第185話 記憶を辿る
「記憶を取り戻したら、師匠に決闘を挑むわ!」
「ああ。わかった」
そう言って二人は別れ、レイナは森へ修行に、エディンバラさんは俺と一緒に記憶を取り戻すために動き始める。
――なんか昔話みたいなこと思っちゃったな。
そんな適当なことを考えつつ、最初に訪れるのはマーリンさんの家だ。
本来なら一番友好的な態度を取るであろうゼフィールさんに尋ねるべきなのだが、彼は鬼神族の縄張りに作った自分の温泉を色々と作り替えているらしい。
相当拘りを持っているらしく、帰ってくるのは一週間後だそうで、それの邪魔はしたくないとのことだ。
「いらっしゃい。飲み物持ってくるから、そっちで適当に寛いでいて」
そう言われて女性らしいオシャレな内装の部屋で待つと、ハーブティーを持ってきてくれた。
「さて、昨日レイナから一通りの話は聞いたけど、本当に良いのね?」
「ああ。マーリンの知る過去の私を教えて欲しい」
「正直、聞いて楽しい話じゃないと思うけど……」
そう前置きしてから、彼女の知るエディンバラさんについて話し始める。
「私が貴方を最初に話したのは、十六歳。魔法学園で学んでいたとき」
「何年くらい前の話だ?」
「そこは今関係ないから」
「ん……」
エディンバラさんの質問はシャットダウンされた。
魔法使いは魔力によって肉体の老化を抑えることが出来る。
ゼロスやマーリンさんも二十代に見えるが、実年齢は五十を超えているってレイナも言ってたもんなぁ。
「学園で天才なんて持て囃されてたのが四人いてね。始まりの魔法使いが来た! 彼らなら弟子になれるかも! なんて学園は大騒ぎになったものよ」
「彼ら? マーリンさんはそこに入ってなかったんですか?」
「当時の私はどちらかと言えば引っ込み思案でね。目立つより一人で魔法の鍛錬を黙々とするのが好きだったのよ」
七天大魔導になるくらいだから、昔から魔法の才能もあったのは間違いないと思うけど、性格は今とはずいぶんと違ったらしい。
「学生たちはみんなエディンバラに魔法を見て貰おうと必死だったわ」
「そのときマーリンさんは……」
「私は自分から意見を出すこともなく、遠目で見てただけね。最強の魔法使いとかいうのにも興味なかったし。で、酷いのはここからだけど……」
言葉を切るのは、この話を出すべきかどうか悩んでいるからだろう。
エディンバラさんを気遣っているのはわかるが、そんな過去も含めて知りたいというのが彼女の希望だ。
「……続けてくれ」
いつも通り淡々とした声で言うと、マーリンさんは少し溜息を吐いてから言葉を続けた。
「貴方、邪悪な笑みを浮かべてこう言ったの」
――この場にいるお前たちで殺し合え。最後まで生き延びた一人に魔法を教えてやろう。
「え?」
「学生たちに囲まれて煩わしかったのか、それともただの遊びだったのか私にはわからない。ただ最初の一人が魔法を放った瞬間から学園は地獄に変わったわ」
エディンバラ・エミール・エーデルハイドの言葉は魔性の魅力を放ち、教師すら巻き込んだ殺し合いが始まった。
「今ここにお前がいるということは……」
「そう、生き延びたのは私ただ一人。天才なんて持て囃されてた四人も所詮学園内の話だったし、なにより最初に狙われてね」
「……」
「そうして最後まで立っていた私を見たエディンバラはこう言ったわ。なんだ、大して面白くもなかったな……ってね」
たった一言で魔法学園を地獄にしておきながら、冷たい瞳と表情で、心底つまらなさそうに言ったらしい。
それで学園は閉鎖し、マーリンさんも退学を余儀なくされたという。
「それ、マーリンさんは大丈夫だったんですか?」
「大丈夫じゃないわよ。この人、約束通り魔法は見た。これで終わりだ、って言ってどっか消えるし、家からは勘当されるし、周囲からは快楽殺人者扱いされるしね」
散々地獄を見たわ、とマーリンさんは軽く言うが、もし俺が同じ立場だったらと思うとゾッとする。
正直、想像以上の話だった……。
「お前は私を恨んでいないのか?」
「恨んでたに決まってるじゃない。でも色々と経験してこう考えたのよ。人の欲望には際限がなくて、自分の欲を叶えるには他者を蹴落とすしかない。食い物にされたくなければ、力を付けなきゃいけないんだって」
財力、権力、魔力。
誰にも負けない力があれば、泣くことはないのだと少女時代のマーリンさんは理解した。
「エディンバラは誰にも負けない力があった。だからあんな風に好き勝手出来た。なら私もそれを手に入れてやる。そう決めて冒険者になって、色んな国を回りながら魔法の鍛錬をしたわ」
次第に彼女の過去を上書きするように、魔法使いとしての名声が高まっていった。
長年旅をしてわかったことは、自分よりも才能のある魔法使いはいない。
それはたとえエディンバラでも……と思い七天大魔導に挑んだ結果――。
「ま、力の差を思い知らされた、って感じね」
「私が叩き潰してしまったのか」
「敢えて隠した部分を暴かない」
ギロッと睨んでくるマーリンさんの表情には、恨みや憎しみのようなものは感じられない。
エディンバラさんもどこか気安い雰囲気で、俺たちに向けるよりも距離の近さを感じた。
「あとは今の通りよ。七天大魔導の第五位、水聖のマーリン・マリーンとして権力も手に入れた私は、好き放題生きてきたってわけ」
「そういえば王子を寝取ったとか……」
「ちょっと、なんでそれ貴方が知ってるのよ」
前にゼフィールさんが言ってたから、とは言わず目を逸らす。
「……まあ、それはまた追求するとして――エディンバラはいつも誰にも興味がなく、だけどとても大切な物を求めているような瞳をしていた。この島に着いてそれがなくなったなら……欲しかった物が手に入ったからかもね」
「……」
彼女の欲しいもの。それがヴィーさんとの縁であることはわかる。
しかしそれなら記憶を取り戻しても良いはずなんだけど……。
「ま、これが私とエディンバラの因縁ってところね。それがこんな風になるなんて当時は思わなかったけど……」
マーリンさんは少し優しげな様子で、エディンバラさんを見る。
「今の貴方は昔みたいな冷たさもないし、嫌いじゃないわ」
「……ああ。私もだ」
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