第4話:カナタの鍛冶……?
あまりの輝きに瞼を閉じ、光が収まるのを待つしかできない。
どれだけ瞼を閉じていただろうか、しばらくすると輝きが落ち着いていく様子が分かり、ゆっくりと瞼を空けていく。
周囲に視線を向けてみるが、特に何かが変わったという様子も見受けられなかった。
「……いったい、何があったんだ?」
何が起きたのかを思い返し、カナタは鉄のインゴットが光輝いたことを思い出して手元に目を向ける。
だが、そこにインゴットはなく、代わりのものが転がっていた。
「……あれ? これって、ザッジさんの剣じゃないか?」
足元に転がっていたのは、先ほどまでカナタが手にしていたザッジが打った剣。そのはずなのだが、おかしな点に気づいて首を傾げる。
「……なんで、二本も転がっているんだ?」
カナタが手に取ったのは一本のみ。
ザッジが来た時に三本持っていったが、その時に落としたという事もなかった。
ならば、足元に転がっている二本目の剣はどこから転がり落ちてきたのだろうか。
拾い上げて見てみると、二本目の剣はとても美しい光沢を放ち、長年放置されていた剣とは思えない。
どれだけ眺めていても、今まさに出来上がった剣のようにしか見えないのだ。
「……もしかして、さっきの光が、この剣を作ったとか?」
……あり得ない。そう思うしかカナタにはできなかった。
それは、カナタが鍛冶師として何度も鍛冶を行ってきたからだ。
ただ手で触れるだけで剣が打てる……ではなく作れるとなれば、世の鍛冶師から恨まれかねない。
窯に火を点し、鉄を溶かし、何度も鎚で叩き、成形して作り上げる。
言葉にするのは簡単だが、その工程を何度も繰り返すこともあり、さらに言えば灼熱の鍛冶場でそれを行うのだから多大に体力を消費してしまう。
一本の剣を打つだけでも相当な労力が掛かるのに、それが手で触れるだけで一瞬で出来上がってしまう事を考えると……。
「やっぱり、恨まれる未来しか見えないな」
この能力のことを隠しておくべきか、それとも誰かに相談するべきか。
だが、現状で相談できる相手などいないのが現実だ。
ヤールスは選択肢にすら入らず、ザッジも同じだ。
四人の兄たちはどうかと問われると、こちらも相談するに値しない者ばかり。
ヤールスのようにクズではないが、それでもカナタのことをよく思っていないのは理解している。
それは母親も同じであった。
「あの人は、ユセフ兄さんが大好きだからな」
母親のラミア・ブレイドは次期当主の長男であるユセフ・ブレイドが大好きだ。
大好きすぎて、家を飛び出してユセフの鍛冶屋へ毎日のように足を運んでは身の回りの世話をしている。
独身だからいいものを、これで結婚などしたら嫁姑問題が勃発するのではないかと勝手に思っている。
そして、ユセフへの興味が強いばかりに残り四人の弟たちには全くの無関心。
五男のカナタに至っては名前すら呼んでもらえない状態だった。
「……黙っていた方がいいのか? でも、この力があれば父上には認めてもらえるかもしれない」
結局、カナタの選択は省いていたヤールスになってしまう。
クズだと思っていても、カナタにとっては一人しかいない父親なのだ。
真剣に相談すれば、きっと真面目に答えてくれる。
そう信じて、カナタはブレイド伯爵家の館に戻っていった。
館までの道中、剣の納品が終わったザッジとすれ違った。
右手にはお金が入っているだろう袋が握られており、左手には酒瓶を握っている。
千鳥足が酷くなっているのを見ると、戻りながら酒を飲んでいるのが一目瞭然だ。
「……んあ? なんだ、五男坊か。掃除は終わったのか?」
「ある程度は」
「そっか。んじゃあ、俺は一眠りするから、この後からはうるさくするんじゃねえぞ」
お金が手に入り、酒も入っているからか、ザッジは上機嫌にカナタの肩を軽く叩いてから去っていった。
その背中を見つめながら、カナタは勿体ないと思いつつも館へと戻っていく。
館に入ると、そこには剣を見つめるヤールスの姿があった。
「……戻りました、父上」
「ん? なんだ、お前か。なんのようだ?」
横目でチラリと見ただけですぐに視線を逸らすと、興味がない感じで声を掛けてきた。
「父上に折り入って相談が――」
「すまんが、私も暇ではないんだ。相談なら師匠のザッジにでもするんだな」
「いえ、これは父上でなければならないのです」
「……言わなかったか、カナタ。私は忙しいんだ」
「お願いします。俺の相談に――」
「黙れ! 貴様のような出来損ないの話など、時間の無駄なんだよ!」
食い下がるカナタ目掛けて怒声を浴びせたヤールスは、三本の剣を抱えると自室へと引っ込んでしまった。
「……決めた」
少しでも父親を信じた自分がバカだったと悟り、カナタは一人決意したのだった。
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