第162話 帰宅
レイナたちは一度家に帰り、俺はまだ一人でハイエルフの里に残ることにした。
せっかく大精霊様たちが復活したが、根本的な問題はまだ解決していないからだ。
大精霊様たちは世界樹に住んでいるらしいので、人でも住みやすい場所を案内してもらってテントを張り直す。
その作業中に、三人が復活する前の出来事を伝えると、それぞれが驚いた顔をした。
「それじゃあ、あのヴィルヘルミナがラタトスクを持って行ったのね」
「はい。調教して持ってくるって言ってましたけど」
少し困った顔のミリエル様を安心させるように説明するが、彼女の頭の上に載っているフィー様焦った顔で俺の前まで飛んで来る。
「あいつが関わったらヤバいわよ! 早く取り返しに行かないと!」
「うむ……あの真祖がまともなことをするとは到底思えんからな……」
一番落ち着いているディーネ様までそう言うので、如何にヴィーさんがいつも面倒を起こしているのかがわかる言葉だ。
まあたしかにあの人は退屈だと死んでしまうという言葉を盾に好き放題するけど、最近は変わったんじゃないかな。
どちらかというとかなり面倒見が良いというか、嫌がらせはするけど助けもしてくれるタイプというか……。
「好き放題言ってくれるじゃないか。今からまた闇の牢獄を解いて同じことをしてやってもいいんだぞ」
「「っ――⁉」」
上空からの声に大精霊様たちが警戒したように顔を上げる。
そんな面々に対しても不遜な態度は隠さず、ヴィーさんはラタトスクを肩に乗せたまま地上に降りてくる。
「お帰りなさい。早かったですね」
「本当はもっと痛めつけて従順にする予定だったんだがな。思ったよりこいつが根性なしだった」
ヴィーさんは指でラタトスクを弾くと一瞬地面に降りるが、すぐに身体をよじ登って元の位置に立つ。
まるでヴィーさんの肩から離れたら酷い罰を受けると思っているような顔で、どうやら本当に調教が終わっているらしい。
「さて、これで問題は解決するわけだが……こいつらが私を信じるかどうかは別の話だな」
ヴィーさんが鋭い目で大精霊様たちを見ると、フィー様とディーネ様の視線もまた少し険しく睨む。
昔から散々殺し合いをしてきたという話だし、スザクさんみたいに完全に割り切っている人もいればそうじゃない人もいるのだろう。
一触即発、という雰囲気が彼女たちの間で流れる。
このままだと良くないと思い間に入ろうとしたら……。
「ほらほら二人とも、せっかく助けに来てくれたヴィルヘルミナにそんな顔したらダメだよー」
俺より先に動いたミリエル様がフィー様を掴むと指先で頭を撫でる。
「ちょっとミリエル! 髪の毛が崩れるでしょ! 撫でるならディーネに――」
「よしよしよーし」
「きゃぁぁぁぁ」
フィー様は小動物を可愛がるようなミリエル様から逃げだそうとするが、見た目以上にがっつり捕まれているらしくて逃げ出せそうにない。
そしてディーネ様はこっそりと俺の背後にやってくる。
「ああなったミリエルは簡単には止まらないのだよ」
どうやらこれまでも同じようなことは何度もあったらしい。
ヴィーさんもそれを見て呆れたような顔をしているが、特に止める気はないようだ。
しばらくして満足したミリエル様が手を離すと、フィー様がこちらにやって来て俺の背中に隠れる。
「ちょっとアンタ! ミリエルにママって言ってみなさい!」
「それ言った瞬間すごい大変なことになる気がするやら勘弁してください」
ミリエル様は控えめに言っても見た目は子どもだ。
もちろん中身は違うとわかっていても、そんな子に抱きしめられて頭でも撫でられる光景は結構事案だと思う。
そんな彼女はヴィーさんに近づくと、柔らかい笑顔を見せた。
「ヴィルヘルミナも久しぶりー」
「はぁ。お前は相変わらずだなミリエル」
ミリエル様がこの島にいる大精霊様の中で一番古いってことは、ヴィーさんが殺し合ったこともあるんだよね……。
だけどわだかまりもないのか、思ったより険悪な雰囲気はない。
「んー……」
「なんだ?」
ミリエル様はヴィーさんの周りをくるくると周り、少しだけ不思議そうな顔。
「ずいぶん雰囲気変わったね」
「貴様と最後に会ったのも千年以上前だからな。変わりもするさ」
穏やかな表情を見せると、俺の背後にいたフィー様が頭に乗り上げる。
「何千年も変わらなかったのに! 何度も殺されかけたこと私は忘れないわよ!」
「フィー、今は黙っておけ」
「もぐ⁉」
ディーネ様から伸びた触手? のようなものがフィー様を掴むと、そのまま自分の方へと引き寄せた。
丸い水の身体をしているからか、クッションに乗せられているような体勢になって暴れている。
「相変わらずうるさいやつだ」
「フィーはそういう元気なところが可愛いんだよぉ」
「貴様は誰が相手でもそういうだろ……まあいい、ほら」
ヴィーさんは肩に乗せたラタトスクを掴むと、ミリエル様に投げる。
ミリエル様の手の中でブルブルと震えているラタトスク。あの短い間でいったいどんなことをしたんだろ?
「死ぬほど酷い目に合わせたから、言うこと聞くはずだ。もし聞かなかったらまた私に言うと良い。今度こそそいつを作った神もろとも滅ぼしてやる」
そう言った瞬間、ラタトスクがビクッと反応する。
そういえばヴィーさんは昔、神も殺したことがあるって言ってたし、もしかしたらここの魔獣とかも倒せたのかもしれないな。
まあ彼女からすれば、魔獣たちは自分のやるべきことをやっていただけで、悪いことをしてたわけじゃないから退治しないんだろうけど。
「……本当に変わったねぇ」
そんなミリエル様の言葉には反応せず、ヴィーさんはそのまま俺の方にやって来る。
隣でフィー様がバタバタとしているが、そっとディーネ様が離れて行った。
「貴様は楽しみにしておけよ」
「手加減してくださいね……」
ニヤリと笑うだけでなにも返事してくれないまま闇に消える。
いったいなにをさせられるのか怖くて仕方ない。
けどレイナやスノウのために動いてくれたんだし、出来るだけのことはしようと心に決めた。
「ミリエル! そいつしばくから貸して!」
「駄目よ。そんなことして、この子がまた悪い子になったら嫌だもん」
いつの間にか解放されていたフィー様がミリエル様にそんなことを言っていた。
どうやら今回の件、フィー様は許す気がないらしい。
とはいえ俺もミリエル様の言い分を支持したい。
正直今回の件は結構精神的にも疲れた、という理由もあった。
「フィー、それ以上はよせ」
「ディーネ、アンタまでそんなこと言うわけ! 元はと言えばコイツが余計なことを言いふらしたからみんな大変だったのよ!」
「千年も二千年もあれば、こういう日もある」
「むぅ……」
なんというか、やっぱりディーネ様の声には貫禄がある。
ミリエル様に対して強気だったフィー様も言葉に詰まっていた。
「皆さん、とりあえず今回はここで終わりませんか?」
「そうね。それでみんなで一緒に寝ましょ! ママが抱きしめてあげるから!」
さすがにそれは遠慮しつつ、闇の牢獄に捕らえていた他の魔獣たちを解放し、ラタトスクにこれ以上世界樹を傷つけることを止めさせるのであった。
ブリュンヒルデさんたちハイエルフのみんなからお礼を言われ、そして大精霊様たちからも同じように感謝され、俺はようやく里を抜けることが出来た。
「はぁ、今回はどっと疲れた」
本当はただ挨拶をするために向かって行ったのに、スノウがいなくなったり世界樹が大変なことになったりと、色々とトラブルが多かった。
まあ、おかげでティルテュとのわだかまりもなくなったし、みんなとも仲良くなれたけど……。
「レイナを泣かせちゃったな……」
幸い無事にスノウも戻ってきたけど、今後はこういうことがないように俺が守らないと。
だって俺は、神様からとても頑丈な身体を貰って転生させてもらったんだから。
そんな風に決意をしていると、家が見えてくる。
毎日見ている場所なのに、とてもホッとする光景だ。
日常に帰ってきたのだと思いながら、家の扉を開けると――。
「ぱぱだ!」
「おっと」
凄い勢いで居間から突撃してくるスノウを抱きしめ、その温かさを感じる。
そのまま抱き上げて居間に入ると、ソファから立ち上がったレイナが近づいてくる。
「アラタ……おかえりなさい」
スノウを抱きしめるようにレイナが俺に抱きついてきた。
それが照れくさく、だけど家族の温もりなんだよなと思うと愛しくもあり、そのまま受け入れる。
――ああ、もうこれは……。
レイナとスノウ、彼女たちをもう泣かせたくないし、離したくない
そんな気持ちが溢れてきて、これから俺がしないといけないことも自ずとわかってきた。
「ただいま」
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