第10話:パルオレンジ
パルオレンジは特産品がオレンジという果実だった事から付けられた名前である。
橙色の果実は甘みと酸味が共存しており、そのまま食すも良し、加工してジュースにしたり料理に使うも良しと、多方面に輸出を行っていた。
「これ、美味いなあ!」
「そうね! とっても美味しいわ!」
そして、二人はオレンジを使った料理を絶賛堪能中だった。
「お肉に果実を使うなんて最初は驚いたけど、気に入ったわ!」
「あぁ! 肉も柔らかいし、いくらでも食べられそうだ!」
こうして昼食を終えた二人は、食後のお茶を飲みながらこれからについて話し合うことにした。
「それじゃあ、ここでお別れになるわけだけど……カナタ君はこれからどうするのかしら?」
「とりあえず、ブレイド伯爵領は出るつもりだ。……たぶん、ブレイド伯爵もそれを望んでいるだろうしな」
「そっか。そうなると、そのまま西に進んでいくつもり? 西にあるのは確か……スピルド男爵領だったかな?」
「あー、スピルド男爵かぁ……」
そこで一つ思案するカナタ。
何故なら、カナタの父であるブレイド伯爵とスピルド男爵は金で密接につながっている貴族同士なのだ。
もしもカナタがスピルド男爵領で店を持ち、ある程度の成功を収めたりすると素性を確かめられる可能性が出てくる。そして、元ブレイド家の人間だと知られればブレイド伯爵に密告されるかもしれない。
「そこで成功を親のおかげとか言われると、腹が立って仕方がないなぁ」
「私には失敗するかもみたいな事を言っていたのに、自分は成功するつもりなのねー」
「……それくらいの覚悟がないとやってられないって事だよ。リッコも驚いていたじゃないか。あまりに急な展開だってな」
「まあ、確かにねー」
「がむしゃらにやれば多少は成功できるだろう。食うに困らない程度にはさ」
その程度の成功すらも親の、ブレイド家という名前のおかげだとは思われたくない。
ならば、さらにその先を目指すべきだろうとカナタは考えた。
「スピルド男爵領のさらに先ってなると……ワーグスタッド騎士爵領だね」
「ワーグスタッド騎士爵か……そことの関係は聞いた事がないなぁ」
「なら、そこに行けばいいんじゃないの?」
「簡単に言うけどさぁ、領を一つ越えた先だろ? 俺だけで向かうにはさすがに危険だろうに」
腕組みをしながら考え込んでいるカナタを見ていたリッコは小さくため息を付く。
「……全く。カナタ君は本当に箱入りなんだねー」
「どういう事だ?」
「カナタ君一人でって言うけど、それなら護衛を雇えばいいじゃないのよ」
「……護衛? リッコみたいな?」
そう問い掛けるとリッコはうんうんと頷いている。まるでそれが当然だと言うように。
「いいかしら、カナタ君。平民たちは何も全てを一人でやっているわけじゃないのよ? それはブレイド家でもそうだったんじゃないの?」
「それは、まあ。使用人もいたし、他にも色々と出入りしている業者とかもあったからな」
「なら、ワーグスタッド騎士爵領まで連れて行ってくれる護衛を雇えばいいのよ。そのために冒険者ギルドなんて組織があるんだからね」
パチリとウインクをしながらそう口にすると、リッコは自分を指差している。
「……それは、リッコに依頼を出せって言っているのか?」
「そういう事よ! それに、ワーグスタッド騎士爵領は私の故郷でもあるしね! 久しぶりに帰郷するのも悪くないし!」
「そうだったのか。……なら、案内も兼ねてお願いしようかな。えっと、冒険者ギルドで正式に依頼を出せばいいって事なのか?」
「そういう事ー! まあ、さすがに次はちゃんとした報酬で依頼を出してもらう事になるけどね」
「まあ、そうだよなぁ……」
そこでカナタは手元に残っているお金に思考を移した。
元々持っていた5000ゼンスは宿代と食事代ですでに2000ゼンスまで減っている。ここからリッコのために鉱石を買ってお礼を渡すとなれば、鉱石代だけで0になる可能性だってあった。
「……そんな金が、ない!」
「何か売れそうな物とかないの?」
「鉄屑を集めていたから、それで何か作れればあるいは……でも、そんな物で作った作品が高く売れるはずもないし、そもそも売り物にすらならないかも」
「あちゃー。さすがに私も慈善事業じゃないから無報酬ではなぁ」
「ですよねぇ。……まあ、とりあえずやってみるしかないかなぁ」
ダメで元々、本当にダメならリッコに護衛を依頼する事は諦める事にする。
そう心に決めたカナタは食事を終えると泊っている部屋へ向かうと告げた。
「部屋で鍛冶を? カナタ君、それはさすがに冗談がきつくないかしら?」
「俺の鍛冶……なのかは分からないけど、ちょっと特殊なんだよね。なんだったら、見てみる?」
「まあ、暇だしいいけど……変な事、しないでよね?」
「できるかあっ!!」
襲い掛かったところで殴り返されるのがオチであり、そもそも下心などないのだと強く主張する。
大笑いのリッコを伴い、カナタはやや強い足取りで部屋へと向かうのだった。
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