第11話:おかしな鍛冶の光景

 部屋に戻ったカナタは麻袋から一纏めにして別の袋に入れていた鉄屑を取り出した。

 それをテーブルに広げると一つずつ手に持ちながらぶつぶつと呟いている。


「……できるのかなぁ……初めてだし失敗もありか……でも失敗したら金がなぁ……」

「……ねえ、カナタ君。マジで何をするつもりなの?」


 全く想像がつかない状況にリッコが堪らず口を開く。


「あぁ、ごめん。俺も昨日気がついたんだけど、何故か鎚で何度も打たなくても鉱石が剣になるみたいなんだよね」

「……はあ?」

「……うん、そうなるよな。俺だって最初はそうだったし。とはいえ、実際にやったのがまだ二回だけで検証とかもできてないんだよ。だから、色々と不安なわけ」

「……ごめん。説明してもらったけど、意味が分かんない」

「百聞は一見に如かず。まあ、鉄屑でできるかも分からないけど」


 口で説明できる自信がないカナタは実際に見てもらう事にした。

 大きく深呼吸を繰り返しながら、最後に大きく息を吸い込むと両手で鉄屑に触れる。

 カナタの推測では、手で触れていなければできないと考えての行動だった。

 だが、触れている部分の鉄屑だけではなく、触れていない部分の鉄屑までも光を放ち始めた。


「え? ……えぇっ!? な、何が起きてるのよ!」

「えっと、これが俺の鍛冶って言えばいいのかな? とりあえず、見ててよ」

「……う、うん」


 驚きの声をあげるリッコを見ると、やはりおかしな光景なんだろうなとカナタは思う。

 自分が箱入りである事は理解しており、目の前の光景が他では普通なのかもしれないと心のどこかで思っていた。

 だが、リッコの反応を見るにおかしなものはおかしいのだと知る事ができた。


「……ん? それって、良い事なのか?」


 疑問が浮かんできたものの、自分が自分を疑ってはいけないだろうと切り替えて目の前の現象に集中する。

 鉄屑で作れるものと言えばナイフくらいだと、頭の中で想像する。

 鍔や柄も同一の素材で作らなければならないので一般的なナイフとは異なるが、今回は仕方がないと想像を強固なものにしていく。

 バラバラだった鉄屑がひとりでに動き出し、一塊になっていくのを見ていると不思議な気分になってくる。実際に操作している自分でもそうなのだから、見ているだけのリッコの頭の中はぐちゃぐちゃになっているかもしれない。


「……ナイフ……ナイフ……ナイフ……ナイフ……」


 頭の中で想像していると自然と口に出てしまっている。

 だが、そんな姿もリッコの目には映っていない。何故なら――カナタの鍛冶が終わりに近づいてきたからだ。


 ――カッ!


 過去二回の鍛冶とは違い、最後には強烈な光が発せられたのだ。

 最初にザッジの剣を作り出した時と似たような光だが、あの時は初めから強烈な光が放たれている。

 カナタもリッコも瞼を閉じ、光が収まるのを待ってからゆっくりと開いていく。

 そこで見たものは――カナタが想像していた通りの一振りのナイフだった。


「……で、できた……できたぞ!」

「ちょっとストーップ!」


 拳を握りしめて喜ぶカナタとは異なり、リッコは手を突き出して声をあげた。


「……どうしたんだ、リッコ?」

「どうしたんだ? ですって! カナタ君、今のは何なのよ! あんなの、初めて見たわよ!」

「いやー、実は俺もよく分からないんだよなぁ。昨日突然できるようになった感じで……」


 そこでカナタは昨日の出来事をリッコに説明した。

 目の前の出来事から、何故このような力に目覚めたのか自分でも分からないという事まで。


「検証とかも全くできてなくて、今もできるかどうか分からなかったんだよ」

「…………はああぁぁぁぁ。まあ、出来上がったからいいのかしら?」

「そういう事だよ! それにこれ……鉄屑から作ったとはいえ、なかなかの出来になっていると思うしね」


 テーブルに転がっているナイフを手に取ると、その出来を確認するカナタ。

 鍛冶師としての腕前は半人前だったものの、物の価値を測る目には自信があった。

 そのカナタから見ても出来上がったナイフは鉄屑からできたとは思えないナイフに仕上がっていた。


「……うん、これなら全然売れる!」

「へぇー。どれ、見せてくれない?」

「はい、どうぞ」


 手渡されたナイフを見つめながらリッコは一歩下がり、軽く素振りを繰り返す。

 何をしているのかとカナタは首を傾げながらその様子を見ていたのだが、一通り素振りを終えると満足したかのような笑みを受けベてこう言い放った。


「私へのお礼、このナイフでいいわよ!」

「……え? ええええええええぇぇぇぇっ!?」


 お礼のための鉱石を購入するためにと作ったナイフだったが、何故かそのナイフがお礼になってしまった。

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