第4話 ニュース
次の日、地元ニュースで昨夜の事件が流れました。
「昨夜会社員の男性が路上で襲われ、現場には犯人の物と思われるストラップが落ちていました」
私は画面を凝視しました。その次に自分のバッグを見ました。ストラップが、ないです。先日直人さんと旅行した時に直人さんがお土産として買ってくれたストラップです。直人さんはヒマワリ、私は桜のストラップを持ちました。お互いの誕生月の花のストラップです。これをお互いに持とうとお揃いにしたのです。
心臓が早く動いている音がします。変な汗も流れています。落ち着いて、よく考えて。今はオンラインの時代。ストラップはいつでもどこでも買える時代なのです。たとえあのストラップが県内に売っていないとしても、オンラインで買える可能性はいくらだってあるのです。
次の日会社に行くと直人さんが怖い顔をして私に聞きました。
「あのお土産のストラップ、つけてる?」
私はもちろん、と言いバッグを見ました。直人さんにストラップを見せる準備をしました。ストラップはもちろんついていません。私は探すふりをしました。ないのは知っているので焦る演技をしました。
「外れたのかな……落としたみたい」
私は焦って落ち込んだ様子で言い、直人さんに謝りました。
「犯行現場に?」
直人さんは変わらず怖い顔です。私はふざけることも否定することもできませんでした。百合絵さんの元夫が襲われたと、百合絵さんから聞いたのでしょう。沈黙は肯定です。直人さんはため息をつきました。
直人さんの悩みの元凶を消そうと思ったのにしくじった私。この女は駄目だ、直人さんの態度がそう言っています。直人さんの心が、私から離れてゆく……。
「技術部の天月、知ってるよね?」
私は
「天月は君のことが好きみたいだ」
「えっ」
いきなり何を言っているのでしょう。天月がどうして私を好きなのでしょう。
「俺は今、天月に脅迫されている」
直人さんはさらに混乱することを言います。
「携帯の調子が悪いと言ったら天月が見てくれると言った、あいつはそっち系が得意だからね。会社のパソコンに俺の携帯を繋いで何やら解析していると思ったらハッキングされた。俺の目の前でだ。そこで君とのメールも写真も見られたよ。それを妻に送ると脅された。条件は君と別れることだ」
何を言っているのでしょう。脅迫? ハッキング? そんなことが身近で起こるなんて思考が追いつきません。解るのは、天月は中身も気持ち悪い奴だということです。他人の携帯を直すなどと言い情報を盗むなんて犯罪者ではありませんか。しかも他人の恋路を邪魔するなんて、やっぱり馬に蹴られなくてはいけない奴は存在するのです。直人さんは私と別れたくないに決まっています、だから悩んでいるんです。
「この際だからはっきりと言っておく、俺は妻と娘が大事だから。それになんてことをしてくれたんだ、通り魔事件を起こすなんて。君が犯人なのは黙っているから別れてくれ」
直人さんの心が離れてゆきます。
私はその日からなりふり構わず尽くしました。お洒落を頑張りました。直人さんとつきあい始めてから私はスカートをはくことが多くなりました。今の状態で、それだけでは追いつかないと察しました。私はファッション雑誌によく載っているブランドの服を幾つかオンラインで注文しました。メイク用品もブランド品にしようと思います。
料理も今まで以上に頑張りました。私は昔から料理が得意なんです。将来結婚して理想の家庭を作りたいからです。美味しいごはんが並ぶ家庭はきっと幸せだと思っているからです。
直人さんにお弁当を作ることにしました。百合絵さんは時々お弁当を作りません。直人さんは時々社員食堂でお昼ごはんを買っています。
私は彩りと健康を考えたお弁当を作りました。人前で渡すと危ないのできちんと隠れて渡します。けれども直人さんは断りました。きっと今日は百合絵さんのお弁当を持ってきているのでしょう。大丈夫です、こんなこともあろうかと私は自分のお弁当を作りませんでした。社員食堂で済まそうと思っていました。なので直人さんのために作ったお弁当を自分で食べます。
お弁当を食べてもらえなかったので、せめて絵美ちゃんの安全を見守ろうと思い、早退して幼稚園に向かいました。
暖かい気候なのに外で遊ばないのでしょうか、園児はなかなか出てきません。辺りを見回すと【不審者目撃情報あり!】と看板が出ていました。いやだ、怖い。もしかして天月でしょうか。私と直人さんに嫉妬して、絵美ちゃんの存在を脅迫に利用しようとしているのではないでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます