第2話 髪は私を不快に変える

それにしても、今日はツイてない。この商店街には、サロンが二店舗あるのだが、二つとも人が一杯だったのだ。商店街の入り口にある「サロン・レ・シュヴ―」なんて三時間待ちだ。まったくもう、やってられない。


 だが、もう一店舗だけある。この商店街をずっと歩き続けた先の最果て。あの辺りも相変わらず人は多いが、金を使う気がある人はほぼいない。みんな一直線に自宅だけを見て歩く。八百屋の大きな声がむなしく響く。そんな場所。だから、あの店で髪を切ってもらっている人を、私は見たことがない。きっと今もガラガラだろう。もっとも、「サロン」ではなく「バーバー」だったかと思うが。


 しばらく歩いて、到着した。店の名前は、「バーバー・サトー」。


 名前がダサい。たとえいまが昭和でも、ギリギリアウトなんじゃなかろうか。それに、建物の方は全体的に古臭く、外からは店内の様子が全く見えないという様式だ。初めて来る客の不安を煽るための人類の悪知恵。そりゃあ人が来ないわけだ。


 今日はやめておくか、と一瞬だけ思ったが、さすがに髪を切りたい。もうかれこれ三か月も切っていないのだ。私の髪は伸びるのが早く、しかも一本一本が硬い。


 だから、三か月も放置してしまえば、それは不快さの塊と化してしまう。ここ最近の悩みやイライラは、十中八九、元を辿れば私の髪に行き着くと言っても過言ではない。こっちはもう我慢の限界なのだ。髪を切りたいというより、切らなければならない。私は、そう思わされていた。

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