だから、そのまま部屋に直行だけどいいかな?」
「私は構わないけど……部屋に直行かぁ……」
「ん? 何か用事でもあった?」
「……変な事しないで」
「またかよ!」
胸を隠す仕草を見せながらの言葉にカナタはやや顔を赤くしてツッコミを入れると、早足で前を行く。後ろから笑い声をあげてついてくるリッコはとても楽しそうだ。
「……はぁ。俺のこの先、大丈夫かなぁ」
そう呟きながら雲ひとつない空を見上げるカナタなのだった。
宿屋の部屋に戻ってきた二人は、早速売るための剣を作ることにした。
しかし、ただ剣を作れば良いというわけではない。
使い勝手はもちろんだが、高く売るなら観賞用として見た目にもこだわらなければならなくなる。
「冒険者が使うなら見た目は関係ないけどねー」
「そうなんだけどさ。剣を求めるのは冒険者だけじゃないって事。……まあ、パルオレンジの市場であれば観賞用にこだわる必要はないか」
貴族が屋敷を持っているような大都市であれば見た目にこだわって一発当てるなんて事も可能だが、パルオレンジに貴族の屋敷はない。
となれば、見た目は多少のこだわりを持ちつつ、使い勝手を重視して作るべきだと考えた。
「リッコの剣を見せてもらってもいいかな?」
「構わないわよ。はい」
「どわあっ! ……ぬ、抜身の剣を突き出すなよ!」
「あははー! ごめんねー」
冷や汗を流しながら剣を受け取ったカナタはリッコの剣をじっくりと眺める。
全長が80センチで刀身は50センチある。分類すると直剣に属する剣だ。
重さは1キロ強と全長からすると重いのだが、その分で威力が増すとリッコは愛用していた。
「切れ味じゃなくて威力の問題?」
「剣を活かすなんて技術、私にはないからねー」
「その割にはキラーラビットを一瞬で倒してたよな?」
「キラーラビットは戦い慣れてるからね!」
答えになっていないとカナタは思ったが、今回はリッコに合わせた剣を作るわけではないので置いておく。
そして、リッコの剣を受け取ってから5分が経ち――カナタの中で作るべき剣の形が決まった。
「……よし、やるか」
「大丈夫なの?」
剣を返してもらいながらリッコが心配そうに問い掛けると、カナタは苦笑しながら頷いた。
「分からないけど、ここで失敗したら一文無しだから成功させないとな」
「まあ、失敗しても私がお金を出してあげるから安心しなさい!」
「……いや、恋人でもない女性に金だけ出させるとか、どんだけダメ男だよ」
「あら、じゃあ恋人同士になっちゃう? ……変な事、する?」
「……リッコはもっとお淑やかになるべきだな、うん」
「はっ! ……なんだか、負けた気がする!?」
ついに恥じらうような事がなくなったカナタを見てリッコが冗談でよろよろと倒れ込む。
その姿に緊張が解けたのか、カナタは普段通りの笑い声を漏らして大きく息を吐いた。
「……ありがとな、リッコ」
「……いいのよー。それに、失敗したら本当にお金は出してあげるから全力でやってやりなさい!」
「おう!」
テーブルに置かれた銀鉄のインゴットに触れながら、カナタは頭の中に作り出す剣のイメージを強く思い浮かべた。そして――
「きゃあっ!?」
鉄屑を集めて行った錬金鍛冶とは全く異なる光が部屋の中に溢れ出した。
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