第174話 大精霊の中へ
ブリュンヒルデさんの提案で、ミリエル様たちが北の地にやってくることになり、大精霊様たち一同が集まることになるわけだが、新たな問題が発生した。
それは、どこで会うか、ということだ。
シェリル様が住んでいる闇の神殿はその性質上、光の大精霊であるミリエル様が近づくと力が弱まってしまうらしい。
かといってグエン様の住処であるあの溶岩地帯で会うというのもどうなんだ? となり、結果的にジアース様の住処である荒野が選ばれた。
とはいえせっかくの再会なのにあまりにも殺風景すぎる。
本人たちはそれでも良さそうだが、今回はいちおう南の大精霊様たちが世界樹を守ったことに対する労いも兼ねているのだから、もう少し歓迎会らしい雰囲気にしたい。
「と、言う訳で今からみんなで喜んで貰えるように頑張ろう!」
「「「おおおー!」」」
「ワレの大地ガ……」
ジアース様の荒野の一部を借りて、そこをスノウの力で雪景色にしてもらう。
そしてティルテュやルナに今回の件の事情を説明し、ここまで来て貰い、みんなで雪祭りを開催した。
この一帯を雪で楽しい感じにしてしまおう、というものだ。
「明日にはブリュンヒルデさんが大精霊様たちを呼んで来るから、それまでに色々作ろうね」
「わーい!」
さっそく雪だるまを作っているスノウとミーアちゃん。
それにカティマたちアールヴの大人たちも一緒になって協力している。
「我らはすっごいのを作るぞー」
「おー!」
ルナとティルテュは今回二人で協力し合うらしい。雪を集めてなにか大きな建物みたいなのを作っていた。
「まさかこの年になって雪遊びに付き合わさせられるなんてね……」
「まああいつらには借りが多いからなぁ」
ゼロスとマーリンさんも協力者として呼ばれたであろう一緒みたい。
なんだかんだ、あの二人はいつも子どもたちの面倒を見てくれるよなぁ。
「どうして私がこんなことをぉ……」
「これも修行と思え」
「思えるわけないでしょー」
ついでに連行されたのか、セティさんとカーラさんも一緒らしい。
どうやらまだカーラさんはこの島に馴染めていないからか、セティさんが無理矢理連れてきたみたいだ。
まあ問題を起こすつもりはなさそうだし、これを機にもっと仲良く出来ればいいな。
「ははは、子どもの力には勝てませんな」
「あ、ゼフィールさんも来てくれたんですね」
「この辺りはまだ来たことがなかったので、見に来たのですよ。さらに北には溶岩地帯があると聞いてますし、あとで良い温泉がないか探そうと思っております」
それが楽しみなのか、とてもウキウキした表情だ。
七天大魔導の中だとゼフィールさんが一番この島を満喫してるよな。
「そういえばエディンバラさんは来てないんですね」
「ええ。なんでも最近、ヴィルヘルミナ様と一緒にやっているらしくて、二人でよくいなくなりますな」
「なんか言ってましたね……」
今までこれだけ念入りに準備をしてきたことはなかったので、嫌な予感しかしない。
間違いなくターゲットは俺とレイナなんだよなぁ……。
しかも今は家の人たちが全員こっちに来てるから、やりたい放題だし。
つい溜め息を吐いてしまうと、ゼフィールさんは少し愉快げに笑った。
「ははは。まああの真祖の方一人よりはマシな結果になる気もしますよ」
「たしかにそうかもしれませんね」
エディンバラさんは俺たちをからかうようなタイプでもないし、一番常識がある。
なにより過去のことがあるからか、ヴィーさんも彼女の言うことは結構聞くんだよな。
二人で適当に歩いていると、見え覚えのある黒髪の背中が見えた。
「グラムも来てるんだ。こっちに来るのは珍しいですね」
「どうやらサクヤ殿にお願いされて来たみたいですな」
「へぇ……」
サクヤさんの周りにはレイナやセレスさん、それにエリーさんが集まっていて華やかだ。
人の縁が繋がってきたのは嬉しいけど、一緒に来たアークとグラムは居心地悪そうにしていて、俺たちに気付くとホッとしたように近づいて来た。
結局、男四人で固まりながら適当にみんなを手伝いつつ、夕暮れ時にはほとんどが完成。
雪で作った人形や、大きな物になると城まで出来上がっていて、魔法って凄いなと思った。
そして俺たちはみんなでアールヴの村で休ませて貰うことになり、翌日――。
それぞれが自分の家に戻ったあと、ブリュンヒルデさんに連れられて、大精霊様たちがやってくる。
「うわぁぁぁ! 可愛いぃぃぃ! 嬉しいよぉぉぉぉ!」
雪景色を見た瞬間、ミリエル様が瞳を輝かせながら周囲を見渡す。
そしてそのままシェリル様を見つけると、凄まじいスピードで突撃していって――避けられてしまい雪の中に突っ込んだ。
「わぷっ⁉ ど、どうして避けるのシェリルぅ……」
「面倒だから」
「酷いよぉ。昔はママのおっぱい吸って大きくなったのにぃ!」
「そんな事実がないのに適当なこと言いふらすから離れたのよ!」
千年以上ぶりとは思えないやり取りをしていると、ディーネ様とフィー様がやってくる。
「ちょっとミリエル! 興奮しすぎよ!」
「だってぇ……ずっと会いたかったんだもぉん」
いつも通りフィー様に怒られていると、グエン様やジアース様もミリエル様からちょっと距離を取る。
自分に絡まれたら面倒だと思ってそうな表情だ。
「久しぶりだなシェリル。それにグエンとジアースも」
「ほんと、アンタも面倒になったらこっち来てもいいわよ」
「私までいなくなったら、あの二人を止められる者がいなくなってしまって、ハイエルフの子たちが大変だからな……」
ディーネ様は来てすぐ騒がしくし始めた二人を見て、呆れたように溜め息を吐く。
「おお、なんか悪いな」
「スマヌ……」
北側の大精霊様たちは一人で押しつけた形になっているからか、ちょっと申し訳なさそうだ。
「アンタたちも久しぶりね!」
「グエンー! 相変わらず可愛いねぇ!」
「俺が可愛いとか目ん玉穴空いてんじゃねぇのか⁉」
「ジアースも光沢が前より輝いてるよぉ!」
「ソ、ソウカ……?」
ターゲットをシェリル様から他の二人に変えたミリエル様に翻弄されながらも、なんとなく満更ではない空気。
千年ぶりとは思えないようなやり取りは、大精霊として強い信頼関係で結ばれてる気がした。
「……」
そんな様子をぼうっとした雰囲気でスノウが見る。
なにを考えているのかはわからないが、俺はなんとなくあそこがスノウの居場所なんじゃないかなと思った。
「行っておいで」
「……うん」
そうしてまだ誰にも踏まれていない雪景色を、スノウが進んでいく。
まだ幼い彼女だが、それでもその先にある大精霊様たちと同じ道が続いていて――。
「いつか、俺たちの傍から巣立っていくんだろうな」
だけどそれまでは、俺が守らないと。
六人の中に入った小さな少女は、笑顔で迎え入れられていた。
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