第168話 転生したら島でした

 ヴィーさんが言うには、俺の身体に異変が起きていたらしい。


 自分ではまったく自覚がなかったんだけど……?


「これはもう説明する気はなかったのだがな。この間言った通り、貴様の身体の一部は世界樹で出来ている」

「あ、そういえばそんなこと言ってましたね」


 俺自身、神様に転生させてもらった身体だしあまり気にしてなかったけど、いくら神様とはいえなにも無いところから作るのは無理だよな。


 その素材が世界樹だった、ってことなんだろう。


「一部ってことは、他にも色々あるんですか?」

「ああ。世界樹に限らず、この島の大地や海、あらゆるもので出来ていると言うべきか」

「……そうだったんだ」


 だからこんなに頑丈だったんだ。

 たしかに最強種が殺し合いをするために作られたこの島で作られた身体なら、怪我とか病気とかもしないよな。


 どれだけ彼女たちが暴れても、この島はずっと残っているくらいだし。


「あまり驚かないんだな」

「なんというか、納得の方が強くて」

「……いちおう気遣った私が馬鹿だった」


 そう言うとヴィーさんは呆れた顔。


 いやでもこの島の人たちから散々化け物扱いされてきたし、神様から貰ったチートボディだからなぁ。

 そもそも身体のことに関しては神様と直接話して出来た物だし、なにより転生させて貰うときに一生分以上驚いた。


 今更その理由を知ったところで、それで? って感じでもある。


「それで、俺の身体とさっきの行為になんの関係が?」

「世界樹を助けるために、貴様ニーズヘッグやその眷属に噛まれただろ」


 その言葉に、先日のことを思い出す。

 噛まれた。なんならその状態で思いっきり掴んでかなり引き摺ったりした。


「あれは世界樹の魔力を食らう魔獣だ。アラタ、貴様は気付いてなかっただろうが、だいぶ魔力を失って弱っていたぞ」

「え? そんな感覚はなかったですけど……?」


 でもたしかに悪意がないからとはいえ、今までならヴィーさんに襲われたときも耐えられた気がする。


「やはり自覚無しだったか……さっきまでのお前ならこの島の奴らでも殺せる状態だった。他のやつだとスザクとかは気付いていたみたいだが……」


 ブツブツと呟き始めるが、会話をしたことで冷静になった俺はそれどころじゃなかった。


「あの、ヴィーさん……まず服を着て欲しいんですが……」

「ん? ああ……いや」


 今気付いたと服を取ろうとして、その手を止める。

 そしてニタァと笑うと、そのまま持たれ始めてきた。


「さっきも言った通り、私はいいぞ。このまま続きをしてもな」

「俺がよくありませんから!」


 肩を掴み、そのままどかして立ち上がる。

 このままここにいたら、またあんな風に弄られてしまう!


「はっ」


 思わず窓を見る。

 いつものヴィーさんなら、ここでレイナなり誰かが来ているのを見越してこんなことを言い出すことを思い出したからだ。


 だが、外では俺たちのことなど誰も気付いていないように宴会が続いていた。


「どうした? ん? ん?」


 そしていつの間にか服を着た彼女は、俺がそんなことを考えていたことなどお見通しだ、と言わんばかりにニタニタと笑っている。


 完全に手玉に取られてる……。


「……勘弁してください」

「ははは、お前の面白い姿が見れただけで満足だ」


 そういえば、さっきの話が途中だったけど、その前に――。


「ありがとうございます。俺のこと、心配してくれたんですよね?」

「ん? まあ……せっかく美味しいご飯を提供してくれるやつらがいなくなるのは、な」


 素直にお礼を言うと、少しだけ照れたような顔。


 普段からこんな感じに受け取ってくれたら俺も安心出来るんだけど、まあ人を弄るのは生きるために必要なことだから仕方ないか。


「なんだその顔。言っておくがこっちはレイナと契約してるんだ。あまり舐めた態度取るなら考えがあるぞ」

「いや、それは本当に手加減してください」

「無理だな。今エディと一緒に色々と準備してるんだが、中々良い出来だぞ。ふふふ、楽しみにしておけよ!」


 真面目なエディンバラさんのことだ。ヴィーさんの言うことならだいたい聞いちゃうし、なにか変なことに巻き込まれてなければいいけど……。


 俺やレイナ相手にからかうのは普段からしているのに、今回はわざわざ契約なんてものまで持ち出してきたくらいだ。


 本当になにを考えているのか、不安で仕方が無い。

 そう思っていると、ヴィーさんが急に真面目な顔をする。


「それはそれとして、貴様の身体の話ももう少ししておくか」

「……お願いします」


 俺の身体か……さっきヴィーさんがこの島の大地とか世界樹とかで構成されているって言ってたけど……。


「この島で出来ているその肉体は基本的にはどんな攻撃にも耐えうる。それは何千年と生きてきた私が保証しよう。なにせこの神殺しの魔王を封じるために生み出された島だからな」


 たしかに、ヴィーさんを閉じ込めるために作られた島なんだから、壊されて逃げられたりしたら元も子もないもんな。


 それに鬼神族と古代龍族が暴れてもビクともしなかったし、前に俺と二人で戦っても壊れた部分はすぐに元通りに戻っていた。


 この島を壊そうと思ったら、それこそ島中の最強種を集めて一斉に破壊行為でもしないと無理なんじゃないかな?


「今まではなんとなく頑丈だなって思ってましたけど、そう考えると俺の身体が壊れることってなさそうですね」

「ただ絶対というわけではない。今回がその例だな。いくら頑丈でも、弱点になる存在が現れる可能性があるということだ」

「……なるほど」


 ニーズヘッグみたいに、世界を終わらせるために世界樹を削る役目を持ったような存在は俺の天敵らしい。


 退屈に飽きたラタトスクが余計なことをしたからニーズヘッグとかが動いたけど、本来あれらって神様が世界を終わらせるときまでは大人しくしてるって話だもんな。


「まあ今回は偶然みたいなものだが、いちおう覚えておけ」

「わかりました。ところで俺って、この島の化身みたいなものなんですかね?」

「魂の方は知らんが、まあそういう言い方も出来るかもな」


 転生系だと人間以外の色んなものに転生するジャンルもあったけど、実は俺って島に転生してたわけか。


 いやでも身体は人間だし、これはどっちで考えたら良いんだろ?


「なにかしょうもないことで悩んでないか?」

「いや俺って人間なのかなって?」

「あれだけ化け物扱いされてて、まだ人間扱いしてほしいのか貴様」


 呆れたような顔をしてくるが、そりゃそうだよ。

 生まれたときからずっと人間だったんだから、今更違う種族になりましたって言われてもすぐには考えも変えられないし。


 俺の言葉を聞いたヴィーさんは真剣な表情で考え込む。


「貴様が人間かどうか、か……まあそれを証明する手段がないわけではない」

「え? 本当ですか?」

「ああ」


 ニヤリととても悪い風に笑い、俺はなにかとんでもないことを聞いてしまったのではないかと焦りが生まれてくる。


「いや、ちょっと待って下さい。よく考えたらそんな気になるほどのことでもなかったです」

「よし。レイナとの契約もあるし、あれの準備を急ぐか!」


 笑顔になったヴィーさんはそのまま窓に手をかける。


「ちょ、待って――」

「じゃあなアラタ。いちおう病み上がりだから無理するなよ!」


 そして俺の制止を聞く気など一切無く、そのまま宴会の方へと歩いて行った。


「いったい、なにをさせられるんだ?」


 とにかく碌でもないことが起きることだけははっきりわかって、溜め息を吐くのであった。

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