第14話:裏露店通りでの交渉
商品を見るためには元手を伝えなければならないが、正直に伝えていいものか考える。
今のままでは完全に老人のペースで話が進む事となり、最悪の場合には言葉巧みに粗悪品を購入させられるかもしれない。
もちろん、商品を見て断れば済むだけの話なのだが、目の前の老人からはそれができないかもしれないという雰囲気をカナタは感じ取っていた。
「……店主の質問に答える前に、俺から質問をしてもいいでしょうか?」
だから、まずはペースを五分に戻すためカナタからも質問を口にした。
「構いませんよ。仰ってください」
「……俺は剣を作るために鉱石を欲しています。彼女が腰に差しているくらいの剣です」
「ほうほう、そうですか」
「それだけの量を提供する事ができると判断してよろしいのですか?」
「金額にもよりますが、金さえ払っていただけるのであれば量は保証しましょう」
「量は、ですか。質はどうなんですか? 見た目はきれいでも中身がスカスカでは意味がありませんよね?」
「ほほほ。面白いことを仰いますな。ですが、ここは裏露店通り、そういう心配も分かります。ですが、儂のところではそのような事は致しませんよ」
「そうですか……」
カナタは再び考える。
量があると言質を取る事はできたが、これはあまり意味がない。しかし、よどみなく答えた事を考えると本当に鉱石があるのは確かだろう。
あとは質の問題だが、こちらも問題はないかもしれない。
何故なら、他の露店では買う意思がなければ邪魔だと怒鳴られていたのに対して、老人は買うかどうか分からないカナタに対してしっかりと門答ができている。
単に暇だったからと捉える事もできるが、商品に自信があって買わせる自信があると見る事だってできた。
「……元手は、2000ゼンスです」
「カ、カナタ君!?」
カナタの声が周囲の店主にも聞こえたのか、2000ゼンスしか持ってないと知られて周囲からは舌打ちが聞こえてくる。
「ほうほう、2000ゼンスか。これまた少ないのう」
だが、老人は変わらず対応してくれた。
「すみません。ですが、それで作った作品をより高く売れる自信はあります」
「いいや、構わんよ。ふむ、2000ゼンスで剣を打てる量の鉱石か……ならば、あれかのう。若いの、少し待っておれ」
そう言って老人は少年と共に建物の中に消えていく。
しばらくして、老人が先に出てくると少年の手には重そうに抱えている麻袋があった。
「どれ、こいつを見てみるがえぇ」
「……じい、ちゃん。これ、重たい!」
「あはは。俺に貸してくれるか?」
「はやく、とって、くれ!」
少年から麻袋を受け取ったカナタは早速中に入っている鉱石の目利きに入ろうとする。しかし――
「おっと、若いの。できれば中からは出さんでくれよ? これは、儂の露店の秘密じゃからな」
「……分かりました」
近くで露店を広げている店主が横目でチラチラと覗いている事に気づき、言われた通り麻袋に手を突っ込みその中で目利きを行う。
パッと見で鉱石が
銀鉄は鉱石の中では標準の価値があるとされており、市場に流通している武具のほとんどがこれで作られている。
作った剣を売るのであれば、無駄に価値の高い鉱石で作るよりも銀鉄で作った方が市場にも流れやすいと老人は判断して持ってきていた。
だが、銀鉄は流通している分、大きな力を持つ商会や貴族が銀鉄の鉱山を丸々買い占める事もあり、個人が手に入れる事は難しいとされている。
「……重さもある……確かに、これは素晴らしいと思いますが……」
「ん? 何か不満でもあるのかい?」
「不満はありません。ただ……これ、2000ゼンスでは足りませんよね?」
質、量、共に問題はなかったが、問題があるとするならば金額だった。
正規の値段であればこの量だと4000ゼンス、倍の金額は最低でも必要である。
そのことを理解しているからこそ、カナタは残念そうに麻袋を少年に返そうとした。
「いやいや、それを2000ゼンスで売ってやろうと言っているのじゃよ」
「……え? で、でも、さすがにそれは」
「若いのは、安い値段で質の良い鉱石を探していた、違うかい?」
「……その通りです」
「そのために露店通りからこっちの裏露店通りまで来た」
「……はい」
「ならば、問題はないのではないかい?」
意図が読めない、カナタはそう思っていた。
言っている事は正しく、裏露店通りであれば購入者の目利きが試されるので今のように安い金額で質の良い商品を購入できる事も少なくない。
ただし、今回は老人が価値を知っていながら安く売ろうとしているのだ。
「……そっか。分かりました、2000ゼンスで買います!」
「ほほほ。よろしい、売ろう!」
何かに気づいた様子のカナタはその場で購入を決め、老人に2000ゼンスを支払うと裏露店通りを後にした。
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