第165話 男子会

 翌日、俺たちは女性陣には聞かれないように古代龍族の里にやって来た。


 目的地はグラムの家。


 メンバーは昨日話していた俺、アーク、ゼフィールさんに加え、エルガの四人だ。

 ちなみに情報を女性陣、具体的にはティルテュあたりに漏らしそうなゼロスは除外した。


 古代龍族は岩場に穴を掘って巣にしている。


 それはグラムも変わらず、ただティルテュの家に比べると家具なども揃っていて、整理整頓もされていた。


「なるほど……これがモテる男の部屋か」

「いや、兄貴が遊びに来てくれたのは嬉しいがよ。なんなんだいったい?」


 いきなり来て、しかも部屋をジロジロと見たせいかグラムがちょっと気まずそうな顔をする。


「実はみんなでグラムに聞きたいことがあって来たんだ」

「俺は強制的に連れて来られただけだがな」


 移動中に偶然やってきたエルガを捕まえたのは、貴重な意見を聞ける妻帯者だからである。


 どうやら普通に遊びに来ていたらしいので丁度良かった。


「昨日サクヤさんとみんなの見えているところでイチャイチャしてたよね?」

「っ――⁉ いや、別にそんなつもりは……!」

「あれだけ見せつけてくれて、今更だよ」


 俺の言葉に動揺しているが、やはり自覚があったのか追求すると段々と声が小さくなりながらも白状し始める。


 やはり俺が言ったとおり、普段二人きりでいるときよりも緊張感があって、同時にもっと一緒にいたい気持ちが溢れてきたという。


 ――やっぱり漫画の知識は偉大だったな。


 ちなみにそんなグラムの言葉を誰よりも真剣に聞いているのがアークだ。


「アラタさんの言ったとおりだ……あのグラムさん!」

「お、おう?」

「あの後、森の中に二人で消えて行きましたよね⁉ あれはなにをしていたのですか⁉」

「んな⁉ そんなところまで見てたのかよ⁉ あ、いや……別になにもしてねぇよ……」


 怪しい。怪しすぎる。

 俺がそう思ったように、アークもゼフィールさんも同じように思ってじっとグラムを見た。


「そりゃお前ら、懸想し合ってる男と女が二人で夜の森に消えたなら、やることは交尾に決まってるだろ」

「「「え……?」」」


 エルガの言葉を聞いた俺たちは一斉に言葉を失う。


 ちょっと今の言葉は、恋愛経験の薄い俺たちには刺激が強すぎるんだけど、まさか、本当に?


「いや話飛びすぎだろ! ちょっと手を繋いで歩いたあとキスしただけ……あ」

「「「今の話詳しく」」」

「なんだ、そんな程度か」


 三人で詰め寄るとグラムが逃げるようにエルガの背後に逃げる。


 しかしさすが妻帯者だけあって、エルガは余裕があるな。


 これからはエルガさんとでも呼ばせて貰おうか……。

 だって森で消えたら交尾するような男らしいし。


「そ、そもそも兄貴たちの方がすげぇことしてるだろ⁉ なんでそんな詰め寄ってくるんだよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、アークがたしかにと言いながらこちらを見てくる。


「いや、俺レイナとキスとかしたことないよ」

「う、嘘だ! だって毎日毎日あんだけイチャイチャしてんじゃねぇか! サクヤだってお似合いだって言いながらあんな風になりたいってよく言ってるんだぞ!」

「そんなこと言われても……出会ったときに溺れてたから人工呼吸をしたけど、さすがに数に入れたら駄目でしょ。そもそもそれならゼロスも含まれちゃうし……」


 俺がそう言った瞬間、その場の全員が固まる。

 そしてなぜか俺を置いて四人で集まり、話し合いが始まった。


 ――兄貴たちって恋人同士じゃなかったのかよ!

 ――いちおう本人はそう言ってますな。まあそれを信じている者はいませんが。

 ――つかスノウにパパとかママって呼ばれてる時点で、恋人以上だろ。

 ――普通にキスとか日常茶飯事なんだと思ってました……。


 全部聞こえてるんだよなぁ……。


「とりあえず! 俺のことはいったん置いておいてグラムのことだよ! キスまではしたんだね!」

「あ、兄貴ずりぃ!」

「ずるくない! さて、それじゃあアーク。この色男から色々と学ばさせて貰おうか!」


 話のすり替えに成功し、無事全員の視線が再びグラムに向く。


「そうですね! ちょっとエルガさんは今の僕には刺激が強すぎるので!」

「おい、なんでだよ……」


 森に入ったらいきなり交尾とか言い出す人の言葉は参考にならないからです。


 

 そうして男同士の集まりは盛り上がりを見せ、アークの相談内容も具体的な話になっていく。


 今日まであまり交流のなかったグラムとアークだが、こうした話をしていくうちに段々と打ち解けていって、年も近いからか二人の距離も近くなっていた。


「つまり、アークはエリーともセレスとも恋仲になりたいってことなんだよな?」

「えっと、どっちも大切だから離したくないってだけで……」

「どう思う兄貴? 俺は龍だから、欲しいなら捕まえろよってしか思えねぇんだけど」


 話を振って来られ、俺自身が色々と悩んでいるから若干言葉に詰まる。


「うーん……そもそも、アークたちが住んでた大陸でも重婚っていいんですよね?」


 たしか前にゼフィールさんがそう言ってたので聞いてみると、頷いてくれる。


「ええ。貴族であれば世継ぎを作るのは使命でもありますし、平民でも金に余裕があれば普通ですな」

「じゃあなにが問題なの?」


 俺みたいに地球の日本で重婚禁止って感覚があるなら問題だけど、そうじゃないなら良い気がするけど、なにが駄目なんだろう。


「セレスは聖職者ですから……神に操を捧げているので……」

「あ、なるほど」


 つまり、このままだとセレスさんは結婚出来ないから、エリーさんと二人で結婚して一人にしてしまうことを懸念しているのか。


 ただ、前にアークが酔っ払ったときの話を聞く限り、セレスさんも誘惑とかしてるみたいだし、問題ない気がするんだけどなぁ……。


「その辺りの事情は俺らにはわかんねぇが、神だっつーならそいつに許可貰えばいいんじゃねぇの?」

「エルガ?」

「一応俺らの長も神扱いされてたし、大精霊のやつらもそうだろ」

「あ……」


 そういえば、セレスさんは前に俺のことを現人神って言ってたし、そのあたりは結構柔軟かも。


「ま、待ってください! そもそも僕が二人に好意を持っているだけで、二人もそうだとは限らないので……」


 この後に及んでまだそんなことを言うのか。


 二人がアークに好意があるのは明白だし、話を聞く限りエリーさんは一緒にいることをきっと認めてくれるはず。


 というかそもそも、この島には人間が俺たちしかいないんだから、ルールだってこっちで決めても良いよね。


「相談に乗って欲しいって言ったよね。つまりアークはこの状況をなんとかしたいってことでしょ?」

「それは、そうなんですけど……」


 まああのときの言葉は酒に酔った勢いもあったんだろうけど、実際に今のモヤモヤした状況を打開したい気持ちは本物だろう。


「それじゃあさ、女性陣に二人の気持ちを聞いてきて貰おうよ」

「え?」

「レイナとサクヤさん、それにエルガの奥さんでリビアさんに頼んでさ。どうせアークの気持ちなんてみんなに筒抜けなんだし」

「筒抜け……?」


 俺が男性陣を見渡すと、うんうんと頷く。


 正直わかりやすい。まあそれはアークに限らず、女性二人も同じくらいわかりやすいけど、そこは建前とかも必要だろう。


「アークは勇者としてずっと頑張ってきたんでしょ? たくさん苦労もしてきたんだろうけど、ここで幸せにならないと嘘だからさ」


 だから全力で協力すると伝えると、ようやく彼は頷いた。

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