第169話 ブリュンヒルデの相談

 俺の身体がこの島で出来ているとわかったからといって、やるべきことは変わらない。


 転生させて貰ったときに特別な使命を与えられたわけでもないし、ただスローライフを満喫するという目的があっただけだ。


 そこに色んな人と交流をして大宴会を開きたいという夢が出来たけど、これは俺が自分で決めたこと。


 誰かに言われたわけでもなければ、そういう意思が働いているわけでもない。


「まあそもそも、大宴会を開くってことに対して世界の意思みたいなものが動く、ってのもなんだそれって話だしな」

「ぱぱ、またご飯のこと考えてるの?」

「みんなが笑顔になれることを考えてるんだよ」


 まだ朝早くて誰も遊びに来ていないから、スノウが一人で積み木をしている。


 そんな微笑ましい姿を眺めながら珈琲を飲みつつ、レイナが作ってくれている朝食を待つというのはあまりにも贅沢すぎる。


「これが幸せなんだよなぁ」


 積み木を完成させたスノウが俺の膝の上に乗ってきたので、その頭をワシャワシャと撫でる。

 少しくすぐったそうだが、嬉しそうだ。


「ぱぱはいつも楽しそうだよねぇ」

「スノウやママがいるからねぇ」

「スノウも楽しいよ! ぱぱもままもみんないるから!」


 嬉しいこと言ってくれる。

 こんな愛らしいスノウにもいずれ反抗期が来て、パパと一緒の洗濯物は嫌! なんて言われたら死んでしまうかもしれない。


 まさか俺が世のお父さんと同じようなことを思う日が来るとは、想像もしてなかったな。


 スノウの両手を掴んであっちに引っ張り、こっちに引っ張りとやってあげると、今度は俺の指を掴んで真似するように動かしてくる。


 なんでもないことだけど、これが楽しいみたいでご機嫌だ。


「みんな、か。そうだよね、みんな仲良くが一番だ」

「仲良くがいちばーん」


 本当になんでもない時間だが、これでいいよなぁ。


「またみんなで仲良くご飯を食べようね」


 そう言うと、指を動かすのを止めたスノウが見上げてくる。


「それって、ティルテュちゃんやカティマと一緒?」

「もっともっとたくさんだよ。ばぁばも、じぃじも、じいも、他の大精霊様や色んな種族のみんなと一緒だ」

「ミリエルちゃんたちも⁉」


 そう言った瞬間、スノウが瞳を輝かせる。


 そういえばミリエル様、結局ママとは呼ばれなかったんだ。

だいぶ粘っていた気がするけどスノウにとってママは一人だけだもんな。


「みんな一緒だね」

「やったぁぁぁぁ!」


 ぴょん、と俺の膝から飛び降りると、スノウはそのまま外に走り出してしまった。


 この辺で危ないことはもうないだろうし、周りにも色んな人の家があるから大丈夫だろう。


「あ、朝ご飯食べずに行っちゃった……まあ、そのうちお腹が空いたら戻ってくるか」


 そう思っていると珍しく家の呼び鈴が鳴る。


 鍵はかけていないし、この辺りの家の人たちやエルガたちは普通に入ってくるので、あまり役に立たない物だったのだが、いったい誰だろう?


「アラター、出てくれるー?」

「はーい」


 レイナは朝食の準備で手が離せないので俺が出て行くと、そこには神妙な顔をしたブリュンヒルデさんが立っていた。


「お父上、お願いがあってやって来ました」


 一先ず家に入れて座って貰い、レイナが朝食を出してくれた。


 元々このくらいの時間になったら子どもたちが集まってくるので、いつも多めに用意されているから、こうしたお客さんが来ても大丈夫にあっている。


 ブリュンヒルデさんは自分の分は必要ないと遠慮したが、カティマやエディンバラさんを見ていればハイエルフがお腹を空かないということはないだろう。


 南の森からここまで来るのにそこそこ時間がかかることを考えたら、朝食はまだ食べていないのはわかるし、遠慮なしに食べて貰うことにした。


「母上様、申し訳ありません……」

「気にしないでいいわよ。ほら、あの子たちだって勝手に集まってるし」


 普段使っているテーブルを大人たちが占拠しているので、いつの間にかやって来ていたルナやティルテュたちは子ども用テーブルでスノウと一緒にわいわいと食べている。


 あっちはあっちで楽しそうだけど、今の問題は彼女だろう。

 パンやスープと食べるとホッとした顔をする。どうやらなにか悩みがあるようだけど……。


「それでいったいどうしたんですか?」

「実は、ミリエル様たちのことなのです」


 そうしてブリュンヒルデさんが語ったのは、ここ最近ミリエル様の溜め息が多いということ。


 理由を聞いてもはぐらかされてしまうのでフィー様に尋ねたところ、どうやらスノウや他の種族の面々と仲良くなったことで、別れてしまった北の大精霊であるシェリル様たちともう一度仲良くなりたいと思ったらしい。


「なるほどねぇ……でもシェリル様たちと別れた理由って、ただ可愛がりすぎただけなのよね?」

「そう聞いていますが……それで千年以上もの間、離れ続けるかと言われると……」

「たしかに、なにかもっと理由があるのかも」


 実際、本当に会いたいのであればミリエル様が直接会いに行けばいいだけの話だ。


 それをしないということは、もっと根本的な理由がある気がするなぉ。

 うーん、と大人三人で悩んでみるが、そもそも聞かないとわからないことだから考えても仕方が無い。


「そしたら一度、本人たちに聞くしかないですね」

「そうなのですが……すみません。ハイエルフがアールヴの村に入るわけ――」

「え? なにか駄目な理由があるんですか?」

「それは……特にないのですが……」


 カティマを見ている感じ別に敵意を持っているような気配はないし、スノウみたいに新しい大精霊にも敬意を持っている。


 そもそもこの二種族って仲が悪いというより関わりが無いだけ、って感じがするんだよね。


 お互いのことを知らないというか、敵対する理由がないというか……。


 俺の夢のためにどこかの種族同士が仲悪いのって困るんだけど、かといって俺の自己満足のために押しつけるのも違うし……。


「ねえアラタ、貴方が一緒に行ってみたらいいんじゃない?」


 一緒に話を聞いていたレイナの言葉に、たしかにと思う。


 ブリュンヒルデさんは多分、今までの風習とか雰囲気とか、そういうのでずっと避けていただけなんだろう。


 だって実際ミリエル様は会いに行きたいわけなんだから、アールヴの村に行っちゃいけない理由はないはずなんだから。


「あの、生まれてからこれまでアールヴとは関わってきたことがなくて……それに北の大精霊様たちにお会いするのも恐れ多いというか……」


 とはいえ、さすがにその提案には彼女も腰が退けている。


 無理矢理連れて行くわけには行かないけど、それだと一生このままだもんな。


 それはそれで良くないだろうと思うし、なにより本心ではちゃんと自分の目で見たいと思っているような気がする。 


「スノウー、ちょっとこっち来てー」

「んー?」


 俺が呼ぶとスノウがちょこちょことやってくる。


「ばぁばたちのところに行くけど、一緒に来る?」

「行く!」


 シェリル様のところに遊びに行けると知って、スノウは嬉しそうに瞳を輝かせながら自分のリュックを取りに行った。


 戻ってくると、レイナが作ったリュックを開いて、なにを持っていこうか玩具とかを出しまくって悩んでいる。


「と、いうことで大精霊であるスノウの護衛に付いてきてください」


 理由があれば色々と心の中で言い訳が出来るだろうと思ってそう言ってみる。


「……ありがとうございます」

「いえいえ。それじゃあレイナ、ご飯食べたら行ってくるね」

「ええ。シェリル様たちによろしくね」


 定期的に大精霊様のところには行っているし、なんなら今の今週の見守り当番であるグエン様がどっかにいるはずだ。


 とはいえ、それを今ブリュンヒルデさんに言うより、直接挨拶に行った方が良いと思うので、今は黙っておこう。


「これを機に、大精霊様みんなが仲良くなれたらいいですね」

「はい。そう願います」


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