第13話:パルオレンジの市場

 市場にやって来た二人は露店通りにやって来ていた。

 質を保証する鉱石店に足を運んでも良かったのだが、それだと2000ゼンスでは剣を作るのに必要な質量を購入する事ができない。

 そのため、比較的安く購入できるが目利きが必要となる露店通りにやって来たのだ。


「ねえ、カナタ君。本当に大丈夫なの?」

「任せてくださいよ。これでも、鉱石を購入する時は担当の使用人にも頼まれて一緒に目利きをしていたくらいなんですよ?」

「……ねえ、カナタ君。その事をブレイド伯爵は知っているのかしら?」

「知っているんじゃないですかね? 使用人もそんな感じの事を言ってたから」


 使用人の言葉が本当なのか嘘なのか真偽を確かめる手段はなく、カナタが全く気にした様子も見せなかったのでリッコも話を切り上げる。

 その代わりにカナタの自信が経験から来るものだと知る事ができて満足していた。


「うーん……ないなぁ」


 だが、カナタが納得できる鉱石はなかなか見つからない。

 時折露店の店主から声を掛けられる事はあっても、カナタがそこに並ぶ鉱石を見て首を縦に振ることはなかった。


「露店通りはここだけ?」

「正規の露店通りはここだけだね」

「……正規の?」


 言葉の言い回しに引っ掛かりを覚えたカナタが聞き返すと、リッコは人差し指を立てて答えた。


「いわゆる露店通りと呼ばれているここは、村の役所に正式に届け出を出して構えている露店だって事。まあ、値段設定は置いといて店主の身分はしっかりしているはずよ」

「それじゃあ、正規の露店通り以外にも露店はあるって事?」

「そうなるね。ただし、そういう露店の店主は悪い事に手を染めている人もいたりするから、値段設定がさらにおかしな事になってたり、言葉巧みに粗悪品を売りつけられる事もあったりするわけ」

「なるほど。さらに目利きが重要になるって事か」


 腕組みをしながら露店通りを振り返り考えるカナタだったが、しばらくして口を開くとリッコの予想通りの言葉を発した。


「……うん。リッコ、別の露店通りに行こう」

「だよねー。そう言うと思ってたー」

「ダメなのか?」

「ダメじゃないけど……まあ、私もいるから大丈夫か」

「ん? どういう事だ?」

「まあ、行ってみたら分かるわよ。それじゃあ、こっちだからついてきて」

「……? 分かった」


 意味深な言葉を残して歩き出したリッコについていくカナタ。

 そして、到着した先でようやくリッコが言わんとしている事を理解したのだ。


「――ほらほらー! さっさと買わねえと無くなっちまうぞー!」

「――おいてめえっ! 買わねえならどけよ! 営業妨害でぶん殴るぞ!」

「――ねえ、そこのお兄さん。商品を買っていかないかい? 商品は、わ・た・し」


 怒声にも似た声や暴言が飛び交い、客と揉めた店主が殴り合いをしていたり、魅惑的な女性が足を踏み入れた男性を誘惑していたりと、確かに身分がしっかりしているとは言い難い人たちが露店を開いていた。


「……ここ、本当に露店通りなのか?」

「私はカナタ君の護衛になるわね、ここじゃあ」

「あ、だからリッコがいたら大丈夫って話だったのか」


 カナタだけでは気圧されて逃げ出すか、足を踏み入れたとしても冷静に目利きなどできなかったかもしれない。

 大きく深呼吸をしたカナタは、リッコと共に裏露店通りに足を踏み入れた。


「へいへい、兄ちゃんたち! 俺んところの商品を買ってけよ! 上質なものばかりだぜー?」

「どれどれ……うん、ダメ。次に行こう」

「はいよー」

「おい! てめえ、ちょっと待てよ!」

「おい兄ちゃん! それじゃあこっちはどうだ!」

「うーん……違う。次」

「はいはーい」

「ふざけんなよてめえ!」


 カナタは並んでいる商品の目利きをして希望の商品がなければすぐに立ち去る、それを繰り返して一ヶ所に長く留まらないようにする。買いもせずにただ長居するのはトラブルの元だと判断したのだ。

 その判断は正しく、さっさと立ち去れば別のところから声が掛けられて一つ前の店主は口をつぐんでいた。


「惜しい! 次に行こう」

「りょうかーい」

「惜しいってなんだよ! 惜しいって!」

「ねえねえ、兄ちゃん。おいらんところの鉱石、見ていかないかい?」


 ずっと大人から声を掛けられていたこともあり、突然の甲高い声に驚いて振り向いてしまう。


「……子供?」

「なんだい、兄ちゃん。子供が露店を開いていたらダメだってのか?」

「いや、そうは思わないけど。鉱石って言ったよね、見せてもらってもいいか?」

「はいよ! ちょっと待ってな! じいちゃーん! 金づるを連れてきたぞー!」

「か、金づるって」

「あはは! どうやらまんまと引っ掛かったみたいだね!」


 子供に客引きをして足を止めさせる方法だと今さらながらに気づいて、リッコに笑われてしまう。

 カナタも頭を掻きながら苦笑いを浮かべていたが、鉱石があるなら見てみたいと思ったのも事実だ。

 それに、子供が露店の店主ではなければそれなりの鉱石が見れるかもしれないとすら思い直していた。


「ほほほ。若いの、鉱石を探しているのかい?」


 すると、先ほどの男の子と一緒に白髪の老人がすぐ後ろの建物から姿を現した。


「はい。ここには何も並んでいませんが、商品はどこに?」

「儂は相手が提示する値段を聞いて、それにあった商品を提供しておる。どれ、元手はいくらあるんじゃ?」


 すでに交渉が始まっていると、カナタは即座に理解した。

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