第161話 南の大精霊

 そうしてしばらく、三人で抱き合っていると、他の三つの光も徐々に形作っていく。


 それぞれ大きさは違うが、どれも小さく、一番大きなのでもヴィーさんより少し小さいくらい。一番小さなのだと、掌サイズくらいで――。


「あぁ……ミリエル様、フィー様、ディーネ様……」


 ブリュンヒルデさんが歓喜の声を上げると同時に光が止む。

 一人はまるで天使の少女だ。白鳥のような銀髪と、腰には小さな翼が生えていて、白銀のドレスを着ている。


 もう一人は小さな妖精というのが正しいだろう。自然そのもののような黄緑色の髪に美しい半透明な羽が動き、宙を浮いている。


 そして最後は……。


「スライム?」


 まん丸水色の、一目見たら誰もがスライムというような形をしていた。


「みんな、心配かけてごめんね」

「っ――⁉」


 天使の子が前に出ると、ブリュンヒルデさんが慌てて神に忠誠を誓うよう膝をつく。


 同時に他のハイエルフたちも同じように頭を下げ、この子たちが南の大精霊なんだと再認識した。


「謝らないで下さい! 我らの力が足りなかったばかりに、大精霊であるミリエル様たちに多大なご迷惑を……」


 謝罪の途中、天使の子がブリュンヒルデさんの頭を抱き締めた。

 まるで子どもを慰めるように、よしよしと頭を撫でる。


「ヒルデたちは頑張ったよ。こうなる前に私たちがちゃんとシェリルたちと話し合えてれば良かったの」

「ミリエル様……いえ、そんなことは……私たちが」


 納得がいっていないようで自らを卑下するような言葉を言おうとした瞬間、妖精がミリエルと呼ばれた天使の子の頭の上に乗る。


「はいはい謝り合いはもうお終い!私たちも無事だったんだしもういいでしょ! こういう湿っぽいのアタシは嫌い!」

「フィーの言う通りだ。問題が解決したわけではないが、こうして無事に再会出来たのだからこれ以上自分を傷つけ合うのは止めるといい」

「フィー様……ディーネ様……」

「二人の言う通りだね。というわけでみんな頑張った! ってことで頭なでなでしてあげる!」


 ミリエル様が膝をついているハイエルフの人たちを順番になで始める。


 妖精がフィー様で、スライムっぽいのがディーネ様かな?


 たしか南側の大精霊様は光と風と水のはずだから、それぞれがそうなんだろう。

 ミリエル様の頭の上に乗ったフィー様が呆れた様子だが、どこか楽しそうだ。


「すまんな。ミリエルはああなったら止まらないから、少し待っていてくれ」

「あ、大丈夫ですよ。俺はアラタって言います。えっと、貴方が水の大精霊様ですか?」

「うむ。ディーネと言う。此度の件、我が子たちを助け、そして我らを救ってくれたこと誠に感謝する」


 見た目はスライムなのに、なんというか貫禄のある声だ。言葉遣いもなんというか物語で見るような騎士みたいで、凄く格好良い。


 雰囲気は少し大地の大精霊であるジアース様と近いが、あの人は少しギャグっぽいところがあるからなぁ……。


「……なるほど。神がどんなものを生み出したのかと思ったが、これならニーズヘッグたちを退けられたのもわかる」


 身体の中央に一つだけある瞳で真っ直ぐ見つめられながら、そんなことを言われる。


 聞き返そうと思ったら、頭の上になにかが乗った。


「アタシはフィーよ! アンタやるじゃない! お礼言ってあげる!」

「フィー、礼とはそんな上から言うものではないぞ」

「いいの! だってアタシは大精霊よ! 偉いんだからお礼を言うときも上から言うの! アンタ名前は⁉」

「アラタですよ」

「あははー! アンタとアラタって似てるわね! 呼びにくいわー!」


 頭の上から少し甲高い声でそう言われると、ちょっと頭に響く。


 とはいえ悪気があるわけではないみたいなので、されるがままにしておこう。

 などと思ったらディーネさんから水色の触手が伸び、俺の頭の上にいたフィーさんを捕らえて自分の頭の上に置いた。


「あ! ディーネなにすんのよ!」

「これ以上の狼藉は大精霊としての品格を下げるから止めるのだ」

「品格とか関係ないじゃない! 大精霊は大精霊! アタシたちがやることがそのまま大精霊の品格そのものよ!」


 二人はそのまま言葉の応酬を続けるが、それを見ているだけでなんとなく二人の性格や関係性が見えてきた。


 スライムの見た目のディーネ様は、きっちりとした真面目なタイプ。それで妖精のフィー様は自由奔放って感じかな。


 どちらにしても、好意的に接してくれるようで良かった。


 それに、言い合いをしていても仲の良さを感じられるので、どちらかというとじゃれ合いをしているようだ。


 しばらくそんなやり取りを見ていると、ハイエルフたちを慰めていたミリエル様がこちらにやってきた。


「お待たせー。フィーの声がちょっと聞こえてたけど、アラタ君であってるよね?」

「はい。ミリエル様」

「もっと気軽にミリーちゃんとかママって呼んでも良いんだよ?」

「えーと……」


 いきなりそんなことを言われても、初対面でその呼び名はちょっと困るな。


「気にしなくていいわよ! ミリエルったらいつもこんな感じだから!」

「そうだな。誰に対しても母を名乗りたがるから、無視して良い」

「ええー。私はみんなのママなのにー!」


 そうして三人で仲良く話し始め、置いてきぼりにされてしまう。


 おかしいな。前にシェリル様から聞いた感じだと、南の大精霊様は真面目過ぎるとかだったはずだけど、普通に北の大精霊様たちと同じくらいフランクだ。


 レイナとカティマも想像と違っていたらしく、驚いて言葉が出なさそうだった。


「さてっと。アラタ君にはお礼をしないとね」

「あ、いえ本当に気にしないで下さい。俺はスノウを助けたかっただけなので……」

「ああ、そうそう! この子! 可愛い可愛い新しい大精霊!」


 ミリエル様はレイナに抱っこされて寝てしまっているスノウに近づくと、マジマジと二人を見つめる。


 悪意はないのだろうが、突然力の強い大精霊様に近づかれたレイナは焦ったようにスノウを抱きしめる力を強くした。


「あぁぁ、かわいー! 生まれたての大精霊を見たのはこれで六回目だけど、やっぱり何度見てもかわいいー! あー、生きてて良かったぁ!」


 ミリエル様はスノウをキラキラとした瞳でレイナの周りをうろうろとし、スノウを見て頬を緩めていた。


「というか、六回目?」

「ミリエルは今いる大精霊の中だと最古だからね! 自分のことをみんなの母親だと思い込んでるのよ!」

「思いこんでるじゃないよ! 私はみんなのママなんだから!」


 フィー様の言葉に反論するが、俺はそれを聞いて疑問に思ってしまった。


「最古?」


 見た目は子どもっぽく、どちらかといえばシェリル様の方が年上に見えたんだけど。


「ここにいないシェリルもグエンもジアースもねー、生まれたときはとっても可愛かったんだよー。今はシェリルの反抗期で離れちゃったけど……あんなに愛情注いだのにぃ……」


 過去を思い出したのか、ミリエル様が泣き出し始めてしまう。

 それを慰めるためか、フィー様が近づいて――。


「アンタの愛情重いの!」

「そんなぁ……」


 慰めるどこか追撃だった。


 しかし、たしか大精霊様が生まれるのって千年周期で、スノウが生まれたってことは他の三人は千年以上前から向こうにいるはずで……。


 反抗期って言うには長すぎないかな? と思ったが、なんだかちょっと凹んでいるミリエル様に対して追い打ちになる気がしたのでそれを言うのは止めておこう。


「ちなみに、大精霊の生まれた順番としては、ミリエルが最初でその次はフィーだ」

「そうなんですね」

「うむ。そのあとにシェリル、私、グエン、ジアースの順番だな」


 なんとも意外な順番だった。


 ワイワイとやっている二人を見ると、シェリル様やディーネ様の方がしっかりしているように見えるし。


 ティルテュやエルガたちも同じことを考えたのか、俺と同じ顔をしていた。


「ああ見えて、あの二人は誰よりも世界樹やハイエルフたちのことを考えているのだよ」


 表情から考えていることを読まれたのか、ディーネ様は苦笑しながらそう言う。


 ブリュンヒルデ様たちにあれだけ慕われているのを見る限り、きっとそうなのだろう。


 もしかしたらシェリル様が言っていた真面目過ぎるって言葉も、そういうところを指しているのかもしれないな。


「もう! ほら、アラタたちにお礼をするんでしょ!」

「そうだった! ねえねえアラタ君! なにが欲しい⁉ ママたち頑張っちゃうよ!」


 話が戻ってしまったが、本当にお礼とかはいらないんだよな。

 この島で散々みんなに助けられてきたから、持ちつ持たれつの関係で良いんだけど……。


「あまり深く考えなくても良い」

「ディーネ様……?」

「ただ助けて貰ったからなにか感謝したい。それは普通のことだろう?」

「そうですね。それじゃあお願いしたいことなんですけど――」


 俺がいつか大宴会を開いたとき、来てみんなで一緒に楽しんで欲しい。

 そう頼むと、ミリエル様は笑顔で頷いてくれた。

――――――――――

【あとがき】

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