第188話 セレスたちの知るエディンバラ

 結果――。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「ああもう、そんな謝らなくていいから!」

「頭を上げて下さい! 一番悪いの俺だから!」


 誤解は解けたはいいが、逆に何度もセレスさんから謝られて必死に止める。


 途中で森から帰ってきたゼロスが見なかったことにしてスルーしたり、窓からこちらを伺っていたマーリンさんが我関せずとカーテンを閉めたり、そんなカオスの状況。


 エリーさんと二人でセレスさんを慰め、ようやくなかったことになったので、そのまま彼女たちの家に入る。


「あれ、アークは出かけてるんだ」

「ええ。セティと二人で南の森に行ってるわ」

「セティさんと?」

「最近あの二人、仲が良いみたいで一緒に修行してるんです」


 飲み物を用意してくれたセレスさんがそう言いながら、楽しそうに最近の状況を語ってくれる。


 セティさん、一人でいることも好きそうだったから俺もそこまで関わってこなかったけど、アークとは結構相性が良いらしい。


 さっきセティさんとカーラさんはまだ島に馴染めていないなんて話をエディンバラさんにしたばかりだけど、もしかしたら俺の知らないところで交流をしていたのかもしれない。


――うーん……思い込みって良くないなぁ……。


 そのうち誰かを傷つけてしまうかもしれないから、気を付けよう。


「でも二人だけで森に行くのは結構危なくない?」

「ディーネ様やフィー様が一緒なので大丈夫みたいですよ」

「なんかアークのことを結構気に入ってるみたいでね、鍛錬に付き合ってくれているの。そこに強くなりたいセティが混ざって一緒に、って流れみたいね」

「へぇ……」


 たしかに、水の大精霊であるあの人が一緒なら安全だな。

 大精霊様の中だと、一番常識人だし、フィー様が一緒でも大丈夫だろう。


 定期的にスノウの様子を見に来ているが、いつの間にかアークたちとも仲良くやっているらしい。


 ――人の輪が広がって、良い感じだなぁ。


 最初はみんなこの島に来たときは、強すぎる魔物たちにどうすればいいのか悩んでいた。


 けど最近は、さっきのゼロスもだけど、一人でも自分の動ける範囲で修行をしたり、誰かと一緒になって森を回ったりして、活動範囲も広がっているみたいだ。


 なんて思っていると、南の空から強い力を持った存在が、凄い速度で近づいていることに気が付いた。


「この気配って……」


 俺の感知出来る範囲に入ったとほぼ同時に、セレスさんの家の前に着地。


「やっほー! セレスちゃん、エリーちゃん、遊びに来たよー!」


 そして勢いよく扉が開かれ、ミリエル様が元気いっぱいの声を上げる

 どうやらディーネ様たちのお気に入りがアークなら、ミリエル様のお気に入りはセレスさんとエリーさんの二人らしい。


 もう何度もやって来ているのか、勝手知ったる我が家のように入ってくる。


「こんにちはミリエル様」

「あれ、アラタ君だ! それにエディちゃんもいる! 二人がいるの珍しいね!」


 天真爛漫、という言葉と笑顔が似合う人だ。俺たちがいることでさらに瞳を輝かせる。


 セレスさんたちも特に驚いた様子がないので、これが普通なのだろう。

 ミリエル様はキョロキョロと周囲を見渡して、首を傾げる。


「スノウはいないの?」

「今日はティルテュやシェリル様とお留守番してますよ。あとで行きますか?」

「うん! あの古代龍の子も可愛いから、二人纏めてギュッって抱きしめてなでなでしちゃおっかなぁー。それにシェリルも可愛がってあげないと!」


 凄くワクワクしているが、多分スノウは逃げるだろうなと思った。


 別にミリエル様のことを嫌いなわけじゃないが、あの子は甘えん坊の割に思いきり構われると逃げる癖がある。


 ――まあミリエル様に抱きしめられているときのスノウの微妙な顔、凄く可愛いから助けないんだけど……。


「父よ。あまりそういうことを考えるとスノウに嫌われるぞ」

「あれ? 声に出てました?」

「顔に出てた。あの子は意外と勘が鋭いからな」


 スノウに嫌われるのは勘弁したい。でも可愛いスノウは見たい……。

 そんな風に悩んでいる俺を見たエディンバラさんが呆れた顔をしていた。


「まったく……子煩悩とはまさにこのことだ」

「いいじゃんいいじゃん! 子どもはなにしてても可愛いからねー!」

「ですよね!」

「……」


 ミリエル様に同意すると、またエディンバラさんに呆れた顔をされてしまう。


 この親馬鹿たちは……とでも思っているのかもしれない。

「ところで二人はセレスちゃんの家でなにしてたの?」


 そう尋ねられて最初の目的――セレスさんたちから見たエディンバラさんについて話をしてもらうことを思い出した。


 二人がエディンバラさんと出会ったのは、この島に入る直前。

 偶然他の七天大魔導の面々と遭遇し、目的地が一緒だったため共に行動していたらしい。


「そういえばレイナとゼロスが、三人を助けたって言ってたっけ」

「それはもう少し前の話ね。私たちが王国から指名手配されて、エディンバラの指示でカーラたちがやってきたのよ」

「私の指示?」

「ええ。あのときはどうして王国の依頼を受けたのかわからないけど……」

「たしか海洋都市で会ったとき、カーラさんがこう言ってましたね」


 ――聖女たちを追い詰めて最果ての孤島の情報を得るんじゃなかったでしたっけぇー? たしか最重要任務って話だったと思うのですけど……。


 七天大魔導が集まれば、王国を滅ぼすことも可能だと言われていた。


 もちろんそれはエディンバラという人の枠組みを超えた存在がいてこその話だろうが、そんな彼女たちが王国の命令を聞く理由などないはず。


 それでも聖女を探していたというのは、セレスさんが魔王ヴィルヘルミナを召喚した、という噂が流れていたかららしい。


「なるほど……やはり私は母を探してこの島を目指していたのだな」

「多分ね。とりあえず私たちから言えるのはこんな感じかしら」

「この辺りの話は、カーラさんかセティさんの方が詳しいと思います」

「ありがとう二人とも。参考になった」


 エディンバラさんがお礼を言うと、セレスは柔らかく微笑む。


「記憶を失う前の貴方はたしかに恐怖の象徴のような御方でした。ですがそれは孤独ゆえだったのかもしれませんね」

「……記憶戻ったら一発殴らせなさい。それで私たちを重力魔法で潰したこと、チャラにしてやるから」

「ああ……」


 過去、エディンバラさんとセレスさんたちの間には確執があったが、二人とももう引きずる気はないらしい。


――――――――――

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