第12話:カナタの目指す先
さすがに悪いと思いカナタは断ろうとしたのだが、リッコはこれが良いのだとナイフを離そうとはしない。それどころかこれでなければ納得しないとまで言い出してしまう。
「ちゃんとした鉱石を買って作るから!」
「ダメ! こっちの方が手に馴染んでくれるし、ナイフもそろそろ買い替え時だと思ってたのよー!」
「で、でもなぁ……鉄屑から作ったナイフだぞ? 本当にそんなんで良いのか?」
「これが良いの!」
「……はぁ。分かった、それじゃあお礼はそれでいいかな」
「ありがとね! カナタ君!」
「いや、お礼を言いたいのはこっちだって」
苦笑しながらそう口にするカナタだったが、本気で喜んでいるリッコの姿を見るとこれで良かったのかもしれないと思い始めていた。
だが、護衛として雇いワーグスタッド騎士爵領まで行くのであれば、道中でちゃんとしたお礼を渡すべきだろうなとも考えている。本来使う予定だったキラーラビットの魔石も残っているのだから。
「そうだ、リッコ。護衛依頼を出すには冒険者ギルドに行く必要があるんだよな。その、護衛依頼に必要な報酬の相場ってどれくらいなんだ?」
手持ちの2000ゼンスで足りれば助かるのだが、そうでなければどちらにしてもパルオレンジで稼がなくてはならない。
依頼を出す前に2000ゼンスを元手に鉱石を買い、作品を作って売りに出す。
時間が掛かれば宿代がかさんでしまうので、元手を増やす作業を手早く行う必要もあった。
「……ねえ、カナタ君。私、依頼とか関係なしにあなたをワーグスタッド騎士爵領に連れて行くわ」
「……はい?」
「だってさあ! カナタ君みたいな凄腕の鍛冶師が……鍛冶師でいいの?」
「さあ? ブレイド伯爵には錬金術を使ったのかって怒られたけど……錬金術を見た事がないんだよなぁ」
「錬金術ねぇ……それとも違う気がするんだよねー」
「リッコは錬金術を見た事があるのか?」
「あるにはあるんだけど、錬金術には錬金するものによって専用の魔法陣が必要なんだけど、それもカナタ君はないわけじゃない? だから錬金術とも違うような……」
二人して腕組みをしながら考え込んでいたが、分からない事を考えても答えが出るはずもない。
「……さしずめ、錬金鍛冶って事にでもしておこうかな」
そこでカナタがぼそりと呟いた言葉に、思いのほかリッコが食いついてきた。
「なんだか格好いいじゃないのよ! 錬金鍛冶!」
「そうか? 錬金術と鍛冶を中途半端にかじっただけの人間みたいに見えないかな?」
「見えたとしても作る作品が最高だったら問題ないじゃない! それじゃあ、カナタ君は世界で初めての錬金鍛冶師って事になるのね!」
「錬金、鍛冶師かぁ……まあ、そうなるのか?」
錬金鍛冶師という初めての響きに慣れるはずもなく、カナタは先ほどから変わりなく腕組みをしながら首を傾げている。
一方で錬金鍛冶師という響きを気に入ったリッコは早速これからの事を話し合おうとしていた。
「ワーグスタッド騎士爵領に行くには、どちらにしてもスピルド男爵領を通らないといけないわ。なら、明日にはパルオレンジを出発して二日目でスピルド男爵領に入る。そこからワーグスタッド騎士爵領までは大体三日は掛かるから、最短でも五日は――」
「ちょっと! 勝手に話を進めすぎだから!」
「え? 行かないの、ワーグスタッド騎士爵領?」
カナタの言葉にコテンと首を横に倒したリッコだったが、カナタが気にしているところは無報酬だというところだった。
「依頼関係なしはダメですよ! 言いましたよね、冒険者は慈善事業じゃないって!」
「まあ、そうだけどさぁ……それじゃあ、到着したら剣を作ってよ!」
「……いや、元からそのつもりですけど。キラーラビットの魔石も残ってるし」
「そうだったわね!」
「忘れてたんですか!?」
「いやー、ナイフが嬉しすぎてついねぇ……」
笑いながら頬を掻くリッコを見てカナタは大きなため息を付く。
しかし、そうなるとカナタは完全にリッコに対しておんぶに抱っこ状態となってしまう。
「……それじゃあ、俺にできる事ってないですかね? さすがに連れて行ってもらうだけだと、気が引けるので」
「カナタ君にできる事かぁ……うーん……そうだなぁ……」
「……その感じだと、なさそうですか?」
「……そうだねー!」
ガクッと肩を落としたカナタは、自分でできる事を考える事にした。
とはいえ、自分にできる事といえば新しく作り出した錬金鍛冶しかない。それを使ってリッコの役に立つ事となれば……。
「……よし、2000ゼンスを使って鉱石を買って、錬金鍛冶で作品を作り、元手を増やす。そしたら、旅の費用を俺が出せますよね?」
「でも、行き先は本当にワーグスタッド騎士爵領でいいの? 勝手に話を進めたけど、それだと私が行き先を決めた事にならない?」
「いいんですよ。ブレイド伯爵領は出るつもりだったし、関係の強いスピルド男爵領にはいられない。俺一人だったとしても、行き先はワーグスタッド騎士爵領になったはずだからな」
リッコ顔負けの笑みを返すと、そのリッコは苦笑を浮かべながら一つ頷いた。
「了解よ。ありがとね、カナタ君」
「まあ、錬金鍛冶が役に立つかは分からないけどね。それじゃあ、善は急げで早速鉱石を見に行きましょうか!」
「おぉーっ!」
カナタの言葉にリッコが返すと、二人はパルオレンジの市場に繰り出したのだった。
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