第180話 結婚報告
翌日、俺はレイナとティルテュを連れて親しくしてくれた人たちのところを回る。
「というわけで俺、レイナとティルテュ、二人と結婚することになりました」
「「「おおおー」」」
神獣族でその宣言をすると、スザクさんがわざわざ全員集めてくれて拍手までしてくれる。
ほとんどの人がようやくかぁ、と口々に言っていくお祝いの言葉を言ってくれる中、エルガだけが顔を唖然とさせていた。
多分この間相談したばかりで、なにをどうすればそうなるのかと思っているのだろう。
少し離れたところで、ルナがとても嬉しそうに「良かったねー」とティルテュに話している。
ルナとエルガ、二人がいたから俺とレイナはこの島に馴染むことが出来た大切な友人だ。
あとでまた時間を作ってちゃんと話そうと思う。
神獣族の里から出て、鬼神族、古代龍族の子たちが集まっている場所に行き、先ほどと同じような説明をしていった。
翌日にはカティマたちアールヴに、そのまま大精霊様たちにも挨拶。
最後に南のハイエルフの里を巡って、自分の家に戻る。
昨日のうちに七天大魔導のみんなやアークたちにも話しておいたので、これでようやく落ち着きを見せた。
そうして今日は家族四人で一緒に寝て、みんなが寝静まった頃。
ふと窓の外から慣れた気配を感じて外に出る。
そこには満月を見上げながら宙に浮いているヴィーさんの姿。
彼女は俺に気付いて、いつも通り楽しそうに笑いながら地上に降りてくる。
「やあやあ色男。なかなか幸せそうでなによりだ」
「おかげさまで、と言っておきますよ」
「なんだその含みのある言い方は。全部私のおかげじゃないか」
まあ大雑把に言えば間違ってはいないのだけど、それにしてはちょっとやり方が強引すぎたんだよなぁ。
ただ本当に、ずっと躊躇っていた最後の一押しをしてくれたのは彼女のおかげだ。
「ヴィーさんには感謝してますよ」
「ん? おお、そうかそうか――」
「俺が死なないようにしてくれたんですよね?」
俺がそう言った瞬間、彼女の目が細まった。
その態度で、やっぱりそうかと確信を得る。
「いつから気付いていた?」
「この間、治療してくれたとき……というよりその後から強引に動いていたから、ですかね」
なんというか、ヴィーさんらしくなかったのだ。
俺の深層意識を除いてあの部屋を作ったと言っていたが、それならもっと彼女を楽しませられるようなことはたくさんあったはず。
その中であんなイチャイチャしないと出られない部屋なんて選んだのは、ただ趣味だけで選んだわけではなく、俺のことを気遣ってくれたからだろう。
「退屈が不死を殺す。それがヴィーさんの口癖ですもんね」
「……ふん。貴様がスローライフとやらを送りたいのは嫌というほど伝わって来たがな、私や貴様のような孤独な個体は存外脆い。貴様もどこかで感じていたのではないか? ああ、今日もいつもと同じ日常だ、と」
その通りかもしれない。
代わり映えのない穏やかな日常を望んでいて、その通りの毎日が過ぎていく日々を求めて、そして俺は――。
「その満足してしまっていた」
「満足は不死の毒だ。生き物には飢えが必要だ。我々のような単体で終わっている存在にはな、守るべき存在が必要なんだよ」
「それがレイナだったってことですか?」
今の言葉に関しては否定したい気持ちが強かった。
だってそれじゃあまるで、レイナは俺を生かすために神様から用意されたみたいに思えてしまうからだ。
俺が彼女を選んだのは庇護する存在としてではなく、ずっと傍に居て欲しいと思ったから。決して誰かに作られた選択肢を選んだわけではないと言い切れる。
「神はそこまで干渉しないさ。別に他の人間だろうが、あのハイアールヴだろうと良かった。レイナを選んだのは運命でもなんでもなく、貴様の意思で間違いない」
そう言うと、ヴィーさんは少しだけ優しく微笑んだ。
「だがティルテュやスノウは駄目だ。あれはあれで個体として完成し、守られる存在ではなく守る側の存在だからな。あれらとだけ歩んでいれば、貴様はそう遠くないうちに消えていた」
「……俺は死なないんですか?」
「この島にいて、守りたい者がある限りは。だがそれは貴様に限ったことではない。この島は外とは時空の流れが異なっているからな。レイナにしても他の人間にしても、ここから年を重ねるようなこともなければ成長することもなく……」
そこでヴィーさんは言葉を切る。
少しだけなにかを考えるように口元に手を当てると、首を振った。
「成長しないは嘘だったな。貴様がやって来てことで、止まっていたこの島の時間は動き出した。あとは本人たちが望むか、望まないか、それだけの差さ」
いつものように、なんとも抽象的な言葉。
彼女がそう言うのはわざとだと理解しているが、もう少しわかりやすく伝えて欲しい。
「まあ貴様は今を楽しめ。それだけでいい」
ヴィーさんは言うべきことは言った、と空を浮く。
そしてそのままいつものように、月に向かって消えて行った。
「正直、情報量が多すぎてついて行けないですよ……」
ただわかったのは、彼女のおかげで俺の抱えていた問題は色々と解決したということ。
あの人は自分のことを孤独な個体と言っていたけど、だからこそずっとこの島の人たちから少し離れて見守ってきたのだろう。
そうじゃないと、ああして他の種族の人たちみたいに守るべき存在もなく、たった一人で生き抜くことなんて出来ないのだから。
「……俺も、みんなを守れるようにならないとな」
前世で一度も経験したことのない、本当の意味での一家の大黒柱。
俺に務まるか不安もあるけど……。
「きっと大丈夫。レイナも、ティルテュも、それにスノウもこの島のみんながいるもんな」
そうして俺は戻る。
大切な家族が待っている、その場所に――。
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